善人承継 リレーインタビュー
壊れた日々も、全部燃料にしてきた。――“明るく歩く”を体現する、井料明歩という生き方。
合同会社Chinjuuuuu/ブランド「和繼」 代表・表現者 井料 明歩 (いりょう あきほ) さん インタビュー

“明るく歩く”という名前に込められたもの

井料明歩――その名前には、「まっすぐ未来へ、明るく歩いていく」という意味が込められている。


妹との名前の組み合わせから生まれたというその言葉は、まるで彼女の人生そのものを予言していたかのようだ。


千葉県木更津市で生まれ、幼い頃に鹿児島・霧島市へ。温泉郷のある自然豊かな土地で育ちながら、彼女はどこか少し“普通ではない”子どもだった。


知らない子どもではなく、その親に話しかけて仲良くなる――そんなエピソードが残っている。


「外堀から埋めるタイプだったみたいです(笑)」


その言葉に、彼女の人懐っこさと、どこか戦略的な感性がにじむ。


幼い頃から歌うこと、書くこと、表現することが好きだった。しかし、その才能は一度、彼女自身の手で封じられることになる。


名  前:井料 明歩(いりょう あきほ)

活動名:らぁ

出  身:千葉県木更津市(育ちは鹿児島県霧島市)

職  業:合同会社Chinjuuuuu/ブランド「和代表・表現者  アーティスト/グラフィックレコーダー

活動拠点:鹿児島県霧島市

“出さない”という選択と、心が壊れた時間

中学生になる頃、環境は一変する。人間関係、空気、グループ――すべてが一気に複雑になった。


「団体行動が苦手なのに、そこにいないと生きていけない感じがして」


周囲に合わせること、自分を抑えること。それが当たり前になっていく中で、彼女は少しずつ学校から足が遠のいていった。


高校もわずか1学期で中退。アルバイトをきっかけに社会へ出る。そして19歳で妊娠、出産、結婚。さらに年子で第二子を出産するが、結婚生活は長く続かなかった。


「若かった、っていう言い方にしてます」


その一言に、すべてが詰まっている。

生活のために就職し、保険会社で働き始める。しかし、どんな仕事も長く続かない。努力しても続かない。頑張るほどに崩れていく。

そこで初めて、自身がADHDであることを知る。


「なんでできないんだろうって思ってたことに、理由があった


だが、それで楽になったわけではない。むしろ、自分を取り巻く現実はさらに重くのしかかる。

仕事、子育て、お金、そして心の限界。

やがて彼女は、うつ状態に陥り、すべてを止めることになる。


「一度死んだことにしよう」から始まった再生

2年間、何もできない時間が続いた。子どもの声も、うまく受け取れない。

言葉を返すことすらできない。そんな中で訪れた、ある出来事。

障害年金の申請をしに行った窓口で、こう言われた。


「ここに来れているのに、申請できるんですか?」


その一言が、彼女の心を突き刺した。


「じゃあ、もう一回死んだことにしようって思ったんです」


そこからだった。“頑張る”をやめた。“役に立つ”を手放した。

そして残ったのが、「描くこと」だった。

もともと続けていたSNSへの投稿。

誰にも知られない世界で“らぁ”という名前で絵を描き続けていた。


やがて少しずつ外に出られるようになり、地域のイベントに足を運ぶようになる。

そして出会ったのが、地域づくりのプロジェクト「ライブ霧島」だった。


「前に立つ人がすごいんじゃなくて、“私もそっち側に行きたい”って思ったんです」


その場で名刺を配り、「絵が描けます」と伝えた。

すると返ってきたのが、「グラフィックレコーディングやってみたら?」という一言。


その日の夜に描いて、翌朝送る。人生が、再び動き出した瞬間だった。


“役に立つための表現”から、“自分のための表現”へ

仕事として絵を描くようになった彼女は、最初“誰かの役に立つ絵”を描こうとしていた。

だが、それはまた自分を苦しめる原因になっていく。

そんな時に出会ったのが、日本の和文化だった。

着物の柄、暦、意味、そして“表に出せない想いを裏に込める”美学。


「制限の中で、どうやって自分を表現するか。それが面白いって思ったんです」


そこから彼女の表現は変わった。


“心の声”と“頭の虫”――


彼女はそれをこう呼ぶ。

「本当にやりたいことは、小さい声なんです。でも、頭はうるさい」

だからこそ、その小さな声を拾う。

その選択が、彼女を救った。

「世界平和って大げさかもしれないけど、みんなが自分の心の声を聞いて生きられたら、もっと優しくなると思うんです」

その言葉は、決して綺麗事ではない。

すべてを経験してきた彼女だからこそ、重みがある。


地域と、これからの未来

現在、霧島の地で活動する彼女は、地域の良さも課題も理解している。

「干渉されすぎない距離感が、すごく心地いい」

一方で、アートに対する価値の伝わりにくさも感じている。

「値段で見られちゃうことも多い。でも、それを変えていきたい」


制作の過程を見せる。

作り手の想いを伝える。

距離を縮める。


その積み重ねが、地域の未来を変えると信じている。

そして彼女の挑戦は、さらに広がっている。


・和の文化を海外へ届けること

・子どもと大人の“感性”を育てる教室をつくること


「技術じゃなくて、感じる力を育てたいんです」


“やり直したい”は一度も思わなかった

彼女は自分のことをこう表現した。


シングルマザー、3児の母。双極性障害で、いつ鬱に転ぶかわからない。


つまり――


明日、同じように「私」を生きられる保証はない。


だからこそ、彼女は言う。

「心の声を聞く。描く。」

ある日突然、靴下の履き方すらわからなくなる。

頭の片隅には、ずっと「死ななければならない」という感覚が居座る。

何もできない。眠ることもできない。ただ、息をしているだけ。

そんな日が、前触れもなくやってくる。

その怖さを、彼女は知っている。

だからこそ――


「ワクワクと心がときめくことに、命を燃やしています。毎日。」


もし明日、目が覚めなかったとしても。

「今日やるべきことはやった」と思える一日を生きる。

そんな日を、少しでも増やしていくために。

そして彼女は、静かにこう言った。


「自分の声がわからなくなったら、私の作品を見てみてください。」


最後に、こんな質問を投げかけた。

「人生をやり直せるなら、どこに戻りますか?」彼女は、迷わず答えた。


「やり直しはいらないです」


壮絶な過去も、痛みも、すべて含めて今がある。


「私の人生は、私にしか耐えられないものだから」


その言葉に、強さではなく“受け入れる覚悟”を見た。

もし、違う人生を選べたとしても、きっと彼女は、また同じように迷い、傷つき、それでも描くだろう。


“自分の声”をすくい上げるために。

インタビュー後記

インタビューを通して感じたのは、「この人は、綺麗に生きてきた人ではない」ということだった。むしろ逆だ。

傷ついて、壊れて、何度も立ち止まりながら、それでも“自分の声”を探し続けてきた人だ。だからこそ、その言葉は軽くない。

そして、その表現は人の心に届く。


今の時代、“正解”を教えてくれる人は多い。

だが、“自分の声を聞け”と本気で言える人は、どれだけいるだろう。


もし、こういう人がもっと増えたら。自分の人生を、自分で選べる人が増えたら。

きっと、今より少しだけ優しい社会になる。

そんな未来を、彼女は本気で信じている。


アーティストらぁは、一体このバトンを誰に託すのだろうか。

アーティスト仲間か、それとも共感できる痛みを感じたことのある人か、いずれにしてもきっと未来に向かって、今を楽しんでいる人に違いない。


また一人、“明るく歩く”誰かに出会えることを楽しみにしている。 

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らぁ|着物絵描きのぽんこつ日常▶@kimonoraa

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*お電話相談の際、『区民ニュース』の記事を読みました。とお伝え下さい。

ご紹介者さま: 株式会社K’s Village 井倉 渓 さん