本日のお客様は、学校法人 目黒学院の理事長兼校長の関口隆司さん。

少子化が国の大きな課題となる中、その煽りを直接的に受ける中学・高校経営の難しさを、いろいろな角度からお話ししていただきました。


Photo:長谷部ナオキチ

子供の減少率と比例して、生徒数も減少

高木優一:先日、先生から今の学校の状況をお聞かせいただき、こんなに生徒の数が減っているのかと愕然としました。こちらの学校でもかつては2000人いた生徒が、現在900人に減少したとのことですね。


関口隆司:創業当初は1学年650名の生徒を募集していました。つまり、平成元年には男子だけでほぼ2000人の生徒がいたわけです。そして30年経った今、900人を切っているような状況となっています。といっても、この数字が他校に比べ悪いというわけではないんです。日本全体の中三、高1の生徒数の減少率とだいたい比例しています。


高木優一:900人というのは、中学高校合わせての数ですよね。


関口隆司:はい。でも中学生は数十人しかいないんです。高校からも生徒を募集していますので圧倒的に高校生の数が多くなっています。



高木優一:中学生は1クラスですか


関口隆司:はい、そうです。


高木優一:先ほどおっしゃったように、目黒区だけの現象ではなく、日本全体で著しく子供の数が減っているということで、その煽りをもろに受けているということですね。


関口隆司:都内の15歳人口は、ここ30年で半分以下になっていると思います。今の出生率で今後も経緯していくと、あと500年で日本人はいなくなる計算ですね。そう考えると、今後、日本が国を維持していくためには、やはり外国人を受け入れるしかないと思いますよ。



高木優一:怖い話ですね。私は日ごろ相続とか不動産とかの仕事柄、高齢の方々とお付き合いする機会が多いので、あまり若い世代に目が行かなかったんですが、この辺りの賃貸マンションは場所柄もいいし25歳とか30歳ぐらいの客がどんどん入りますよなんて口が裂けても言えませんね。


関口隆司:東京はまだ人口の流入が盛んで23区内の人口は維持できていますし、地価の高い都心に近い人気のエリアは人が入ってきていますが、周辺部になればなるほど人口が減ってきています。500年後のことを憂いでも仕方がありませんが、我々が今やらねければいけないのは、今まで働いていなかった高齢者とか女性が働けるような社会の仕組みを作ることでしょうね。


高木優一:その通りですね。ところで、こちらの学校は昔は男子校だったんですよね。



関口隆司:そうです。70年間男子校だったんですよ。8年前から女子にも門戸を開きました。今は男子7、女子3の割合です。各学年90人から100人ぐらいが女子です。最初の年は女子の数はたった30人でした。それが徐々に増え、今の割合になりました。


高木優一:女子が増えたことで、学校の雰囲気は変わりましたか。


関口隆司:基本的には生徒が明るくわかりやすくなりましたね。女子の方が直球を投げてきますから。こちらの顔色を窺うことは一切なし。言いたいことは先にはっきり言いますね。生徒会の選挙で、会長に立候補するのも女子の方が積極的です。以前は交代で務めていたり、男女が分け合って会長・副会長を務めていたのですが、今年は両方とも女子になってしまいました。



ますます難しくなる私立校の経営

高木優一:女子生徒を募集する上でのインセンティブは何でしょうか。


関口隆司:一には立地、二に制服とトイレです。校舎は多少古めかしくてもそのうちに慣れます。でも、制服が垢抜けなかったりトイレが汚かったりするのは慣れないんです。


高木優一:女子の場合、やはり制服が高校選びの重要なポイントなんですね。男子はブレザーですよね。


関口隆司:はい。平成2年の創立50周年のときに詰襟の学生服からブレザーに変わりました。制服というのは女子のデザインや形が決まれば、必然的に男子のデザインや形も決まってきます。結婚式のお色直しと同じですね。



高木優一:これからの日本は女性進出の機会を創り出すことが重要だというお話を聞きますと、女子が世に出てどう社会で活躍するかを教育するのが、学校の重要な課題になりますね。


関口隆司:そうですね。今の親御さんたちを見ても、専業主婦の母親の割合は極めて低いです。ほとんどいないと言っていいかもしれません。


高木優一:このあたりは高級住宅街だと思いますが、それでもですか。


関口隆司:もともと目黒区は人口が少ないですし、この辺りから通ってくる生徒は割と少ないんですよ。多いのは世田谷、大田区ですね。それに目黒、品川が続きます。


高木優一:それだけ子供の数が減っていますと、言い方に語弊がありますが、“取り合い”の様相を呈してきますね。



関口隆司:現在東京都内には私立高校が240校ありまして、地域ごとに12の支部に分かれています。この品川、大田、目黒は第7支部になります。ここに20校ほどの私立高校がありますが、偏差値にそれほどの差がないせいか、本当に奪い合いとなっています。


高木優一:今後、ますます学校の経営が難しくなってきますね。


関口隆司:現実的に経営が危うくなって企業に買収されるという例もありますから。ワタミに買収された文京区の郁文館がその一例ですね。


高木優一:学校法人の経営権を、一般企業の経営者が握ったという事ですね。


関口隆司:そうです。また、第7支部に東京学園高校という男子校があったのですが、ここは一大決心をしまして河合塾に身売りをしました。校舎も下目黒から調布の方へ移転し、教育方針もドルトンスクールというアメリカの特別な教育方法採用をして、まったく新しい学校に生まれ変わりました。


教員の確保は難題

高木優一:だんだん男子校、女子校が少なくなり共学が増えている印象です。


関口隆司:そうなのですが、一時の共学ブームは過ぎ去った感はあります。ここ10年ぐらいの間に、非常な勢いで男子校・女子校が共学になりました。それでも、いまだに女子校は100校ぐらいあります。男子校は30数校ぐらいです。男子校を共学にして女子を入れても、人数が逆転するということはないのですが、女子校が共学になると、昔は男子校だったんじゃないのかと思うような現象が起きることもありますね。完全に男子の数が上回ってしまうのです。


高木優一:へえ、そうなんですね。


関口隆司:公立校の場合は役所主導で統廃合を進められますけれど、私立校はお互いが独立した会社のようなものですから、校風もかなり違いますし、合併とか統合が進むとはあまり考えられないですね。まあ、公立が統廃合を進めてくれれば、数字的には私立の方に流れてくるという期待が多少はあります。



高木優一:公益法人ですから儲けを考えてはいけないのでしょうが、そうは言っても経営は安定させなければいけない。経営のご苦労として、教員の確保が挙げられると思うのですがいかがですか。


関口隆司:確かに年々、特に理系の教員の確保は難しくなってきていますね。理科、数学の優秀な先生を探すのは本当に大変です。文系は大学在籍中に教員免許を取得すれば社会科の先生にはなれます。ところが、理科とか数学は、それなりの専門的な勉強をしないとなかなか教員免許は取れません。ところが、一生懸命勉強してそのような専門性を身に付けたら、学校の教員よりもっと給料がよくてステイタスを感じる企業に就職しますよ(笑)。


高木優一:先生がお辞めになって欠員が出ると大変ですね。


関口隆司:教員を派遣してくれる会社がありまして、そのルートで人を確保することはよくあります。


高木優一:教員の派遣会社があるんですか。


関口隆司:派遣会社を使うメリットは、来ていただいた先生がうまく機能しなかった場合、違う人に代わっていただくことができるからです。通常の採用パターンだと、入っていただいて当校に馴染めなくても、こちらから一方的にやめて欲しいとも言えませんから。派遣の場合、もちろん、その分お金もかかるのですが、採用のリスクも低減するんです。


高木優一:これからの学校経営の難しさを実感させていただきました。本日はどうもありがとうございます。