今回のゲストは、長野県佐久市市長の柳田清二さん。

東京からのアクセスの良さ、豊かな自然があふれる風光明媚な土地柄、その他にも「住みたくなる」要素が盛りだくさんの佐久市。

地方都市の悩みである「人口減少」とは無縁な地方都市の魅力を、たっぷりと語っていただきました。


Photo:長谷部ナオキチ

安心して医療が受けられるのは大きな魅力

高木優一:佐久市は川崎市の宮前区とは交流都市となっていますが、東京などへの流出が少ない街とお聞きしています。


柳田清二:佐久市は現在、自然減、社会増という状況になっています。自然減とは、亡くなる人と生まれる人を単純比較すれば亡くなる人の方が多いという状況のことですが、社会増、つまり社会的な見地から人口の推移を捉えれば、「入ってくる人」が「出ていく人」を上回るという状況となります。高校を卒業して大学・専門学校等に行く段となれば、東京などの大都市へ出て行く人はやはり多いのですが、入ってくる人がそれを上回るという傾向が続いています。



高木優一:そうなのですね。佐久市には人を惹きつけるどのような魅力があるのでしょうか。


柳田清二:まず1つは活断層が少ない(確認されていない)という地形的背景があります。


高木優一:なるほど。災害リスクの少なさは大きな魅力だと思います。地震の怖さは全日本人が実感していますからね。



柳田清二:それと医療体制がしっかりと整っているということも大きな理由だと思っています。佐久総合病院(佐久医療センター)が救急を含む医療の拠点として三次医療を担っているのですが、その他に二次医療の施設として、浅間総合病院と佐久総合病院本院、それに川西赤十字病院の3つの病院があり、その周辺に開業医の先生方も多くいらっしゃって、佐久総合病院を中心に、紹介、逆紹介の機能が十分に果たせています。


高木優一:それは住人にとっては心強いですね。


柳田清二:ある特定の医療施設が患者さんを抱え込んでしまっているのではなく、言葉は悪いのですが、“患者さんの出し入れ”が非常に上手く機能しているのです。医師会と医療機関、医療機関同士の人間関係も穏やかですね。



高木優一:地域包括ケア、医療連携が上手く進んでいるのですね。


柳田清二:行政が医師会と医療機関の両方に気を使い、なかなか医療連携が進んでいないという地方都市も多いようですね。


高木優一:それと佐久市の魅力の1つとして、やはり自然の美しさが挙げられると思います。軽井沢にも八ヶ岳にも近いですからね。


柳田清二:長野県は移住希望の一番高い県です。余生を自然豊かな土地で暮らしたいという欲求は今後も高まっていくと思いますので、我々もその期待に応えるべく努力をしていかなければならないと感じています。


空き家バンク政策の見直し

高木優一:長野県は確かに都心に住む人間にとって魅力的な土地だと思いますが、それを感じて移住しようという方はやはり年齢的には上の世代ということになりますか。


柳田清二:今、挙げた活断層が見当たらない、あるいは医療が充実しているといった点、また余生を生きいきと過ごしたい土地であるという点を考えると、やはり上の世代が魅力を感じる土地風土ということになるのでしょうが、ひとつ空き家バンクの課題があります。これまでの移住施策方針を検証し、空き家バンクを見直す時期にきていると感じています。空き家バンクの在庫を持つというのは結構リスキーなことなのですが、在庫が縮小していくと、移住施策そのものがジリ貧になってしまうとの危惧があります。そのようにならないために、マンションでもアパートでも、あるいは戸建てにおいても、いつまでの移住という時限を設けてもいいと考えています。期限付きの移住ですね。10年経ったらまた都心に戻るという前提で借りてもいいし、期限つきで借りて気に入れば改めて物件の購入を考えればいい、というようなフレキシブルな対応を図っていきたいと考えています。


高木優一:なるほど。5年後、10年後、経済の流れも大きく変わるかもしれませんしね。人口はますます減っていくわけですから。


柳田清二:家に関しては間違いなく“有り余り現象”に陥っていくでしょうね。地方活性化を謳うのはいいのですが、現実はそれほど成果が上がっているとは思いません。そんな中で、実は佐久平周辺はバブル期よりも人口が増加しているのです。新幹線が開通され、佐久平駅が畑の中にぽつんとでき、当初は日に32本停車をしていたのが50本に増え、60ヘクタールの土地を区画整理したのですが、土地利用率が99%、固定資産税が130倍になっています。新幹線効果が最も高かった都市といえます。


高木優一:人を集める力のある地方都市という言い方ができますね。



柳田清二:中央道から静岡市の清水区まで抜ける高速道路(中部横断自動車道)が2年後に全面開通します。佐久から清水までは現在4時間半かかっているのですが、その道路が開通すれば2時間40分で行けるようになります。清水港の変革は眼を瞠るものがありまして、この10年間で輸出入能力が実に24倍に上がっています。


高木優一:朝、清水港で水揚げされた魚がお昼には佐久で食べられるということですね。


柳田清二:しかも、その高速道路の一部区間は国と地方行政が分担してお金を出す新直轄方式を採用していますので、通行料が無料なのです。


高木優一:それは利用者にとっても有り難い話ですね


柳田清二:普通の高速道路は高速道路会社が借金して建設し、1回づつ利用料金を徴収するというやり方ですが、利用頻度が低いとずっと借金を抱えることになってしまいます。



有名な食材は乏しい。しかし、農産物は自慢できる。

高木優一:お話をお聞きしますと、都心と直結する交通インフラが整っている地方都市と整っていない地方都市とでは、これからの発展性に大きく差が出てしまう印象がありますね。


柳田清二:あまり交通アクセスのよくない地方都市でも何らかの発展の可能性を導き出そうというのが国の方針ですけれどね。でも、必ずしも東京ではなくても、人口の集中している地方都市と上手くアクセスし連携を図っている例もあります。たとえば鳥取市はリスク分散に成功している地方都市なのですが、やはり新直轄方式を利用して広島とのアクセスを整えました。実は我々のリスク分散という手法は鳥取市を参考にさせてもらったのです。



高木優一:そうなんですか。鳥取とは意外な感じがします。アクセスのよさと言えば、佐久市まで東京から1時間ちょっとで行けるというのは大きなポイントですよね。


柳田清二:東京とそれほど近いのに、実は1979年の観測以来、佐久市は1回も熱帯夜がないのです。朝の寝起きが快適なんです。東京の人から見ればうらやましい話ですよね。


高木優一:それは素晴らしい。新幹線では軽井沢の次の駅が佐久平になりますか。


柳田清二:そうです。軽井沢は確かにお洒落でハイソサエティな雰囲気を感じさせる街ですが、「湿気」と「渋滞」という大きな問題があります。


高木優一:湿気ですか、なるほど。旧軽井沢一帯に広がる苔を見ると納得します。渋滞も人気のエリアだからハイシーズンでは当然そうなりますね。



柳田清二:ところが軽井沢から新幹線でわずか8分しか離れていない佐久平は乾燥地域なんです。だから住みやすい。佐久市の欠点というほどでもないのですが、魅力の乏しい点を挙げれば、有名な食の物産がないということでしょうか。誇れる食材が見当たらないんですよね。しかし、米や野菜のクオリティは高いんですよ。


高木優一:若者で都心を離れて農業を目指そうという人も出てきているようですね。


柳田清二:多くなってきましたね。


高木優一:さまざまな角度からお話を伺いましたが、佐久市の人口が増えている理由がよくわかりました。本日はどうもありがとうございました。