今回のゲストは納棺師の都野健一さん。

映画の「おくりびと」で我々も納棺師の存在を知りましたが、実際にはどのような仕事なのか、葬儀全体の中でどのような役割を果たすのかなどを詳しく伺いました。


Photo:長谷部ナオキチ

なぜ納棺師の道を選んだのか

高木優一:都野さんは納棺師専門でやられているのですか?


都野賢一:はい、そうです。納棺師を始めて今年で9年目になります。


高木優一:どのような経緯で納棺師という仕事にたどり着いたのですか?


都野賢一:実は大学を出たのち、最初はケンタッキー・フライドチキンに入社したんです。そこで店長とかエリアマネージャーとかを経験したのですが、やりつくしてしまったと言いますか、それ以上先が見えてこない。また、仕事がハードで身体が持たなくなってきたこともあり、たまたま葬儀会社に先輩がいまして、この仕事をやってみないかと言われたのがきっかけです。



高木優一:最初は納棺師ではなく、葬儀社に入られて通常の葬儀の仕事に就いたということですね。


都野賢一:はい、葬儀の仕事は7年間やっていました。


高木優一:そこから納棺師へとシフトしたのはなぜですか?



都野賢一:亡くなられたご家族との関係性構築の問題が一番大きかったと思います。たとえば、ご家族と打ち合わせをしたときに、30万円しかないのだけれどお願いできますかという依頼があった場合、私が入ったところは大手の葬儀社だったもので、そんな金額では受けられないとお断りをしてしまうのです。どうにかしてあげたいのにどうにもできない。会社ではいつもお前は安い仕事しか持ってこないなと言われていまして、そのジレンマに苦しんでいました。そんなとき、納棺師の方が葬儀の前にご家族と親密なやりとりをしているのを目にしたんです。葬儀社が入る前に納棺師と話し合い、もう葬儀の形が出来上がってしまっている。わずかな時間でご家族と信頼関係が構築できてしまっているのです。ああ、納棺師ってすごいなと思いました。葬儀社が入ったときはもうあらかた終わっているような状況です。


高木優一:へえ、ごく短い時間で家族と関係性を築けてしまうんですね。



都野賢一:そうなんです。私、千葉に住んでいたんですけれど、納棺会社が1つあったのでそこに「納棺師の仕事をやってみたいんですけど」と頼み込んでやらせていただいたというのがきっかけなんです。


高木優一:納棺師になるためには何らかの資格のようなものは必要なんですか。


都野賢一:いえ、まったくありません。一から始めて経験を積んで覚えていくという世界です。



荘厳な儀式から家族参加型へ

高木優一:納棺師の仕事は現場で覚えていくしかないということですね。一般の方は納棺師といってもどのような仕事をするのか、あまりピンと来ないかもしれません。湯灌という言葉一つ取っても知らない方が多いと思います。


都野賢一:そうでしょうね。一般の人には「おくりびと」のイメージがぼんやりとあるだけだと思います。実際の納棺師の仕事は、お身体をみせていただき、ご遺体に見合ったお化粧をして旅支度を整え棺の中へご遺体を入れるという流れです。時間としてはだいたい1時間から1時間半ぐらいが目安ですね。



高木優一:それを葬儀社が行う場合もありますよね。


都野賢一:はい。ご予算がない場合などは葬儀社の方で簡素に行うのですが、どうしても納棺師の仕事に比べ丁寧さや密度が違いますから日持ちがしません。火葬日まで変色したり臭いが出てきたりしてしまうこともあります。


高木優一:納棺師の目から見て、葬儀自体、昔と今と大きく変わってきた点はどこでしょうか。



都野賢一:葬儀の規模は年を追うごとに小さくなってきている実感はあります。当然、それに比例して予算も縮小しますから、我々のような外部を使ったオプションをどんどん追加させていくというような戦略を取るようになってきています。納棺に限れば、昔はご家族一同横にきちんと並んで荘厳な儀式のように行っていましたが、今はもっとアットホームといいますか、ご家族を取り囲んで一緒に着替えをしたりお化粧をしたりということも行います。


高木優一:家族参加型ですね。


都野賢一:葬儀屋さんはご遺体を扱うプロではあるのですが、ご遺体に処置を施すプロではありません。たとえば、水死や変死などの腐敗が進んでいるようなご遺体は葬儀屋さんではもうどうしようもなく、我々に頼んでくるというケースは多いですね。私はあまり腐敗が進んでいるご遺体を扱うことはないのですが、そういったご遺体があった部屋の掃除は大変なので中には50万円ぐらいの請求をする業者さんもいます。



ご家族の話を真摯に聴く姿勢

高木優一:自分たちでとても手におえないご遺体をきれいに処理してくれるのであれば50万円ぐらいは払うかもしれないですね。


都野賢一:遺品なども業者が引き取る場合が多いですね。普通ではない死に方をした場合、やはりご家族も遺品を引きとりたがらないですから。


高木優一:改めて納棺師のお仕事で誇らしさや、やりがいを感じるところをお聞きしたいと思います。



都野賢一:やはり、喪主さんたちの辛さを少しでも和らげることができる職業なんだと、9年間この仕事をやってきて感じています。ご家族のいろいろな悩みや課題を私に打ち明けていただくようなこともあります。身内には言いづらいことも私には言いやすいということなのでしょうが、ご家族とそのような親密な関係を作り上げられるかどうかが我々にはとても大事なことだと思います。


高木優一:聞く力ですね。


都野賢一:そうですね。ただ、納棺師の中には葬儀屋さんに言われたことだけを儀礼的にやるだけの方もいます。


高木優一:大往生で亡くなったおじいちゃん、おばあちゃんであれば、家族みんなで和やかに送ってあげたいと思うのが人情だと私などは思いますけれど。



都野賢一:大往生で死んだのだから何もしなくていい、って家族もいますよ。そういう場合でも、やはり口は閉じた方がいいですよというようなアドバイスをすることは心がけています。


高木優一:この仕事に向く人、向かない人はやはりありますよね。


都野賢一:それはありますね。亡くなった方に向き合うことができない人はやはり向いていないと思います。怖い、汚い、悪いものがうつるのではないかなどと感じてしまうんでしょうね。



高木優一:これから日本は少子高齢化が進み、独身のまま亡くなる方も増えていくのは間違いないことだと思います。納棺師の目から見て、これからの日本人は死にどのように向かい合っていくのでしょうか。


都野賢一:確かに孤独死などは多くなってくると思います。たとえば、ケアマネージャーの方とコミュニケーションを綿密に取れるような状況にし、自分が死んだ後の段取りを頼んでおくという方も多くなっていますし、これからも増えていくでしょうね。現に、葬儀会社でもケアマネさんにさかんに働きかけ、商売にしようという動きは活発になっていますね。ケアマネさんを仕切っている会社に営業をしているケースも増えています。


高木優一:そうですか。今日は我々の知らない納棺師さんの世界を聞かせていただきありがとうございました。