
出身:三重県(宮本さん)/岡山県岡山市(多田さん)
年齢:1971年生まれ(宮本さん)/1975年生まれ(多田さん)
学歴:愛知大学(宮本さん)/順天堂大学(多田さん)
職歴・経歴:25年ほど前に、Yahoo! JAPANで一緒に働いていた元同僚です。
その後、それぞれで違うキャリアを歩んでいたのですが、2023年に、話している際に、『望まない孤独』という社会問題の話になりました。これからは我々も、年齢を重ねていく中で、その当事者として身近な問題として考え始めました。そこからソーシャル・ビジネスというジャンルで、社会課題の解決にチャレンジしてみる形で、起業しようという話につながっていきました。
起業のきっかけを教えてください
起業する際にパーパスに掲げたのは、「世の中から孤独をなくす」です。これを事業という形で世の中に提供していこうと考えました。
孤独をなくすといっても、いろんなタイプの孤独がありますし、孤独自体が主観的な感情なので、一人でいることを自ら望む孤独と自分では孤独にはなりたくないけど、孤独な環境に身を置かざるを得ない、望まない孤独の2種類があると思います。我々は、後者の望まない孤独を世の中からできるだけ少なくしていきたいと考えています。その最初の一歩として踏み出せそうなのが、つながりづくりだなと思っています。
このつながりは、リアルなつながりですね。対面でつながって、お互いの表情とか、抑揚とかニュアンスが、ノンバーバルな情報も含めて直接伝わるようなところでつながりを作りたいよねという話をして、それをソーシャル・ビジネスで表現しようとしています。
タノバ食堂について教えてください。
タノバ食堂は、つながりづくりの一つとして位置付けていて、食堂というコミュニティを通してつながりを作ります。参加者同士が、食事という行為を目的に、みんなで集まり初めて会う人同士でも緩やかなつながりを生み出したいと考えています。
緩やかなつながりは、「あ、なんかあの人と会ったことあるな。」という感じです。緩くというのがポイントで、ここで深い関係にはなる必要はないと思っています。顔は知っていて、話もしたことはあるけど、どこに勤めているとか、家族構成がなんだとか、そういう詳しい情報は知らないけど、話はできる。そういう関係が、私たちがイメージしている緩いつながりです。これを増やしていくことが重要だと考えています。
東京に住んでいると、周りに人はたくさんいるけど、ほとんどが知らない人だったりします。そういう状態からほんの少し潤いを持たせる。そんなことが、タノバ食堂を通じてできればいいと思っています。
こんな緩やかな関係が増えれば、例えば地震など大きな災害が発生して、知らない人同士が助け合わなきゃいけないという時に、近くに知っている人がいる状態と、全く知らない人たちしかいないという状態では、みんなでできることに違いが生まれると思っているんです。だから、緩やかでも「知っている」という状態は自分のためにもなるし、みんなのためにもなる。いざっていうときは、自分の住んでいるところを中心に、地続きの所に活動は制限されると思うんです。だから、タノバ食堂は、地域の活動として広めていきたいというのも大事な視点の一つです。
お食事代が『自由価格』という料金設定について教えてください。
コミュニティの維持には、お金がかかります。それを寄付や支援に頼ることなく持続的に可能にする方法として、「自由価格」という方法を選択しました。
どうやって持続可能にするかというと、私たちを含めて、それぞれ食堂にいらっしゃる皆さんには役割を担ってもらいます。例えば、料理を作る人、メニューを考えたり開催を告知したりする人、場所を提供してくれる人、そして食事を食べる人などです。
この中で、自由価格で料金を支払うのは、食事を食べる人だけです。食事を食べる人たちが支払ってくれるお金で、材料の調達や料理人の手配やその他コミュニティに必要な費用全てを賄います。だから、食堂としての利益は0になります。
冒頭でタノバ食堂は、ソーシャル・ビジネスだと言いましたが、食堂で余剰の利益は出さなくて良いと思っています。利益を増やすことが目的になると、それは一般の飲食店と同じですし、みんなで維持したいと思うコミュニティになりにくいと思っているのです。
そんなことで、食堂が維持できるのか?という疑問を持つ方もいらっしゃると思いますが、今の所はなんとかやりくりできています。その理由は、全ての参加者の皆さんに、私たちが考えているタノバ食堂のイメージを共有できているからだと思っています。
タノバ食堂に「お客様」はいないので、どの役割で参加されたとしても、みんなのコミュニティとして、この場所を維持することに貢献していることになります。
私たちが、ここで、この方法でコミュニティを維持・成立させることができるようになったら、将来的には、このノウハウを世の中に公開して、この活動をあちこちに広げていきたいと思っているんです。こうすれば、経済的に持続可能な方法で、あなたの住んでいる所にも、こういう場所を作れるよと呼びかけたいと思っています。これが、タノバ食堂の今の所のゴールですね。
いらっしゃるお客様はどのくらいの年齢層の方が多いですか?
その時々で、多少ばらつきはありますが、ざっくりと3分の1程度が高齢者の方。これに加えて若いご夫婦や家族連れの方、単身者の方も多いです。参加者の皆さんは、近隣にお住まいの方やわざわざ遠方からご参加いただく方も多くいらっしゃいます。
あと、「SETA COLOR(せたカラー)」という世田谷区の地域連携型ハンズオン支援事業という取り組みがあって、私たちも昨年度支援を頂いたのですが、そのコミュニティから来てくれる方もいらっしゃいます。私たちは、事業所も世田谷区ですし、地域のコミュニティや事業者同士のつながりも大事だなと、とても感じています。
タノバ食堂もそういう地域のつながり装置として、月に回そこでみんなでご飯を食べて、何となく知っている人ができて、その人同士が道ですれ違った時に軽く挨拶できるみたいなことが、増えていくといい。そういう場面をたくさん作っていけると良いと思っています。
いままでのお客様でこれがうれしかったなどのエピソードはありますか?
近隣にお住まいのご家族なんですが、ご両親が共働きだというご家庭のお子さんが参加されたことがあります。その子は、家でご飯を食べる時、一人で食べることが多いそうです。でも、タノバ食堂に来ると学校では会うことのない色んな世代の人がいて、その人たちと食事をしながら話ができるので、毎月すごく楽しみにしていると言ってくれました。その後、ボランティア料理人に加わって、調理のお手伝いまでしてくれました。そういう姿をみていて、孤独を感じるということは、本当に主観的な感情であり、年齢や世代とは無関係なんだろうということでした。いつ、どこで、誰が、どのようなことをきっかけに望まない孤独を感じるかは、予測がつかないと思います。だからこそ、タノバ食堂が、そういう感情に少し寄り添える場所になっているかもしれないなと感じることができて、嬉しかったです。
この他にも、毎月ご夫婦で参加されている方やチラシやなどの告知をみて参加してくれたご家族など、ほんとうに参加者一人ひとりに固有の理由があります。参加者の皆さんが抱える多様な理由を私たちの活動が少しでも解消できているという声が聞こえてくると、本当に嬉しく思います。
地元の皆様にアピールしたいお仕事に対するこだわり、想いを教えて下さい。
毎月最終土曜日に龍雲寺会館で、つながりをつくる、食事と対話を楽しむコミュニティ「タノバ食堂」を開催しています。お近くの方は、ぜひ一度遊びに来て下さい。
インタビュー後記
記者自身もインタビューの後タノバ食堂に参加させていただきました。感想としては、皆さんとてもフレンドリーな方が多く、初参加の私にもとても過ごしやすい環境でした。
メニューもメイン以外にも新鮮な野菜ディップやお酒、デザートに食後のコーヒーまで出てきて、どれもおいしくいただきました!!
隣に住んでいる人の顔もなかなか思い出せない。という希薄な都会で、近所の人とのこういったつながりは、とても貴重な場所だと思います。世田谷付近に住んでいる方は、ぜひ一度参加してみてください!!
お問い合わせ
TanoBa合同会社(タノバ食堂)
東京都世田谷区野沢2丁目
web site:https://tanoba.jp/
facebook:https://www.facebook.com/TanoBa.G.K
instagram:https://www.instagram.com/tanoba.meal/
*お電話相談の際、『区民ニュース』の記事を読みました。とお伝え下さい。