何色にでも染まれるように
「亜白」という名前には、静かな願いが込められている。
「亜」は、本名から一文字。祖父がつけてくれた大切な名前から取った。そして「白」は、何色にでも染まれるように。
たくさんの色を使って絵を描く自分だからこそ、どんな色も使いこなせるように。
名前を聞いただけで、この人の描く世界をもう少し見てみたくなる。
鹿児島市鴨池を拠点に活動する亜白さんは、2024年から本格的に作家活動をスタートさせたアーティストだ。
女性をモチーフにした作品、自画像のような作品、どこか感情の奥を覗き込むような絵。
綺麗なだけでは終わらない。
「何を感じて描いたんだろう」
そんな余白がある。
だから、気づけば見入ってしまう。

名 前:亜白(あしろ)
活 動:鹿児島を拠点に活動するアーティスト/作家
居住地:鹿児島市鴨池
活動内容:アナログ作品制作、個展、ライブペイント、アート植物ブランドの立ち上げなど
大切にしている言葉:継続は力なり
チラシの裏から始まった、ひとり遊び
幼い頃から、ずっと絵を描いていた。
母が絵を描く人で、家には自然と画材があった。まだチラシの裏が白かった時代、色鉛筆と紙があれば、それだけで夢中になれた。
台風の日も、遊ぶ相手がいない日も、ひとりで絵を描いて過ごした。
南さつま市で過ごした幼少期は、自然の中でのびのびとしたものだったという。
草むらで遊び、虫を触り、川で遊ぶ。
けれど小学校6年生で鹿児島市内へ転校すると、世界は一変した。
放課後に友達とマックへ行く文化。きらびやかな空気感。自然の中で育った少女にとって、それは少し戸惑う世界だった。
「草むしって遊んでたのに」
そう笑う。
転校後は少しおとなしくなった。それでも、絵だけは変わらなかった。
昔からずっと、描くことだけは続いていた。

生きるために描いていたのに
高校時代、絵の意味が変わった。
それまでは、ただ楽しいから描いていた。
けれど人間関係に悩み、学校生活に馴染めず、美術室へ逃げるように通うようになった。
絵は「楽しいもの」から、「苦しさを外へ出すもの」へ変わっていく。
クラスで感じていた孤独。集団生活への違和感。「どうして自分は普通にできないんだろう」という葛藤。
それを直接描く勇気はなかった。
でも、絵には滲んでいた。
ある時、美術の担任でもない先生から言われた。
「一番いい絵だった」
その言葉は、今でも忘れられない。
苦しかった感情が、ちゃんと誰かに届いた気がした。
しかし同時に、美術部での活動は次第に苦しくなっていく。公募展。賞。審査員受けする絵。
「この構図は受けないんじゃないか」
「この色は評価されないんじゃないか」
気づけば、自分のために描いていた絵が、“誰かに評価されるためのもの”になっていた。
「生きるために描いていたのに」
その違和感は、少しずつ心を削っていった。
高校3年生、最後の作品を描き終えたあと、亜白さんは、絵を描くことをやめた。
そこから9年間、一切描かなかった。
それでも、画材だけは捨てられなかったという。本当に終わったものは、人は捨てられる。
捨てられなかったということは、きっと心のどこかで、まだ終わっていなかったのだ。

電子の海に流した作品が、居場所を連れてきた
転機は2024年9月。
ある日突然、「絵が描きたい」が戻ってきた。構図が頭から離れない、仕事中もずっと浮かぶ。
久しぶりに描いた作品を友人に見せると、こう言われた。
「SNS始めればいいじゃん」
亜白さんは戸惑った。
「人様に見せるような絵じゃない」
すると友人は言った。
「絵の価値は、あなたが決めるんじゃなくて、見る人が決めるんだから」
その言葉に背中を押され、Instagramを開設。
作家名を決め、作品を世に出し始めた。もちろん最初から大きな反響があったわけではない。
でも、自分の作品が“電子の海”に流れていく感覚が嬉しかった。
どこかで誰かが見てくれている。それだけで、安心できた。そこから出会いも増えた。
個展、ライブペイント、アーティストとの交流。
「自分の居場所がもう一つ増えた感じがした」
そう話す表情は、とても穏やかだった。
個展前には、100日投稿を目標に毎日SNSを更新した。
苦手でも続けた。
すると、少しずつ見てくれる人が増えた。
だからこそ、今の彼女が一番大切にしている言葉は、「継続は力なり」。
9年間止まった人だからこそ、この言葉には重みがある。

鹿児島の日常に、アートという選択肢を
亜白さんは、鹿児島にもっとアートが身近になってほしいと願っている。
美術館、演劇、音楽、展示。
心を潤すものは、なんぼあってもいい。
「日常の中に、アートがあるっていいなと思うんです」
カフェに飾られた絵。ふと見かけたライブペイント。休日に絵を見に行くという選択肢。
そういう“日常の彩り”を増やしたい。
現在は、ライブペイント活動にも力を入れている。
描いている過程を見るワクワク感。
「何ができるんだろう」
そうやって人が集まる空間が好きだという。
さらに現在は、“アート植物ブランド”の立ち上げにも挑戦中だ。
植物をモチーフにした、新しい形のアート。
2年後には軌道に乗せたいと語る目は、すでに未来を見ていた。
5年後の自分に声をかけるなら。
「決めたことを全力でやってください」
そして未来の自分に聞きたいことは、ひとつ。
「今、幸せですか」
きっと彼女は、その答えをこれから自分で描いていく。

未来へ渡したいもの、誰かの明日へ
新社会人へ向けて、亜白さんはこんな言葉を残してくれた。
「新社会人の人たちが不安なように、実は会社の先輩たちも不安なんです」
これを言った時、妙にリアルだった。
今の時代は特に、「これ言ったらダメかな」「どう接したらいいかな」と、お互いが探り合っている。
新人だけが緊張しているわけじゃない。
先輩も、上司も、実は不安なのだ。
だからこそ、必要以上に“会社ってこういうものなんだ”と構えすぎなくていい。
「一歩踏み出してみてほしい」
そう亜白さんは言った。
うまくやろうとしすぎなくていい。
まずは会社へ行って、働いて、帰ってくる。
それだけでも十分すごい。
その言葉は、綺麗事ではなく、ちゃんと苦しさを知っている人の言葉だった。
亜白さんにとって善人とはどんな人か。そう尋ねると、こう答えた。
「まず、自分のことをちゃんと愛せる人」
自分を大切にできる人は、周りにも優しくなれる。
余裕がなかった時、自分も周りに当たってしまったことがあった。
だからこそ、まずは自分を整えることが大事だと思う。
その考え方は、彼女の絵にもどこか似ている。
無理やり誰かを変えるのではなく。まず、自分の中に色を取り戻していく。
その色が、少しずつ周りへ広がっていく。
日常に、少しの彩りを
これを読む多くの人にこんなメッセージをくれた。
「皆さんの日常の中に、少しでも彩りを与えられたらいいなと思って絵を描いています。
私はアナログで絵を描いているので、SNSで見る絵と原画はまた違います。
休日の選択肢のひとつとして、絵を見に行く機会を持っていただけたら嬉しいです」
画面越しでも伝わるものはある。
でも原画には、きっと呼吸がある。
鹿児島に、亜白というアーティストがいる。
その絵を、ぜひ一度見てほしい。

インタビュー後記
インタビュー中、ずっと疑問だった。
この人、めちゃくちゃ“柔らかい”のに、芯が折れていない。
いや、むしろ一回折れたからこそ、変な硬さがない。
とても9年間描かなかった人の話とは思えなかった。
普通、9年止まると怖くなる。
「もう遅いかな」とか、「今さらかな」とか、人はだいたい余計なことを考える。
でも亜白さんは、描きたくなったから描いた。
SNSを始めろと言われたから始めた。ライブペイントをやりたいからやる。
びっくりするほどシンプルだ。
でも、その“シンプル”が一番難しい。
あと個人的に、「電子の海に作品が流れる安心感」という言葉が好きだった。
なんだそれは。なんだその表現。詩人か。私よりうまいじゃないか。
私は普段、電子の海に流しているのは締切ギリギリの記事くらいなので、同じ海でもえらい違いである。
でも、きっと彼女の作品は、こうやって誰かの夜を少し救っているんだ。
大げさじゃなく。
コンビニ帰りとか、仕事終わりとか、眠れない夜とか。
そんな時にふと見て、「なんかいいな」って思えるものって、人生には必要だ。
確実に人の心へ色を置いていく人がいる。
鹿児島に、そんなアーティストがいた。
お問い合わせ
亜白
鹿児島県鹿児島市鴨池
Instagram
アナログ作家の亜白
▶️@pipi.pioekaki
亜白の日常を綴る場所
▶️@ashiro_mellow_diary
*お電話相談の際、『区民ニュース』の記事を読みました。とお伝え下さい。