善人承継 リレーインタビュー
七つの海を渡る帆は、岡山の山の中にたどり着いた。―三宅七帆という人生
大芦高原キャンプ場 おかみ 三宅 七帆 (みやけ ななほ) さん インタビュー

「七帆」という名前は、生まれる前から本人が選んだ――と言ったら、少し大げさだろうか。

母のお腹にいた頃、名前の候補は「七海」だった。

七つの海を渡るような、大きな人になってほしい。

そんな願いを込めて家族が名前を考えていたとき、四つ上の兄が突然言った。


「ななほちゃんがいい」


すると、お腹の中の赤ちゃんが、まるで返事をするように元気に動いた。

母は「これだ」と思った。

こうして彼女は、三宅七帆になった。

七つの海を渡る船。その船を進める「帆」。

そして29年後。

大阪で生まれ、東京で働き、たどり着いた場所は――岡山県美作市、上山。

海ではない。山である。しかも、かなり山である。


だが話を聞いていくと、不思議なくらいこの名前が彼女の人生に似合っている。

決められた航路を進む人ではない。

風が吹いたら、帆を張る。

予定していた港に着かなかったら、「じゃあ、こっちも面白そう」と次の航路へ進む。

そして今、夫と二人の子どもとともに、山の中のキャンプ場で暮らしている。

人生とは、本当にわからない。

ただ一つ言えるのは――。

この人、たぶん「普通」という航路図を最初から持っていない。


氏  名:三宅 七帆(みやけ  ななほ)

出身地:大阪府吹田市出身

居住地:岡山県美作市・上山地域在住

家族構成:夫・康太さん、男の子、女の子の4人家族

職  業:キャンプ場経営・管理、キャンプウェディングプランナー

怒られる。でも遊びたい。――母との攻防戦

七帆さんは、子どもの頃から外で遊ぶことが大好きだった。

小学4年生からサッカーを始め、髪は短く、服は姉のお下がりより兄のお下がりを好んだ。


「男の子に間違えられることも多かったです」


かなりのボーイッシュ少女である。

一方、母はとても厳しかった。

門限は守る。ゲームは買わない。勉強もしっかりする。

テストで100点でなければ、


「なんで100点じゃないの?」


と聞かれる。

兄と姉が怒られている姿を横目で見ながら、七帆少女も当然学習した。

母は怖い。普通なら、ここで大人しくなる。だが七帆さんは違った。

母は怖い。だが遊びたい。

天秤に乗せると、なぜか毎回「遊びたい」が勝つ。

門限ギリギリまで遊ぶ。

友達とユニバーサル・スタジオ・ジャパンへ行きたいと言えば母に止められ、それでも友達と行った。

帰宅後、プリクラが発見される。母にバレる。激怒される。

……非常にわかりやすい完全犯罪失敗例である。


しかし七帆さんには、自分がやりたいと思ったことを「怒られるから」という理由だけで諦められない性格があった。

その姿を見ながら育った姉は、後になって七帆さんに「羨ましさ」や「コンプレックス」を感じていたことを打ち明けたという。

姉は母の期待に応えようとした。

七帆さんは、その期待の枠からちょいちょい飛び出した。

そして飛び出し続けた結果、母のほうも少しずつ変わっていった。

大人になってからは、母、姉、七帆さんの三人で当時のことを話す機会が増えた。


「あの時はそんな感じだったよね」

「母さん、あれはひどかったよな」


過去を笑って話せる今がある。子育てに完璧な正解などない。厳しかった母にも愛があった。

それを七帆さん自身が今、母親になって理解している。

だから幼い頃の自分に声をかけるなら、言葉は一つ。


「そのまま行け」


実に七帆さんらしい。

反省なし。……いや、違う。

後悔がないのである。

第一志望に落ちた日が、夫に出会う道をつくった

七帆さんの人生には、一度、大きな挫折がある。

小学6年生。

兄も姉も通っていた学校を受験した。自分も当然そこへ行くつもりだった。

塾の先生からも「今の成績なら大丈夫」と言われ、他校は受けなかった。受かると思っていた。

ところが――落ちた。

合格発表を見た瞬間、大号泣した。


「落ちることを想定していなかったんです」


絶対に行けると思っていた場所に、行けなかった。

12歳の七帆さんには、あまりにも大きな出来事だった。

もう受験なんかしない。地元の中学校へ行く。そう意地になった七帆さんを、塾の先生が止めた。

そして別の中高一貫の女子校を受験することになった。

そこで彼女は、関西学院大学につながるコースへ進む。

勉強が大好きだったわけではない七帆さんにとって、ありがたい環境だった。

そして、その流れの先に関西学院大学があった。

さらにその先で出会ったのが、後に夫となり今回の紹介者である三宅康太さんだった。


第一志望に受かっていたら、康太さんとは出会っていなかったかもしれない。

人生とは、つくづく皮肉である。

12歳の七帆さんからすれば「人生最大の失敗」。

29歳の七帆さんから振り返れば「人生最大級の分岐点」。

失敗か成功かは、その瞬間にはわからない。

だから七帆さんは言う。


「どんなことがあっても、そういうふうになっているというか。流れに任せて、そちらの人生を楽しんできた気がします」


ちなみに高校3年生では、クラス対抗のコーラスコンクールで指揮者を務め、念願の優勝を果たした。

卒業後も、仲間から贈られたメッセージボードを時々見返す。

第一志望には落ちた。でも別の学校で、大切な仲間ができた。

指揮者になった。大学へ進んだ。夫に出会った。

人生の伏線回収としては、なかなか出来すぎている。

 「キャンプ場の管理人と結婚する」――それ、七帆っぽいな

大学卒業後、七帆さんは東京の映像制作会社に入社した。

CM制作の現場で、先輩プロダクションマネージャーのアシスタントとして働いた。

企画から完成まで、多くの人と連絡を取り、スケジュールを組み、必要なものを揃え、一つの作品を形にしていく。

忙しい仕事だったが、楽しかった。


「この仕事を続けたい」


そう思っていた。

そこへ康太さんから結婚の話が出る。

東京に残り、好きな仕事を続けるか。康太さんと結婚して岡山へ行くか。

七帆さんの人生の中で、自分の意思で選んだ最大の分岐点だった。

そして彼女は、岡山を選んだ。

理由はシンプルだった。


「結婚するなら、この人がいいと思った」


はい、出ました。善人承継恒例、突然のノロケです。

しかも移住の理由を聞けば、


「地域おこしがしたかったわけじゃないんです。この人と結婚したいから来たんです」


きゃー……もう結構です。ごちそうさまです笑

友人たちに、


「キャンプ場の管理人と結婚するんよ」


と伝えると、返ってきたのは驚きより、


「めちゃくちゃおもろいやん」

「七帆っぽい」


だった。

確かに、都会の制作会社から山のキャンプ場へ移住する29歳。普通なら人生の大転換である。

七帆さんの場合、「らしい」の一言で片づいてしまう。

そして現在、夫婦には男の子と女の子、二人の子どもがいる。


夫婦はお互い三人きょうだいの末っ子。


「三人欲しいね」


という気持ちもあるという。

夫婦仲は――いい。ただし、喧嘩もする。


「頑固同士なので」


似た者夫婦というやつだ。

お互い「人生を良くしたい」「愛を持って人と接したい」「子どもにはいろいろ経験させたい」という方向は同じ。

だが、向いている方向が同じだからこそ、細かい角度でぶつかる。

七帆さんが母や姉に相談すると、言われる。


「結局あんたら、お互いのことを思ってやってる喧嘩やろ」


喧嘩の理由までノロケに変換される。

この夫婦……手強い。

結婚式は“式場でやるもの”じゃない。キャンプ場でやったら最高だった

実は七帆さん、大学時代の就職活動では、最初にウェディングプランナーを目指していた。

経済学部の友人たちが商社や銀行へ向かう中、


「スーツを着たくない。9時5時でも働きたくない」


と思っていたらしい。

全国の銀行員の皆さん、どうか怒らないでいただきたい。この方は特殊なんです笑

本人は最終的に映像業界へ進むのだが、結婚後、思わぬ形で夢は戻ってきた。

自分たちの結婚式を、キャンプ場で開いたのである。

理由は単純だった。

結婚式場での披露宴が、自分たちらしく想像できなかった。

大切な友達ともっと長く話したい。自然体で来てほしい。かしこまった「式」ではなく、遊びに来るような気持ちで、一緒にパーティーをしたい。

ならば――キャンプ場でやればいい。

実際にやってみると、


「もう、あまりに楽しくて。最高だったんです」


そして同時に感じた。

こんな結婚式があることを知らないまま、選択肢にも入らず結婚式を挙げるのは、もったいない。

そこで七帆さんは、キャンプウェディングを事業として始めた。これまでに自分たち以外にも3組の結婚式を手掛けている。


参加者は最初、少し戸惑う。


「キャンプ場で結婚式?」

「服……着るよね?」


当然である。

結婚式と聞いて、テントと焚き火を最初に想像する日本人はまだ少ない。

ところが帰る頃には、


「今までで一番いい結婚式だった」


と言ってくれる人がいる。

それが七帆さんは嬉しい。

東京時代、映像制作で学んだ段取り力もここで活きた。誰に連絡する。何をいつまでに準備する。誰がどこを担当する。

かつて諦めたウェディングプランナーという仕事が、巡り巡って岡山の山の中で叶っていた。

人生は面白い。一本道ではない。


一度離れた夢が、別ルートから追いついてくることもある。


子どもが泥だらけになっても、笑っていられる場所

七帆さんが上山を好きな理由は、景色だけではない。

この地域では棚田の再生活動が行われ、移住者も多い。さまざまな人生を経験した人たちが集まり、話をすると面白い。

何より、自分たちにはキャンプ場がある。

大阪や東京の友人たちが遊びに来る。自然の中で一緒に過ごす。帰る頃には、来た時より少し顔が緩んでいる。


「解放感のある顔になって帰っていくのが嬉しいんです」


子育てにも、この環境は合っていた。隣近所を過剰に気にしなくていい。

すぐ砂遊びができる。水浸しになってもいい。田んぼで泥だらけになれる。

広い場所にいると、大人の心にも余裕ができる。

その余裕がある状態で子どもを見ると、多くのことを許せる。

都会に住むことが悪いわけではない。田舎暮らしにも草刈り、虫、車、家探しという現実がある。

だが、こんな暮らしもある。それを七帆さんはもっと知ってほしいと思っている。


そして、若い人たちにも上山へ来てほしい。

人が減れば、田畑だけでなく、道路沿いの土地まで少しずつ森へ戻っていく。

だから未来に残すためにも、人が住むことが必要になる。

いずれYouTubeなどでも、この暮らしを発信していきたいという。


キャンプ場。キャンプウェディング。棚田。泥だらけになる子どもたち。その中心には、七帆さんが人生のテーマとして挙げた一文字がある。


「愛」


母から言われた、ジョルジュ・サンドの言葉が心に残っている。

人生における良きものとは何なのか。七帆さんの答えは、とてもシンプルだ。

善人とはどんな人ですか。そう尋ねると、彼女は言った。


「その人に、愛があるかどうかじゃないですかね」


きっと七帆さんにとって、愛とは優しい言葉だけではない。

厳しかった母にもあった。喧嘩する夫婦の間にもある。子どもを自由に遊ばせたいという願いにもある。

友達に会いたいと思えば会いに行くことにもある。知らなかった結婚式の選択肢を、誰かに渡すことにもある。

七つの海を渡る船のように。


七帆という帆は、これからも風を受けて進んでいく。

ただ、次に向かっている場所は海の向こうではない。

まずは――。


「5年後、いい家は建ってる?」


だそうだ。

ちなみに夫婦そろって貯金はあまり得意ではないらしい。

七つの海を渡る前に、まずは住宅資金という大波を乗り越えていただきたい。

その分野なら喜んでお手伝いしますぞ。

インタビュー後記

以前、夫の三宅康太さんを取材した。

落ち着いていて、論理的で、それでいて「やりたいこと」への芯が強い人だった。

今回、七帆さんと話して妙に納得した。


ああ、この二人だから山の中でキャンプ場をやってるんだ。


康太さんが地図を広げ、七帆さんが「面白そうだから行こう」と帆を張る。

……そんな夫婦に見えた。

ただし二人とも頑固らしいので、航海中に船長が二人になることもある。

そりゃ揉める。

でも面白かったのは、二人がぶつかる理由まで「相手を思っているから」だということ。

ここまでくると喧嘩すらノロケである。少々腹立たしい。

七帆さんの人生を聞いていると、「予定通りにいかなかったこと」がことごとく次につながっている。

中学受験に落ちて、別の学校へ進んだ。そしたら大学への道ができて夫と出会った。

好きだった東京の仕事を辞めて岡山へ来たら、自分たちのキャンプ場で結婚式ができた。

そして今、かつて目指したウェディングプランナーのような仕事をしている。


人生には、行き止まりに見える場所がある。

でも実際には、そこに横道が一本隠れているのかもしれない。七帆さんは、その横道を見つけるのがうまい。

というより、


「こっち、面白そうやん」


と勝手に入っていく。そんな人だ。

もし、結婚式を考えている人がこの記事を読んでいるなら。

ホテルもいい。式場もいい。レストランもいい。

でも一度だけ、「キャンプ場で結婚式」という選択肢も覗いてみてほしい。

そして最近、都会で少し疲れている人がいるなら。

岡山の山の中へ遊びに行ってみるのもいい。そこにはきっと、パワフルなキャンプ場の女将がいる。

子どもたちは泥だらけになり、大人は少し肩の力を抜き、夜になれば空を見上げる。

三宅七帆という人に会ったら、人生は一本道じゃなくてもいいと、少しだけ思えるかもしれない。

ちなみに私もキャンプ場へ行く約束をしてしまった。

これは取材ではない。たぶん遊びである。


そういう仕事なら、いつでも歓迎したい。

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テント・調理器具などのレンタル有り(事前予約制)

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*お問い合わせの際、『区民ニュース』の記事を読みました。とお伝え下さい。

ご紹介者さま: 株式会社にまつわるエトセトラ 三宅 康太 さん