論文報告から
「腰痛診療ガイドライン」という医者向けの書籍があります。腰痛に関する世界中の論文を調べて、その結果が収載されています。その2012年版(初版)では「BMI(体重)と腰痛の間には有意な相関はない」と書かれていました。第2版は2019年に発行されそこには、「体重に関しては、標準より低体重あるいは肥満のいずれでも腰痛発症のリスクと弱い関連が認められ、健康的な体重の管理が腰痛の予防には好ましい。」とされています。この数年で見解が変化したことが伺えます。私もこのガイドラインから外れないように執筆しているため、初期の著作では「腰痛と体重は関係なし!」と言い切っていますが、最近では修正を加えて「肥満は腰痛の原因になります!」にしています。
腰痛治療での有利不利〜太っている人編〜
通常よりも太っている人が腰痛治療で有利になることは・・・残念ながら何もありません。逆に不利になることは、いっぱいあります。
◆ 薬が効きにくい
体重が100kgの人は、50kgの人の倍量のくすりがないと体内の薬物濃度が同等になりませんが、健康保険で倍量のくすりを処方することはできません。すなわち体重当たりのくすりの容量が減るのでくすりが効きにくくなります。
◆ レントゲン、CT、MRIなどの検査で不利
体が大きい分、画像がブレやすく鮮明度が落ちることが多いです。また、検査以前の問題で、体がデカ過ぎると機械に入りません。レントゲン、CTでは、被爆量も多くなります。
◆ 神経ブロックがやりにくい
ブロック針の長さが足りなくて、目的の部位に届かないことがあります。仮にブロック針の長さ十分でも、目的の部位に到達するまでが深いので難易度が高くなります。
◆ 手術がやりにくい
神経ブロックと同様に、病巣の部位が深いので手術がやりにくく、難易度が高くなります。手術用のレントゲンが見えなくて手術が困難になることもあります。
肥満と腰痛の関係
肥満で物理的に腰部負担が増大して腰痛を引き起こすのは容易に想像がつきます。近年では、それ以外に肥満に関わる因子が指摘されるようになってきました。肥満にともなう内臓脂肪(巨大脂肪細胞)は、炎症性サイトカイン(TNF-αやIL-6など)を増加させます。わかりやすく言えば、肥満によって炎症が起こるのです。一方、腰痛患者の変性椎間板や髄液には炎症性サイトカインが増えていますので、肥満によってその炎症(腰痛)に拍車がかかるのではないかという視点です。まだ仮説段階ですが、その可能性は十分にありそうです。
現実的なところでは、肥満、運動不足、喫煙という生活習慣が、腰痛発生に影響を与える大きな要因とされています。とくに肥満と運動不足は、密接に関係しており、運動して肥満も解消する意義は大きいと考えます。
監修
アレックス脊椎クリニック 名誉院長
吉原 潔(よしはら きよし)
PROFILE
日本医科大学卒業 医学博士。
卒業後は日本医科大学の付属病院および関連病院で研修・勤務する。日本スポーツ協会公認スポーツドクターでもあり、社会人リーグやプロスポーツ選手の治療に当たってきた。その後、帝京大学溝口病院整形外科講師、三軒茶屋第一病院整形外科部長を経て、現在はアレックス脊椎クリニック名誉院長。脊椎内視鏡手術のパイオニアだが、スポーツ医学との接点が多く、フィットネストレーナーの公認ライセンスも所持(NESTA:全米エクササイズ&スポーツトレーナー協会)。筋力トレーニングおよび体重管理にも造詣が深い。
ホームページ
アレックス脊椎クリニック https://ar-ex.jp/spine
黒河内病院 https://kurokouchi.or.jp/index.html
著書
◆脊柱管狭窄症 腰のスーパードクターが伝授する 最新最強自力克服大全(わかさ出版)
◆脊柱管狭窄症 腰の名医20人が教える最高の治し方大全(文響社)
ほか
◆腰痛を治す便利帖 (晋遊舎ムック) 2020/9/7発売
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◆本気で治す腰痛・膝痛 (エイ出版社) 2020/8/26発売
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