まちの仕事人インタビュー
未来へつながる子どもたちを救う
虎の門病院 小児科 医師 向山 祐理 (むこうやま ゆり) さん インタビュー

福岡県出身。神戸大学医学部を卒業後、神戸大学病院、兵庫県立こども病院を経て、現在は『虎の門病院』小児科にて勤務。小児科専門医、内分泌代謝専門医・指導医、二児の母。

子どもが未来をつくる

今の仕事をはじめられたきっかけを教えてください。

小学校の頃から身体のしくみに強い興味を持っていました。「なぜ蚊に刺されるとかゆくなるの?」「なぜ熱さましで熱は冷めるの?」「なぜ寒くなると唇が青くなるの?」など疑問は絶えず、人体の秘密に迫る展覧会に行くほどのめり込み、気がつくと医師を目指していましたね。努力の甲斐もあって願いは叶い、神戸大学医学部へ進学。神戸大学病院にて初期研修、兵庫県立こども病院にて後期研修を行いました。小児科を目指すきっかけとなったのは、病院へやってくる子どもたちとの出逢い。病気やケガを乗り越え、元気に育っていく姿を見るたびに「子どもって、未来をつくる存在だなぁ」と強く感じていました。大学時代から、ホルモンなどを扱う“内分泌学”に関心を持ち、学びを深めていたことがきっかけで『虎の門病院』とのご縁があり、現在に至ります。


仕事の特徴は、どのような点にありますか?

『予防接種』『乳児検診』『急性疾患』など、小児科の業務全般に関わっています。“内分泌学”の知識と経験が活かされるご相談の一つが『成長障害』『早い思春期』への対応。個人差もあるため、全員がそうなるとは言えませんが、背の伸びが悪くなってきた子どもの中には、成長ホルモンの分泌不全による『低身長症』の可能性も。また思春期は一つの基準として、男の子であれば「声変わり」は11歳以降に、女の子であれば「生理」は10歳半以降でやってくるとされていますが、それらの時期よりも早いタイミングで変化が起った子どもの中には、低身長となってしまう場合もあります。その場合、レントゲンで骨年齢を確認するなどの検査を進めて、適切な治療を行っています。治療により身長が20㎝~30㎝も変わることはありませんが、思春期のピークを後ろにずらすことで、数㎝~10㎝ほど伸びる子どもは多いですね。その他にも、専門分野として『下垂体腫瘍(頭蓋咽頭腫)』『下垂体機能低下症』『甲状腺疾患(バセドウ病など)』『1型糖尿病』などの治療にも携わっています。


子どもを子ども扱いしない

印象に残っている患者さんを教えてください。

医師2年目に出逢った、緊急搬送された妊婦さんから帝王切開により生まれた400gの赤ちゃんですね。今でこそ自分の経験も増え、当院の設備への理解も深まったため、それほど心配することはありませんが、当時は「こんなに小さな命が無事に生きていけるのだろうか」と、非常に心配しました。そんな心配をよそに、子どもは集中治療室の中でスクスクと成長し、何事もなかったかのように大きくなったので、「子どもって凄いなぁ」と改めて感心するとともに、小児科の仕事をずっと続けようと心に決めた出来事でもありますね。当院を受診する子どもの多くが、来院時はぐったりしていたり、とにかく泣いていたりと、あまり良い状態ではありません。そんな子どもたちが治療により回復し、「先生ありがとー!!」と言って笑顔を見せてくれる姿には、私たちの方が癒されていますね。私はまだ経験がありませんが、長く続けていると、小児科で担当した子どもが成長し、母として産婦人科へやってきて再会するということもあるようです。そんな未来も、今から楽しみにしています。


仕事をするうえで、心掛けていることを教えてください。

“子どもを子ども扱いしない”ことです。小児科では、つい付き添いの親御さんの方を向いて話したいと考えてしまいがち。ですが、症状によっては、小児科の期間では治療が終わらず、将来的に内科などへ転科するケースもあります。そこで、子どもには自分の病気について知り、自分ごととして捉えて欲しいと考え、どんな小さな子どもでも、その子の目を見てその子に話すようにしています。親御さんに対して意識しているのは、“次の受診につながるように話す”こと。子どもの状態に不安を持ち、付き添われた親御さんに対して、診察や治療をして送り出す際、「体温が40℃でも、元気ならOK」「体温が37℃でも、ぐったりしていたらすぐに来て」と、日常のどんな症状に気づいてもらいたいかを伝えています。私も母になり、子育ての大変さが良く分かりました。そこで、日常の対応については、なるべく“具体的に伝える”ようにもしています。例えば、乳児のミルク量について、「赤ちゃんの様子に合わせて飲ませてください」と言われても、よくわかりませんよね。そこで私は1日当たりのミルク量を、体重1㎏あたり約150~200ml、例えば「体重が4㎏のうちは1日600m以上を目安にしてください」とお伝えしています。その他、「こんなことで受診しても良いの?」と思われる症状であっても、まずは“かかりつけ医”を訪ねてください。毎日が忙しく大変な親御さんの心配事の一部を、私たち医療機関が引き受けることで、少しでも楽になってもらえると嬉しいですね。


インタビュー後記

向山先生が、子どもを子ども扱いすることなく接する様子には、一人ひとりへの尊重の想いがある。虎の門病院は、急性期医療の医療機関であり、日頃の治療は「かかりつけ医」に任せ、専門的医療を引き受けるという棲み分けが国の方針で推進されているが、予防接種や検診などで接点を持つことは可能だ。また、精密検査を受けたり、専門家の意見を聞きたいときには、「虎の門病院 小児科 向山先生」への紹介状を書いてほしいと、かかりつけ医に相談すると良いだろう。

お問い合わせ

名前:虎の門病院

住所:東京都港区虎ノ門2‐2‐2

HP:https://toranomon.kkr.or.jp/

*ご相談の際は、『区民ニュース』の記事を読みました。とお伝えください。