車窓から光が差し込み、女の顔を照らす。女を乗せた路面電車はバス停を横切り、男の顔に影を走らせる。ニュアンスを欠いたふたつの顔の上で光と影が織りなすダンス。女と男は偶然と意志の相互作用によって出会いと別れを繰り返しながら、時には同一フレームに収まり、時には交互に映し出されることでスクリーンに豊かな陰影を刻み続ける。瞳で味わうメロドラマ。そんな言葉が脳裏をかすめる。
 白色蛍光灯の厚かましい光が隅々まで行き届いたスーパーマーケットで働く女(アンサ)は、開巻早々、理不尽な理由で仕事をクビになる。以降、映画は画面に闇を取り込むことで豊かさを獲得していくのだが、その端緒となる、スーパーの裏口から出てきたアンサが共に職を辞した同僚に別れを告げ、ひとり夜道を歩く後ろ姿を捉えたロングショットが素晴らしい。蛍光灯に照らされたアンサの行く手に広がる黒々とした闇が暗澹たる未来を予感させるからではなく、不寛容はびこる光のもとで生きることを拒み、闇に分け入ることも厭わない彼女の決然とした足取りが的確に捉えられているからだ。失業者となったアンサは帰宅後、買ってきた夕食を電子レンジで温めるも、ロシアによるウクライナ侵攻の被害を淡々と読み上げるラジオの声に食欲を失ったのか、手付かずのままゴミ箱に捨てる。その後、郵便物に目を通した彼女は意を決したように立ち上がると、家のブレーカーを切り、部屋は暗闇に覆われる。郵便物は電気料金の支払い通知だったのだろうか。ここでも、明るい画面に介入する闇が無機質な映像の連なりに生気を与えるが、それはもっぱら、暗闇に身を馴染ませることで新たな生を引き受けようとする彼女の意志を際立たせるからにほかならない。(「まどろむ男とまなざす女──光と影のメロドラマ」山田剛志)

全文は当館で販売中の映画批評だけが載ったZINE nobody MUG9にてお読みいただけます。

※残り数冊となっております。

『枯れ葉』
5/11(土)~5/17(金) 11:30~
5/18(土)〜5/24(金) 17:00〜

続きは Instagram で

91 いいね! ('24/05/12 06:01 時点)