今回のお客様はNPO法人 金融知力普及協会の理事を務める鈴木達郎さん。

「金融知力普及協会」とはどのような活動をされている法人なのか、その活動がこれからどのように社会的貢献を果たしていくのかを詳しくお伺いしました。


Photo:長谷部ナオキチ

NPO法人立ち上げの経緯

高木優一:まず、金融知力普及協会とはどのような活動をされているNPO法人なのか、そこからお聞きしたいと思います。


鈴木達郎:私が立ち上げた法人ではなく、私の立場は言ってみれば雇われ店長といったところです。このNPOが起ち上がったのは2002年のことでした。NHKなどのアナウンサーを経て今はフリーになられている野中ともよさんの発案で、今でも野中さんは当法人の精神的支柱として存在しています。



高木優一:野中ともよさんのことは存じ上げています。もちろんテレビなどの画面を通してですが。


鈴木達郎:一昔前とは違い、一般市民が何か不測の事態が起きた時など、自分のお金の責任は自分で取らなければならないという時代の趨勢になってきました。しかし、自己責任といっても、お金の教育を我々は受けてきたわけではありませんから、どうしたら良いのかがわからない。野中さんは中教審の委員をやられていて、日本でも若いうちから金融を学ばせる土壌が必要だと文科省などにも訴えかけをしたようです。でも、国家の事業ともなれば変革は簡単には実現できません。一方、アメリカとかイギリスの状況を調べてみると、NPO法人がカリキュラムを作って学校や学校外で金融経済の教育をさかんに行っていることがわかりました。野中さんは日興証券の教育機関の理事長もやられていたのですが、当事日興証券の会長だったのが当法人の代表の金子で、投資家教育とは違うもっと手前の金融教育、経済教育機関を立ち上げようと、野中さんが金子へ持ちかけたのが発端です。


高木優一:投資家などの専門家にではなく、一般市民への教育機関ということですね。



鈴木達郎:そうです。企業(日興証券)の一事業として活動しようとすると、いくら社会への貢献と謳っても、やはり少なからず会社の利潤のためにという名目でやっているように見られてしまいます。


高木優一:それでNPO法人として活動することになったわけですね。


鈴木達郎:当初は日興証券の人とお金をベースにして活動していたのですが、私が入って2年ぐらいで、人もお金も完全に日興証券から切り離し独立法人して活動しています。


高木優一:そもそも鈴木さんご自身は、どのようなきっかけでこのNPO法人に参加されることになったのですか。


鈴木達郎:実は溝の口で自民党公認で選挙に出たのですが力が足りずに落選しまいまして、次の選挙を睨んで選挙活動を行うのは資金的にも無理でした。野中ともよさんのご主人が経営コンサルティング界の重鎮で、その人のブレーンに私の知り合いがいまして、野中さんがこのようなNPO法人を立ち上げていることをその知り合いを通して知り、紹介されたのがきっかけです。当初は2、3年お手伝いをして別の道に行こうかと思っていたのですが、結局離れられずに現在に至っているという状況です。



「エコノミクス甲子園」について

高木優一:具体的にどのような活動をされているのですか。


鈴木達郎:我々の活動を一言で言えば、日本人の金融経済の教育ということになるのですが、一番大きな試みとして「エコノミクス甲子園」と名づけたイベントが挙げられます。先般、第12回が修了しました。


高木優一:テレビ東京で夜11時に放映されている「ワールドビジネスサテライト」にも採りあげられたイベントですね。12回目を行ったということは、12年続いているイベントということですよね。それはすごい。



鈴木達郎:言ってみれば、全国高校生クイズの金融経済版ですね。


高木優一:内容を少しお聞かせください。


鈴木達郎:まず、応募してきた高校生にテキストを提供します。うちが出している教科書もあるのですが、日銀や証券協会、損保協会、銀行協会など金融関連の協会が出している冊子なども差し上げ、この中から問題が出題される旨を伝えます。地方大会を経て全国大会に進むわけですが、各都道府県の高校の子に、地方大会で優勝すればただで東京に行けて、晴れの大舞台に立てるぞと鼓舞するとみんな張り切るんですよね。



高木優一:地方大会は各都道府県に普及しているのですか。


鈴木達郎:47の都道府県のうち、45都道府県で実施しています。地銀さんが地方大会を主催してくれるのです。クイズの問題や回答はもちろん我々が考えますが、イベントの主催はすべて地銀さんがやってくれています。


高木優一:会場の手配から運営までのほぼすべてですか。


鈴木達郎:そうなんです。地銀さんのバックアップがなければ開催できません。


高木優一:銀行のPRにはなりますよね。


鈴木達郎:地方はあまり大きなニュースがないですからね。NHKの夕方5時からのニュースには必ず採りあげられますから、大いにPRになると思います。


高木優一:なるほど。それで、各地方大会で優勝した子が全国大会に出場できるわけですか。


鈴木達郎:そうです。



日本は金融経済の知識がアジアで最下位

高木優一:確かに私の商売のテリトリーにも、金融経済にあまりにも無知なゆえ、大変な損をしたり誤った決断をする人が大勢いますよ。


鈴木達郎:そうでしょう。不動産の権利の話、相続の話など、ちんぷんかんぷんだと思いますよ。しかし、細かい情報は得てなくても、また知識はなくても、後で調べるとか、判を押す前にだれかに相談すればいいのに、それすらできないということでしょうね。何の疑問も湧かずに「ああ、こういうものなんだな」と簡単に判を押してしまう。



高木優一:確かにお金の教育ってまったくこの国では不毛でしたね。どこか、「はしたない」とか「声高に語るものではない」とか、そのような意識が働いてしまうのでしょうね。


鈴木達郎:たとえば、労働所得ではなく金融所得をアメリカと日本で比較すると、あまりの違いに愕然とします。アジアで見ても、金融経済の知識は最下位です。投資の額で捕らえると断トツに低いです。いくら国が投資にお金を向けさせようといろいろな施策を立てても、基本的な知識がまったく足りていないわけですから、わかりづらい話をされ、煽られてもとても乗ろうとは思わないですね。しかし、いくら貯金額が多くても投資が増えないことには金融市場は動きません。日本は経済的に縮こまっていくばかりです。ですから、金融経済教育は大事なんですよ、と声を大にしたいのです。


高木優一:おっしゃる通りですね。



鈴木達郎:国が投資だ、投資だと言うからやってみようかと手をつけたとします。経済活動は波があり、どこかで損をする時期が必ずきます。でも長いスパンで見れば右肩上がりになるのは自明なのです。知識がない人は投資を短期でしか捉えられませんから、「損しちゃったよ、どうしてくれるんだ」と大騒ぎになる。そうなると、「もう二度とやらない」とますます近づかなくなってしまうんですね。知識があり投資のセオリーを見極められれば、100万円が80万円になっても焦ることはないはずなんです。そういうこともあるよね、もっと待てば120万になるかもしれないな、所持金すべて一気に100万円投資するのではなく、たとえば半年に1回とか3ヶ月に1回の割合で50万円づつ買えばいい、という知恵も生まれてくるわけです。我々の親世代は高金利でした。こつこつと貯金をしていけば確実に増えたんです。最も金利が高かったときは7%という時代もありました。十年預けていたら倍になる。そういう時代に社会を生きた人は、当然貯金が一番です。その親たちの下で育ったのが我々ですので、どうしても「貯金しておきなさい」という教育を受けることになるんですね。


高木優一:今の時代、いくら銀行にお金を預けてもまったく増えないですからね。寝かせておくだけです。いや、本当に若い世代への金融経済の知力強化は必須だと実感しました。今日はどうもありがとうございました。