まちの仕事人インタビュー
誰かの大切な人を救う
虎の門病院 乳腺・内分泌外科 医長 田村 宜子 (たむら のぶこ) さん インタビュー

東京都出身。東京医科歯科大学卒。国立がん研究センター中央病院乳腺外科を経て、2013年『虎の門病院』に赴任。2017年より乳腺・内分泌外科の医長を務める。

最前線で活躍する乳がんの専門医

今の仕事をはじめられたきっかけを教えてください。

小さい頃は、どうすれば周りの人に褒められかを探りながら、期待に応えることを目標に勉強していました。その考えが変わったのは、小学校時代にあった家族の病気。「どんなにテストで良い点を取って褒められても、知識や技術を身につけて生かせないと、大切な人の役に立つことは出来ない」と痛感しました。そこから将来の模索が始まり、テレビやドラマの影響を受けて、流行の仕事を考えたこともありましたが、最も人の役に立つ仕事を考えた結果、医療の道に進むことを決意しました。大学では、教授から「外科医をやるなら“がん”をやったら!?」と強く勧められ、国立がん研究センター中央病院で治療に携わりました。その後、いくつかの医療機関からお声がけをいただき、キャリアの転機を迎えたときに、これまでに蓄積した乳がんの治療に関する知識と経験を、最大限に活かせる場所は、経験豊富な専門医が所属し、設備の充実しているココしかないと考え、『虎の門病院』に赴任。現在に至ります。

仕事の特徴は、どのような点にありますか?

“乳がん”治療全般に関わっています。治療といっても『診察』『手術』『薬物療法』『放射線治療』などさまざまです。患者さんの病状や癌のタイプ、そして価値観に合わせて、最適な治療を一緒に考え、提案していきます。“乳がん”は、日本人女性の罹患率が最も多いがん。治療法も治療薬も、研究により日々進歩しており、毎年のように最適なものが変わっていきます。世界で行われている、日々進化するゴールデンスタンダードを素早くキャッチし、当院と患者さんの状況に合わせてアップデートしていくことも、重要な仕事の一つですね。また、“乳がん”は病気になったことを周囲に伝えづらいとも言われています。特に会社や社会が、がんやその治療に対する理解が不足している場合、自分の病名を伝えたときに、かわいそうに思われたり、特別に優しくされたり、気持ちを押し付けられたりするなど、普段通りに接してもらえないという悩みが生じます。そんな患者さんの抱える悩みを聞き、相談に乗ることも大切な仕事ですね。現在の仕事は、外来が半分手術が3割~4割、残りの時間は、チームや当院をもっと良い環境にするために使っています。


専門性と、患者さんへの配慮の両立

どんな患者さんが多いですか。

当院は都心にあるため、地方に比べて20代~50代の就労世代の癌患者さんが約8割と比較的多いです。ちなみに、そのうちの4人に1人は、39歳以下の思春期・若年成人(AYA)世代。同世代に同じ境遇の人が少ないがん患者さんは、相談相手も少なくなるため特にサポートが必要になることが多いです。当院は都心にあることもあり、検診で発見される、ステージⅠ~Ⅱなど早期の方が多いのですが、当院には腫瘍内科があり、設備も整っていることから、ステージⅢやステージⅣの癌患者さんが、かかりつけ医から「虎の門なら」と紹介されることも多いです。がん患者さんの就労環境を整えるために、勤務先の産業医の方と、私たち主治医が連携することも。他に2019年から化学療法による脱毛を抑制し発毛が早い『頭皮冷却療法』を周術期の乳がん患者さんに対して始めたこともあり、それらを理由に受診される方も増えました。また、若い乳がん患者さんの将来の妊娠・出産の相談にも乗っています。がん患者さんの将来の不妊に対しては、補助金はあるものの、まだ保険外診療です。経済的・身体的・精神的に不安を抱える中で、可能な限りのサポートを行う必要があります。最後に、誤解を恐れずに言うと、がんになったからといって必ず治療しなければならない訳ではないと考えています。病院にやってきた患者さんがなぜ治療したいのか、つまり「なぜ“生きたい”と思うのか」。その理由を考えていただいたうえで、乳がんや治療に向き合えるよう一緒に考えています。

仕事をするうえで、心掛けていることを教えてください。

“専門性の高い腕の良い医師”であることと、“患者さんの気持ちを汲み取れる医師”であることの両立です。最新の治療を身につけ、実践し続けることは当然ですが、自らの学びにのめり込み、治療に意識を向けすぎるあまり、患者さんの気持ちをおろそかにしてしまう恐れもある仕事だと思います。正直30代の途中までは、寝ても覚めても治療のことに意識が向かい、頭の休まる暇もなかったのですが、子どもを出産し子育てに携わる中で、患者さんの普段の生活を意識することができるようになりました。それにより、患者さんの生活の中で起こる悩みについても気づくことができるように。気づきをくれた家族に感謝ですね。最近では、プライベートの時間の中に、なるべく医師でない部分をつくるように意識しています。これからも知識と技術の習得に精進し続けますが、これからは、チームや虎の門病院、さらには医療業界を良くするための活動にも力を入れていきたいと考えています。こうした考えを持つことができて、迷いなく目の前の仕事に打ち込める環境は本当にありがたいですね。私の力で、誰かの大切な人を救うことができると信じて、これからも全力を尽くします。


インタビュー後記

Tシャツ姿で現れた田村先生。聞けば院内では白衣姿の方が珍しいとのこと。恰好を気にすることなく、目の前の患者さんと向き合うことに全力を傾けている姿勢の表れだ。専門性の高さはもちろん、インタビュー中にお子さんからの急な電話に対応する様子から、本人の心掛けが体現されていることが良く分かる。乳房の病気について、精密検査を受けたり、専門家の意見を聞きたいときには、「虎の門病院 乳腺・内分泌外科 田村先生」への紹介状を書いてほしいと、かかりつけ医に相談すると良いだろう。

お問い合わせ

名前:虎の門病院

住所:東京都港区虎ノ門2‐2‐2

HP:https://toranomon.kkr.or.jp/

 *ご相談の際は、『区民ニュース』の記事を読みました。とお伝えください。