善人承継 リレーインタビュー
人と人が繋がる場所
戸塚酒場 憲ーKENー 岩田憲一朗 (いわたけんいちろう) さん インタビュー


氏名

岩田 憲一朗(いわた けんいちろう)

生年月日

昭和62年1月5日

出身地

横浜市戸塚区上倉田町

家族構成

妻、子どもとの三人暮らし

経歴

高校三年生から大学卒業まで、だんまや水産戸塚東口店で約五年間アルバイト。大学卒業後、ITベンチャー企業へ入社。約一年半勤務したのち、養老乃瀧株式会社へ転職。配属から約一年で店長に抜擢され、多数の店舗で店長を経験。

退社後、千葉真也さん、松尾和幸さんとともに2026年4月「戸塚酒場 憲ーKENー」を開業。


戸塚酒場 憲・岩田憲一朗さんがつくる

人と人がつながる場所


焼き鳥から刺身、気軽な一品まで。

店の温かさと親しみやすさが伝わる。


「一杯だけでもいいんです。

顔を見せに来てくれれば」

 

戸塚区上倉田町にある「戸塚酒場 憲ーKENー」店主の岩田憲一朗さんは、屈託のない笑顔でそう話す。


居酒屋の経営者なら、客単価や回転率を気にするものだと思っていた。ところが岩田さんが大切にしているのは、目の前のお客さんが今日も気持ちよく過ごし、また明日もふらりと立ち寄ってくれること。

コーヒーだけを飲んで帰る人もいる。仕事帰りに一杯だけ飲む人もいる。毎日のように顔を出し、少し話して帰る人もいる。

「店って、人が入ってなんぼですから。そこから口コミで広がったり、次に家族や友人を連れて食事に来てくれたりする。そういう繋がりの方が大事だと思っています」。その言葉には、十五年以上、数々の店舗で店長を務めてきた人の経験と、地元・戸塚で商売をする人の温かさが滲んでいた。

バスケットボールに夢中だった、面倒見のいい長男

岩田さんは、昭和62年1月5日生まれ。横浜市戸塚区上倉田町で、三人兄弟の長男として育つ。

幼い頃はゲームや虫取りが好きな、ごく普通の少年だったという。母親からは「人当たりがよく、面倒見のいい子だった」と言われていたそう。

小学三年生の頃、地域のミニバスケットボールチームに入ったことをきっかけに、生活はバスケットボール一色になる。高校、大学へはバスケットボールの推薦で進学し、大学三年生まで競技を続けた。弟二人もバスケットボールを経験し、兄弟で外に出てボールを追いかけた。特別なきっかけや、憧れの選手がいたわけではないが、始めたら夢中になり長く続けた。その姿勢は、今の仕事にもつながっているように思える。

仲間の動きを見て、自分の役割を判断する。誰か一人の力だけで勝とうとせず、チーム全体で店をつくる。長年の店長経験で磨かれた岩田さんの感覚の土台には、青春時代を捧げたバスケットボールがあるのかもしれない。


忘れられなかった、居酒屋で働く楽しさ


高校三年生から大学卒業までの約五年間、岩田さんは戸塚駅東口にあった海鮮居酒屋「だんまや水産」でアルバイトをしていた。

営業が終われば、仲間たちとカラオケやボウリングへ行く、時にはそこで夜を明かす。社員もアルバイトも仲がよく、毎日がとにかく楽しかった。

しかし大学卒業後、岩田さんが選んだのは飲食業ではなく、都内のITベンチャー企業。サーバーの保守や営業を担当した。働き始めて一年半ほど経った頃、岩田さんは気づく。


「自分には、合っていないな」

 

そんな中、心に残っていたのは学生時代に経験した居酒屋の楽しさだった。退職後、アルバイト時代に世話になった先輩店長へ連絡した。


「社員として、やってみたいんですけど」

 

そこからの動きは早かった。池袋の本社で約三か月の研修を受け、養老乃瀧株式会社へ入社。現場経験を生かし、配属から約一年で店長に抜擢された。

以降、だんまや水産戸塚東口店をはじめ、武蔵新田、江戸川橋、一軒め酒場浜松町、青物横丁、藤沢、川崎、代々木西口、上野アメ横、御徒町アメ横、上大岡など、多くの店舗で店長を務め沢山のお客様と接してきた。


「結局、店は人なんです」

 

料理や酒に自信があることは大前提。しかし多少不器用なことがあっても、働く人がよければお客さんはまた来てくれる。反対に、どれほど料理がおいしくても接客で嫌な思いをすれば、次はない。十五年以上の店長経験を経て、岩田さんがたどり着いた答えは、驚くほどまっすぐだった。

「この二人でなければ、やっていなかった」

独立を考え始めたのは、開店のおよそ二年前だった。色々な物件を見に行き、養老乃瀧のフランチャイズも検討した。しかし、なかなか「ここだ」と思える場所に出会えない。

そんな時、上倉田町で長く営業していた焼き鳥屋の大将から声がかかった。岩田さんは、以前からその店に一人で食事に通っていた。実は酒はあまり飲めない。それでも料理を食べに行き、仕事の話をし、交流を深めてきた。大将もまた奥様と二人で岩田さんが勤めていた各地の店舗へ足を運んでくれたという。

大将が店を閉めることになった際には、岩田さんが金曜、土曜の忙しい営業時に店を手伝った事も。長年積み重ねた信頼の先に、「ここをやってみないか」という話が舞い込んだのである。


「運命だと思いました。

どうせやるなら、地元でやろうと」

 

そして声をかけたのが、養老乃瀧時代の仲間、千葉真也さんと松尾和幸さんだった。

三人は、それぞれ別の店舗で店長を務めてきた。岩田さんはかつて千葉さんの部下として働き、松尾さんとは中野の社員寮で一緒に生活した。店長会議で顔を合わせプライベートでも交流を続け、「いつか一緒に何かできたら」と話していた仲間だ。


「千葉と松尾は、僕にとって別格なんです。

この二人じゃなければ、やっていません」

 

三人全員が、十年以上の現場経験を持つ。岩田さんは、このチームをサッカーにたとえて「小さなレアル・マドリード」と笑う。少々スケールの大きなたとえではあるが、店に立つ三人を見るとあながち冗談とも言い切れない。それぞれが店長として判断でき、それぞれが料理、接客、店づくりを考えられる。誰かの指示を待つのではなく、気づいた人がすぐに動く。

入口の見え方、メニューの内容、店内の換気、喫煙スペース、空調設備。気になることがあれば三人で話し、その場ですぐに改善していく。チェーン店時代には難しかったことを、今は自分たちの手ですぐに変えられる。それが岩田さんには、たまらなく面白い。

年中無休でも、三人はきちんと休む

戸塚酒場 憲ーKENーは年中無休で営業している。

それでは、家族との時間がなくなってしまうのでは?と心配になるが、三人体制になったことで、一人ずつ交代で休めるシフトを組めるようになった。

店を休めば、その日の売り上げはゼロになる。一方で家賃や設備費は、休んでもなくならない。毎日営業することで食材の回転もよくなり、売り上げを確保しながら、働く三人の休日もつくる。

年中無休は、誰かが休まずに働き続けるための仕組みではない。むしろ三人が長く働き、家族との生活も守るために考えた仕組みなのだ。

岩田さんは現在、奥様と幼い子どもの三人で、戸塚区吉田町のマンションに暮らしている。奥様とは大学時代の先輩、後輩の関係だったそう。ある飲み会をきっかけに再会し、交際前に二人で韓国旅行へ行った。旅先で長い時間を一緒に過ごし、「この人とは合う」と感じた岩田さんから交際を申し込んだ。


「妻とは本当に価値観が合います。

そこはすごく大事だと思います」

 

奥様も仕事を続けており、夫婦ともに働く家庭だ。子どもの急な発熱や保育園のお迎えには、近くに住む母親や奥様の妹が協力してくれる、有難い環境だ。

店長として長時間働いてきた岩田さんにとって家族や親族の支えは決して当たり前ではない。

休みの日には家族の予定を優先する。地元に住み、実家の近くで子どもを育て、周囲の手を借りながら暮らしている。目の前には川があり、自然を感じられる。大型商業施設が近く、買い物にも困らない。駅からは徒歩十五分ほどだが、バスを使えば不便は感じない。


「戸塚は、めっちゃいいです」


休日には家族との時間を大切にする岩田さん。

店を支える日々の裏側には、かけがえのない家庭の時間がある。

 人の記憶に残る店を、戸塚に

岩田さんが店づくりで特に気をつけているのが、トイレの清潔さだ。


「二、三人使ったら確認に行くくらい

気をつけています」

 

以前の店では一つだったトイレを男女別にし、喫煙室も新たに作り、たばこを吸う人も吸わない人も、同じ店で快適に過ごせるようにしたのだ。

もう一つの決まりは、お客さんへの声かけ。一人で来たお客さんを、ぽつんとさせない。ただし、ゆっくり飲みたい人には無理に話しかけない。携帯で動画を見ている人、静かに過ごしたそうな人、誰かと話したそうな人。その空気を読み、距離を変える。これはマニュアルでは身につかない。


「楽しくなかったら、

居酒屋じゃないじゃないですか」

 

店には女性同士のグループも多く、男女の割合はほぼ半々。毎日のように来る常連さんがいる一方、開店から数か月が経っても、新しいお客さんが来ない日はないという。

営業時間を16時からにしたのも、早く仕事を終えた人や、近隣の店が開くまで一杯飲みたい人に喜ばれている。実は綿密な市場調査をしたわけではない。


「仕込みに二時間くらい。

だったら16時に開ければいいんじゃないかって」

 

長年の経験から生まれた感覚が、地域の暮らしにぴたりとはまった。

岩田さんたちは今後、最大三店舗ほどまで広げ、それぞれが責任者を務める未来を描いている。場所も駅前の一等地を狙っているわけではない。地元の人が求めている場所なら、駅から離れていても店は成り立つだろうと考えている。むしろ近くに似た店がないからこそ、地域の人に愛される店になれる。AIやITが進化し、人と直接話さなくても多くのことが済む時代になった。だからこそ岩田さんは、居酒屋の価値はこれからさらに高まると考えている。

顔を合わせ、笑い、時には悩みを話す。知らないお客さん同士がいつの間にか会話を始める。一杯の酒と一皿の料理から、人のつながりが生まれていく。


「細くても、長く通ってもらえたら…

それが一番です」

 

戸塚酒場 憲ーKENーは、特別な日にだけ訪れる店ではない。少し疲れた日、誰かと話したい日、一人で静かに飲みたい日、夕飯の前に、ほんの一杯だけ寄り道したい日…一人でも、仲間と大勢でも誰とでもどんな時でもふらっと行きたくなるそんな店。

扉を開ければ、十五年以上にわたり居酒屋を見続けてきた岩田さんと、頼もしい仲間が優しい笑顔で迎えてくれる。

開店の日、店先には地域や仲間から届いた祝いの花が並んだ。

左は「戸塚酒場 憲ーKENー」の前に立つ岩田さん。


編集後記

「一杯だけでもいい」

「店は人」

「楽しくなければ居酒屋じゃない」

 

岩田さんの口から出てくる言葉は、どれも驚くほどシンプル。

色々とお話を聞いた中でも特に印象に残った事は、トイレへの並々ならぬ情熱でした。お客さんが二、三人使ったら確認するくらい気を使うと。

そして喫煙室を設け、喫煙する人も、しない人も快適に過ごせる様に…ポイント高いです👍


それから、店長経験豊富な三人を「小さなレアル・マドリード」と表現する岩田さん。上倉田町に、まさか銀河系軍団がいるとは思いませんでした(笑)。

岩田さんは、居酒屋を単に飲食を提供する場所とは考えていません。誰かの記憶に残り、人と人が出会い、地域の思い出が増えていく場所。その思いは、以前の店の大将から岩田さんへ、そしてこれからの戸塚へと、静かに受け継がれています。

仕事帰りに少しだけ飲みたい方も、誰かと話したい方も、まずは一度、戸塚酒場 憲ーKENーの扉を開けてみてください。

一杯だけのつもりが、二杯、三杯と、いつの間にか長居することになるでしょう。私もそんな一人で、初めて行った日から週に三日通いましたから(笑)。そんな私のオススメは、クリームチーズの味噌漬け、最高です😋


お問い合わせ

戸塚酒場    憲ーKENー

〒244-0816 神奈川県横浜市戸塚区上倉田町383 小串ビル 1階

TEL:045-719-5240

GBP:https://maps.app.goo.gl/9GpcKCfAugoUaFKK8?g_st=ic

*事前に予約する事をオススメします。

ご予約の際は『区民ニュース』の記事を読みました、とお伝え下さい。

お店のInstagram@ken_totsuka.sakaba