今回のゲストは、牧アイティ研究所の牧壮(たけし)さん。ITの利便さと使い方をシニア世代に広める活動をしていらっしゃいます。核家族化が進み、高齢者が社会的に隔離された現状が浮き彫りになっている昨今ですが、それを打開すべく、さまざまな地域でITの勉強会を積極的に行っています。


Photo:長谷部ナオキチ

シニア世代とITの親和性

高木優一:まず、牧さんが代表を務められているアイティ研究所についてお伺いします。どのような活動をされているのですか。


牧壮:高齢化社会を迎え、シニアと呼ばれる人たちはどうしても情報技術に適応できなくなっていきます。自分自身も高齢となるにつれ、情報技術に取り残されてはいけない、我々、シニアがこれからどのようにITを活用していったら良いのかを真剣に考えようと思い立ち作った研究所なんです。


高木優一:お声だけでは若々しいので全然わからないのですが、牧さんはお幾つでいらっしゃいますか。


牧壮:来月80歳になります。



高木優一:ても、そのお歳には見えませんね。


牧壮:ITとシニアは縁遠いと言われていますが、両者を結び付けたいというのが私の願いなのです。私自身が実際に習得したITのさまざまな技術の活用を、シニアたちに伝えていくのが主旨です。


高木優一:若い世代は当然ITに関しては、日常的にスマホやタブレットを当たり前のように使いこなしており身近に情報技術を利用しています。でも、シニアにとっては色々な壁が存在するでしょうね。


牧壮:パソコンで言えば、Windows95が登場した頃から家庭に入り込んできたのですが、我々の世代ですと、早くても50歳を過ぎてから始めた人が多いわけです。50の手習いですよ。  今の若い人たちとは全然違う環境で情報化社会を迎えたわけですから、ギャップはかなりありますね。



高木優一:牧さんがやられていることは大変意味があることだと実感します。私は不動産相続の仕事をしているわけですが、実は孤独死の実情を目の当たりにすることが多いんです。日本は豊かだと言われていますが、この現状は何なんだと思いますよ。フェイスブックやツイッターなどで社会と繋がっていれば、このような惨状もある程度は防げるのではないでしょうか。


牧壮:おっしゃる通りですね。シニア世代で一番問題なのは、親しい人や友達が周囲から減っていくということだと考えています。ITはそれをカバーする役割を果たすのです。自分自身が情報発信者となり受け手となることで繋がりが確保できますし、多くの人に新しいアイデアを提供することが励みになったり自分自身の喜びになったりもします。要はシニアライフが楽しくなるんですね。



技術の習得より、「何がしたいか」が重要

高木優一:そう言う牧さん自身が、思う存分楽しんでいらっしゃいますね(笑)。


牧壮:私は、シニアの人たちに難しい技術を伝授しようとは思っていないんですよ。要はシニアライフの楽しみ方の一つとして覚えていただこうということなんです。個人個人、それぞれに生活パターンが違いますから、それに見合った機種の選び方だとかSNSへの接し方などをお教えしています。海外に住んでいる孫の顔を画面で見ながら話ができるんですから。しかも無料で。こんな便利な物を活用しないのはもったいないですよ。


高木優一:孫の方も、今日もおじいちゃん元気だって確認できますしね。


牧壮:孫とテレビ電話をした画像を残して、お茶会などで周囲のシニア達に見せれば、「へえ、すごいな」とみんなが感動してくれて、そこでわくわく感が生まれます。


高木優一:たしかに、そうですね。盛り上がりますよね。



牧壮:以前は、パソコンなどを導入すると、まずは「こうしろ、ああしろ」と使い方、つまり技術の面から入るのが普通でしたけれど、今は違います。楽しむために「何をしたいか」から入りますから、シニアにとっても全然抵抗感が少なくなります。


高木優一:たとえば、シニアの方たちから若い人へ浴衣の着方を、YouTubeにアップして世代間交流を図るなどもできますね。


牧壮:まさにその通りですね。ネットによりさまざまな繋がりが期待できることは大変大きな意味があると思います。世代を超えたコミュニケーションが図れますし、文化の継承もできるようになります。これまでは、シニアがいろいろな経験を積み、それを財産として持っていても、後の世代に伝える術がなかったのですから。


高木優一:それはすごい。


牧壮:そうやって社会復帰をされ、患者自身が病気に対する情報発信をするにまで至っています。これまでは病気については医者が医者の立場で情報提供をしてきた。でも、今はSNSを使って患者自らが情報発信することが簡単にできるようになりました。この例などは、あきらめていた自分の人生が蘇った、ITの活用によって今までにないライフスタイルを確立することができたという好例だと思います。



「安全・安心な使い方をする」が最優先

高木優一:シニアの方の中には、ITと聞いただけで拒絶反応を示される方もいらっしゃいますよね。


牧壮:かにネットの世界に入ることに躊躇はあります。怖いといって尻込みをされる方も多いです。


高木優一:詐欺に遭うんじゃないかとか。


牧壮:そうです。ですから、私どもの勉強会では、安全・安心な使い方を真っ先に学ぶようにしています。フェイスブックで知らない人から友達申請が来ても、絶対に応じるなとかですね。リアルの世界に立脚したバーチャルの世界とでも言いますか、そのことを基本にして地域を越え、世代を越え、どんどん世界を広げていきましょうということですね。



高木優一:悩み事も共有できますしね。そもそも牧さんがこのようなシニアへのIT普及活動をされたきかっけはどういうことだったのですか。


牧壮:聖路加病院の日野原重明先生と知り合うきっかけがあり、先生が100歳の時にシニアの活動の中にSNSを採り入れたいという相談がありました。先生は東北の大震災や中東の紛争の中で、人と人が繋がり合うことのできるSNSに非常に興味を持たれたということでした。先生が主宰されている新老人の会で紹介したいというのがきっかけです。


高木優一:全国規模の1万人ぐらいの会員がある組織ですよね。



牧壮:そこで培ったノウハウを持って、今は私の住んでいる川崎から横浜、都内とシニアが集まっている場に出向いて勉強会を行っているわけです。私自身が勉強しながらね。


高木優一:それは素晴らしい試みですね。どんどんSNSを活用していただき、いきいきとしたシニアライフをおくっていただきたいと思います。本日はどうもありがとうございました。