
NBKマーケティング株式会社代表取締役。岐阜県岐阜市出身。慶応義塾大学法学部政治学科卒業。安土・桃山時代から続く岡本太右衛門家の分家(16代目)の長男として生まれる。家業は450年続き天皇家より「鍋屋」と名付けられた老舗機械部品メーカー、鍋屋バイテック株式会社。大学時代はラクロス部に所属。大学卒業後、兼松江商(現兼松)株式会社に入社。入社4年目にして上長と共に部門での最高売上147億円を記録。その後、次期後継者として家業の鍋屋バイテックに入社。しかし、父親との確執が原因で退職。機械部品商社、コンサル会社を経てNBKマーケティング株式会社を設立。紆余曲折を経てLiLz社と出会い、現在は防爆カメラLiLz Gaugeをはじめとした作業現場のDX化を推進。「単純労働からヒトを解放する」をミッションに、トップ商社として精力的に製品普及に努めている。座右の銘は「世の中の役に立つのが先、利益は後」。趣味は音楽鑑賞、読書、スポーツアニメ鑑賞、ゴルフなど。
老舗企業の長男として生まれた岡本さん。歴史ある会社の跡取りということでプレッシャーはありませんでしたか。
子供のころからそのように育てられてきたので、覚悟はして生きてきました。親の勧めで高校から岐阜を出て上京。大学も内部進学し、就職先も三井物産出身の父の勧めで総合商社に内定。成果も出して仕事が楽しくなってきたタイミングで父から家業に戻るように言われて退職。後継者として父の言うことを信じて歩んできたので、鍋屋バイテックに入社するまでは、家業を継ぎたくないと思ったことはありませんでした。ただ、昔からひとつだけ心に引っかかることがあったんです。それは経営者としての在り方です。私は高校の時に実家の工場でバイトをしたことがあるんです。将来経営者になるために現場を知ることは必要な経験だと思い始めたのですが、そこでは、先の見えない単純労働が延々と繰り返されていました。この光景をみて、私は非常にショックを受けました。父は経営者としても力のあり、仕事も楽しそうにしている。私の目指すべき姿であることには違いありませんでした。しかしきらびやかな父の裏側で、現場は過酷な単純労働をしている。そして経営者である父はそれを当然と考えている。父のようになりたいと思う反面で、父のやり方は間違っているのではないか。そんなモヤモヤがずっと私の心に引っかかっていたんです。なので、家業を継ぐプレッシャーよりも、期待と得体の知れないモヤモヤがずっと同居していたという方が正しいかもしれません。私自身がそんな気持ちだったので、家業に戻ってからも父とは衝突ばかりで結局追い出されましたが。
展示会出展の様子
期待に満ちた状態で家業に戻った岡本さん。しかし数年で家業から離れてしまっています。なぜそのような決断をされたのでしょうか。
先にお話しした理由もありますが、もうひとつ。出ていったのは自分の人生を取り戻したいと思ったからです。家業に戻ってからの生活はとにかく自分の人生が反映されていないと感じました。実家に戻ってからというもの、父からのプレシャーも強く、期待の大きさに日々押しつぶされそうでした。あれやれ、これやれという強制も多く、とにかく父の下で働くことが苦痛でした。人生のすべてから自分の意志が排除されている感じとでもいうのでしょうか。一刻も早く父から離れたい。当時の私はそういう気持ちで実家を飛び出しました。
家業に戻る前と戻った後のギャップが大きすぎたのですね。
そうですね。幼い頃に見ていた父の姿は憧れでした。それは父がバリバリ仕事をこなし、ある種独裁的に働いていていたので、「なんでもうまくやってのけてかっこいい」と感じていたからだと思います。ただ、家業に戻る前は優秀な父の元で働くとはどういうことかまで想像できていませんでした。だからこそギャップが生まれてしまったんだと思います。家業に戻ってからは、当然父のもとで働くことになるのですが、自身が優秀だからこそ、「何も考えずに言われたことだけをやれ」というスタンスでした。そうなると私が父にいくら提案しても何も通らない。当時の私は入社前後のギャップと優秀すぎる父の期待に押しつぶされそうになっていました。そして遂に耐え切れなくなり、半ば逃げるように実家を離れる決断をしたんです。今となっては、もっと父親とコミュニケーションを取っておけばよかったと後悔していますが。
社長自ら最前線でPR
優秀すぎる父からの期待。想像するだけで胃が痛くなりそうです。実家を出た後、どのような経緯でNBKマーケティングを立ち上げるに至ったのでしょうか。
飛び出した後は、取引先の商社で働かせてもらったり、研修会社で働いたりして5年ほど過ごしました。ちなみに私が家業から離れた後は、弟が家業を継いでいます。会社を転々としていたある日、実家がアメリカの会社と合弁で新規事業を立ち上げるという話を耳にしました。そして、その事業を一緒にやらないかと声がかかったんです。数年間実家とも距離を置いたことでほとぼりも冷めてましたし、何より私自身が家業が好きで家業に携わりたいと考えていたタイミングだったことが大きいです。二つ返事どころか、こちらからお願いするような形で誘いに飛びつきました。なので、NBKマーケティングはこのアメリカとの合弁事業からスタートしたんです。現在はアメリカとの合弁は解消しており、鍋屋バイテックの社内ベンチャーという位置づけです。そういう意味では我々はゼロスタートのベンチャー企業よりも「鍋屋バイテック」の看板がある分、アドバンテージはあったと思います。とはいえ楽な道のりではありませんでしたが。
紆余曲折の末、NBKマーケティングの立ち上げにたどり着いたのですね。NBKマーケティングはどのような会社なのでしょう。
社風という意味では、私が目指すのは、個が自由で民主的な会社です。そう思うのは、昔の私と父の関係が大きく影響していますが、社員たちには自分と同じ気持ちをしてほしくないと心から思っています。そういう会社にするためには、お客さんに押し売りしなきゃいけない商品を取り扱ってはダメだと思っています。なので弊社では、「世の中に知られてないけど、あれば求められるであろうもの」を常に扱うようにしています。事業内容はありきたりな表現をすれば商社です。ただ、私は「単純労働からヒトを解放する」、社会課題解決企業であると自称しています。メイン商材は、LiLz Gauge(リルズゲージ)。これは計器を自動読取する仕組みで、9月に危険箇所(防爆エリア)にも対応するカメラを出しました。主に製鉄所や石油化学工場などに導入いただいています。つまり、日々確認すべき計器が、広範囲に点在している場所です。特徴は「早い・安い・簡単」こと。設置に工事が不要なうえ、1回100%充電すれば3年は連続稼働します。しかも大手メーカー製品よりもずいぶん安い。なぜLiLz Gaugeを取り扱っているかというと、日本の現場作業を変えられる商品だと思ったから。製造業の現場は単純作業にあふれています。IT化も進んでますが、私が実家の鋳物屋でバイトをしていた頃から比べてもまだまだ単純作業だらけです。私はここを変えていきたい。人手不足、高齢化、高い離職率。日本の現場は人にまつわる多くの課題を抱えています。現場で働いてくれる貴重な人材には、もっとクリエイティブでその人にしかできない仕事に時間を使ってほしい。私はそう思っています。そしてそんな現場の課題を解決してくれる救世主がLiLz Gaugeだと確信し、採算度外視であまねく現場に普及させることに心血注いでいるんです。だから私はNBKマーケティングのことを「単純作業からヒトを解放する」会社と考えています。
社員とのよりも近く、フランクな岡本さん
まさに現場の課題解決を目指す会社というわけですね。LiLz Gaugeは工場以外でも活用の機会があるのでしょうか。
ありますね。例えば温泉施設。温泉といえば、山の中に源泉があると思いますが、その温度管理のためにスタッフの方は車を走らせて確認をしにいきます。LiLz Gaugeでは、メーターの読み取り以外に温度の測定機能もありますので、温泉で導入してもらえれば、温度管理のために山奥まで車を走らせる手間も時間も省けます。あとは、橋にLiLz Gaugeを取り付けるのも有益な使い道だと思っています。最近は異常気象の影響で河川の氾濫も増えてきています。昔は氾濫の危険がなかった河川でも今は氾濫の危険性が高まっています。そのような災害予防の観点でノーマークだった河川の橋に、LiLz Gaugeを設置して、1時間に一回でも川の様子を撮影できていれば、災害の事前察知にもつながります。人手不足や高齢化などの社会課題の煽りを受けてしまっている現場であれば、LiLz Gaugeの活躍の場は多いと思っていますね。
アイデアひとつで活躍の場が無限にある商材ということですね。会社の将来像を教えてください。
世の中のためになって、押し売りにならないような商材をもっと増やしていきたいと思っています。もっと大きなことを言えば、社会課題を解決できるような会社になっていきたいです。そのためにはまずはLiLz Gaugeの普及です。LiLz Gaugeの活用促進が社会課題解決に寄与すると確信していますので。普及のための戦略としては、今は人力でシェア拡大に努めていますが、今後は防爆機器を集めたECサイトの運営も考えています。オンラインとリアルのハイブリッドでより多くの方の目に触れるような仕掛けを作っていきたいと思っています。
最後に読者にひとことお願いします。
社会貢献や世の中を良くしていきたいという方がいらっしゃれば、弊社で一緒に働いてほしいと思っています。弊社では押し売りしなければいけないような、会社都合の商品の取り扱いはしていません。お客さん、ひいては世の中から求められているものを販売するので、お客さんからはむしろ喜ばれます。なので、社員はイキイキと営業していますし、やりがいをもって仕事に取り組んでくれています。当然ノルマもないです。ただ、頑張った人には会社としても報いたいので、インセンティブは準備しています。具体的には1台販売ごとにインセンティブ支給。やりがい+成果報酬を求める方にはおすすめできる会社なのかなと思ってます。人から単純労働をなくすため、力を貸してもらえる。そんな仲間との出会いを楽しみにしていますので、お気軽にお問い合わせください。
インタビュー後記
老舗企業の16代目の岡本さん。「はたして一般家庭で生まれ育った私が、華麗なる一族の話についていくことができるのか」と取材前は不安しかありませんでした。しかし、待ち合わせ場所に現れた岡本さんはTシャツにスラックス。高級スーツを身にまとい、近寄りがたい雰囲気の人が出てくると思っていた私は少々驚いてしまいました。取材中も非常にフレンドリー。「昨日酔っぱらって転んであごを擦りむいたんですよ」などと笑って話をしてくれるので、気を抜くと名門企業の御曹司であることを忘れてしまうほど。飾らず自然体が魅力的な社長さんでした。そんな岡本さんが目指すのは、人が単純労働から解放された世界。実現のためには自社の利益よりも優先することがある。取材中、何度もそのような言葉を使っていたのが印象的でした。「人はクリエイティブに時間を使うべきだ」と考える方々は、一度岡本さんとお話をしてみてはいかがでしょうか。LiLzがあなたの常識を変えてくれるかもしれません。
お問い合わせ
NBKマーケティング株式会社
東京都港区浜松町1-9-3 NABEYA東京ビル
TEL:03-3437-2031
HP:https://lilz-nbk.co.jp/company/
*お電話相談の際、『区民ニュース』の記事を読みました。とお伝え下さい。