今回のゲストはコイン取扱いのプロ中のプロ、泰星コインの岡政博さんです。

オリンピックやサッカーワールドカップ等の記念コインの販売はもとより、アンティークコインに対する目利きの深さ等、我々の未知の世界の存在に圧倒されました。


Photo:長谷部ナオキチ

スポーツイベント等の記念コインはほぼ独占

高木優一:オリンピックやサッカーのワールドカップなどの大きなイベントの記念コインを販売する際、購買者の申し込み先は銀行ということになると思いますが、基本的には銀行は取次の役割を果たすということですか。


岡政博:そうです。北海道から九州まで新聞の各地方版に広告を出し、そこに当該コインを取り扱う銀行を掲げています。



高木優一:記念コインの場合、銀行経由で購入される方がやはり多いのでしょうね。


岡政博:多いですね。銀行が集めてきた顧客の注文に対しては銀行へ手数料を払うという仕組みになっています。銀行の各支店にパンフレットを置いてありますので、それを見たり新聞広告を見たりして銀行へ注文をするわけです。


高木優一:品物のやりとりも銀行が行うのですか。



岡政博:そうです。ですから、私どもでは末端のユーザーの顔は見えないのですが、ただ納品する際にアンケートを入れておりまして、アンケートに答えてくださった方はリスト化できています。クオカードを差し上げますので、ほとんどのお客様がアンケートに答えてくれます。


高木優一:広告は御社がすべてお膳立てするわけですか。


岡政博:はい。地方でプレスリリースを行うと地元のメディアはほとんど採りあげてくれ、取材に来てくれます。たとえば、NHKなどの番組などで紹介されたりもするのですが、やはり地方では銀行の存在力は大きいですね。



高木優一:ロシアワールドカップ(サッカー)のコインは御社でしか取扱いしていないのですよね。


岡政博:そうです。FIFAの公式コインは、大元にドイツの会社があってそこを通じて全部弊社が購入することになっています。ホスト国のロシアが取り扱うコインは来年入ってくると思います。


高木優一:御社はいつごろからオリンピックコインを取扱うようになったのですか。



岡政博:オリンピックコインを始めて手がけたのは1976年、モントリオールオリンピックからですね。あの時は、世界中が驚くような量のコインを日本が輸入して話題になりました。それから次第に「オリンピックコインは日本だ」と周知されてきましたね。といっても、弊社が全部取り扱ってきたわけでもないのです。88年のソウルオリンピックの時は、西武百貨店が取扱いました。


高木優一:百貨店が記念コインを取り扱ったのですか。


岡政博:そうなのです。しかし、結局売り切ることができず、それ以降百貨店は手を出さなくなりました。



高木優一:やはり素人なんでしょうね。


岡政博:基本的には弊社と組まないと販促ができません。92年のバルセロナのときは伊藤忠が扱いましたが、その時は大成功でしたね。次のアトランタの時も伊藤忠が落札したのですが、そのときは想定した数字の半分しか売れず、そこから先はオリンピックコインに参加することはなくなりました。



オークションの存在を知ってほしい

高木優一:女系家族の相続人で、お父さんの部屋からコインが出てきたのですが、どうしたらいいでしょうという相談を受けることもあります。女性はコインの価値に無頓着の方が多いような気がします。


岡政博:古くて汚いものという捉え方をされることもあります。



高木優一:私も含めて相続を扱う人間にはコインの価値などわかりませんから、税理士も相続税を鑑定できなくて困るという問題が現実に起きてきます。


岡政博:我々もよく遺産を相続される方から査定を依頼されることがあります。その際、非常に高価な骨董品的なコインは、いわゆる市場価格の一番下のレベルぐらいで査定します。税務署がそれに対して異議を唱えることはほとんどないですね。やはり知識がないからでしょうね。


高木優一:また記念コインの話に戻りますが、ワールドカップや夏冬オリンピック、その他のスポーツイベントの開催を考えますと、毎年、何らかのコインが販売されるということになりますか。



岡政博:年3回、銀行ではコインの販売をしています。そのうちの2回はイベントコイン、もう1回は干支です。干支のコインの購入者は毎年着実に増え続けています。もちろん、コインそのものが値上がりすることはありませんが、金なので金価格が上がれば資産価値は確実に上がるということになります。地金型金貨とか金の延べ棒とかを所有している方は、金が5%でも上がればすぐに売ってしまいますが、オリンピックコインを購入した人は5%程度の価値が上がっても売ることはしません。大事なコレクションとして扱っていますので、自分が元気な間は手放すことは考えません。


高木優一:それを所有していたお父さんが亡くなって、家族が調べてみると金価格が上がっている。それで近くのリサイクルショップや質屋さんに行って金価格で売ってしまう。そのようなケースは多そうですね。


岡政博:多いでしょうね。弊社のオークションに出せば、少なくともあと2~3割は高くなる可能性があります。そのようなチャンスを逃している方は大勢いらっしゃると思います。



高木優一:もったいない話ですね。逆に、たとえば、昔のワールドカップのコインを手に入れたいと思ったときは、御社などのオークションを利用するという手立てとなりますね。


岡政博:そうですね。運が良ければかなり安い価格で手に入れることができます。場合によっては発行時の値段よりも安く入手できます。このようなモダンコインは希少性がないのでそれほど値上がりするものではありません。お客様から相談された際には、まずは金価格をベースにして出されたらどうですかというアドバイスをします。最低価格を金価格にして、何人も入札してくれば高くなり、一人しか入札してこなければ最低価格で落札ということになります。弊社は10%の手数料をいただきます。



中国人による中国コインの爆買い状況

高木優一:コインを相続する方が、御社のオークションを利用する手立てを知っていなければ、結局はヤフーオークションに出してしまうということになりますよね。


岡政博:故人が大切にされたコインを弊社がお借りし、オークションに出し、思ってもいなかったお金をお渡しすることができれば、ご家族からは非常に感謝されます。先般、こんな話をコイン商から聞きました。ウィリアム4世の銀貨だったのですが、それを駅前の金券ショップが2千円で購入しました。この英国のアンティーク・コインはオークションに出せば200万円の値が付きます。もちろん、金券ショップも決してだましたわけではなく、知識がないわけですから目方で計って2千円という価格を付けたのですね。



高木優一:そういうことが本当にあるんですね。


岡政博:相続の際、コインの扱いはやはり難しいのでしょうか、最近は遺品整理の専門の方のお付き合いも多くなってきました。


高木優一:オークションに出ている高価なコインを買う側の方のお話もお聞きしたいのですが、実際どのような方が買われるのですか。



岡政博:アンティーク・コインに関しては投資家や富裕層の方が多いですね。コインを投資の対象や資産防衛の手段として捉えるアメリカ流の考え方が普及しつつあります。中国コインも今、かなり熱い状況になっています。弊社が扱った三国志の記念金貨セットという商品があったのですが、1オンス4枚のセットで当時銀行は40万円弱で販売していたものです。今、弊社のオークションに出すと、高い時で500万円以上の値が付き、現在でも200万から250万円の値が付いています。


高木優一:それを中国人のブローカーが、やはり投資目的の中国本土のユーザーのために購入するのですか。



岡政博:そういうことです。いろいろなリサイクルショップのチラシを見ると、中国コインを高価で購入しますと謳っているケースが多いですね。中国人の購買グループが定期的に回ってくるそうです。残念なのは、大判、小判や明治の金貨など、日本の古銭に対する入札が少ないことですね。古銭は文化財だと考えるべきだと思うのですが、その価値がなかなかオークションの落札結果という形になって現われてきません。


高木優一:本日は我々のようなコインコレクションにはあまり縁のなかった人間にも、大変興味深いお話を聞かせていただきました。ありがとうございます。