今回のゲストは参議院議員の三原じゅん子さん。

かつて、ブラウン管を通じて知らない方はいないと思いますが、現在は地域に寄り添った政治活動を精力的にされています。

今回の取材では特に、女性の社会への進出を阻むさまざまな障害と、それを改善していくことの重要さを、熱意を持って語っていただきました。


Photo:長谷部ナオキチ

女性がもっと社会で活躍してもらいたい。でも現実は・・・

高木優一:三原さんはずっと川崎市にお住まいを構えていらっしゃいます。近年、人口は増え瀟洒な高層マンションなども林立していますが、あと6~7年経つと、生産者人口、つまり15歳ぐらいから65歳ぐらいまでの働き手は、人口全体が増加しているにもかかわらず減少していきます。そうなると当然、買物をする金額も減っていく。税金を払う金額も減る。もちろん、川崎市だけでなく日本全体がそのような状況にあります。まさに、これこそが少子高齢化現象ですね。そのように働き手が少なくなっている日本の現状を見据えれば、やはり女性にもっともっと活躍してもらわざるをえないという話になってきます。そのあたりの、女性の社会進出という視点からまずはお話しをお聞かせいただきたいと思います


三原じゅん子:おっしゃるように、今、そしてこれから先はさらに、日本では女性が働くことが非常に求められてくると感じています。女性がさらに働きに出ればGDPが15%伸びるという現実、そうしなければ日本の経済は立ちいかなくなる深刻さを、国民の皆さんにはもっと知って欲しいという気持ちはありますね。



高木優一:でも、そんな現実だからといって、「女性も働いて欲しい、働くべきだ」と決めつけてしまうと、嫌悪感を持ってしまう女性の方もいますよね。男性も女性も共に輝ける社会を作ることが大切だと感じます。ところが、日本は意識面にしろ制度面にしろ、欧米諸国などに比べれば、まだまだ遅れているような気がします。やはり政治の世界においても、女性の立場で物を言える人、三原さんのような方が日本の政治を変えていって欲しいと思います


三原じゅん子:よく、女性の活躍推進と言うと、出産しても安心して働き続けられる職場環境の整備といったような施策推進の話に行きがちです。ところが働いている女性を見渡してみれば、組織の中心になってバリバリと仕事をしている管理職が少ないという現実が見えてきます。なぜだろう、男性の理解が足りないのか、社会のしくみが悪いのかと考え、女性に聞いてみると、実は「管理職にはなりたくない」という声が多く聞こえてくるのです。もう、これ以上責任を負わされるのは嫌だ、労働時間が長くなるのは困る、転勤は無理だ、という女性の本音があちこちから聞こえてきます。



高木優一:なるほど。それが女性の現実の声なんですね。


三原じゅん子:そうなんです。ですから、国はもっとそのような本音の部分に真摯に声に耳を傾けて、ていねいな政策を数多く生み出していく必要があります。「女性が輝く社会を」「女性がどんどん進出できる環境を」といった掛け声だけでは、なかなか現実には追いつかないと考えます。


なぜ、財布のひもはゆるまないのか

高木優一:経済面や社会保障面に関するご意見もお聞きしたいと思います。


三原じゅん子:アベノミクスは成功していますよ、数字を見てください、上昇していますよね、と言われても、現実、財布のひもがゆるくなったかと言えば、全然そうなっていませんよね。たいていのご家庭では、奥さんやお母さんが財布のひもを握っていらっしゃると思いますけれど、一向にゆるむ気配がない。何故ゆるまないかと言うと、社会保障の面で全然安心できていないからなんです。


高木優一:そうですね。


三原じゅん子:私たちはマインドという言い方をよくしますが、要は心がついていけてないんです。今、自分が持っているお金を使っても大丈夫、安心して暮らしていけると市民の皆様に心から思ってもらえる医療・年金・介護の社会保障政策を確立していくことの重要さを、ひしひしと感じています。



高木優一:今、各ご家庭では女性が財布のひもを握っているとおっしゃいましたが、そうであるならば、女性が財布のひもをゆるめたくなるような商品の開発を進めていくべきだと思いますね。女性を積極的に雇用して女性が必要だと思う商品をどんどん開発していくというような考え方も必要なのではないでしょうか。


三原じゅん子:独居の高齢者の方も多くいらっしゃいます。そういう方々が安心して生活できる保障がないというのが現実です。年金より生活保護の方がいい、という考え方が起きてしまうこと事態が大きな問題だと、私たちは捉えなければなりません。


高木優一:特養老人ホームに、入りたくても入れない高齢者の方も大勢いらっしゃいます。三原さんも介護施設の運営などをされていたこともあるので、厳しい現実の壁の前で不安を持たれている高齢者の事例は多く目にされていると思います。



三原じゅん子:待機児童より待機している高齢者の方が多いんですよね。この川崎市でもそうです。そのような現実を目の当たりにしている私たちが制度に関しても、やはり政府に対してきちんと物を言って行かなければならないと実感しています。今回のアベノミクスの第2ステージの3本目の矢で、ようやく「介護離職者ゼロを目指す」との方針が入っていました。これはもちろん素晴らしい方針なのですが、一方で、もしかすると在宅への移行を強く打ち出した政府の方針が、現実的には介護離職者を増やしてしまったというような側面もあるのかな、と感じています。


高木優一:簡単にこれがいいと結論を出しづらい難しい問題ですね。



意識を変えなければ、何も変わらない

高木優一:また、女性の社会進出の話に戻りますが、日本には働きたいのに何らかの事情で働けない女性が400万人いると言われています。そして、第一子を産むと勤めを辞めてしまう女性が6割に達するという数字も出ています。


三原じゅん子:そうですね。M字カーブって私たちは呼んでいますけれど、その6割をせめて5割にしようという動きはありますが、残念ながら日本はまだまだそのレベルなんです。


高木優一:やはりそれは日本の昔からの、「嫁は結婚して子供ができたら家に入るものだ」という文化が根強く残っているせいなのでしょうか。



三原じゅん子:それもありますけれど、職場での理解が得られないという問題や、お子さんを預ける場所がなかなか確保できないという問題も大きいですね。一昔前でしたら、一緒に住んでいるおばあちゃんに預けられたけれど、だんだんと家族との関係性が変わってきてしまっていてそれも難しくなってきています。


高木優一:核家族の問題ですね。


三原じゅん子:そうです。つまり、女性がなかなか社会へ進出できない、思うように働けないという問題の本質は一つではなく、いろいろな要素が絡み合っているということなのです。まだまだ、日本では男性が育児をするという考え方が定着していません。現実的に、川崎市の職員の調査でも、男性で育児休暇を取る方は非常に少数で、わずか3%ほどです。おのずと、その分が女性の負担となってきます。仕事もしてくれ、家庭の事もやってくれ、育児もたのむよってことになったら、女性はパンクしてしまいます。さらに、育児が終わりいざ職場へ復帰という段になったら、今度は自分と夫の両親の介護が待っている。昭和の女性たちはそれを必死になって乗り越えてきました。けれども、それを当たり前と思ってはいけません。女性がどれだけ大変な思いをしているかを社会はもっと理解し、感謝の目を向けなければいけないと思います。制度だけ整えてもそこをしっかり見据えなければ、本質的な解決はできないと私は考えます。



女性が真に社会に出やすくための制度を、数多く作り出すこと

高木優一:日本の政治の場でも、まだまだ女性の数が少ないですね。社会進出という面で見れば、全然果たせていないと感じます。


三原じゅん子:国会議員、市会議員、地方議員を含めて女性の議員数は一割程度です。日本は先進国の中では断トツに低いですね。さきほど、女性が社会へ出て行くのには、まず世間の意識を変えることが大切だという話をしましたが、現実的には男性が働き、女性が家庭を守るという、強く根付いた日本人のメンタリティを変えていくのは、非常に難しいと思いますね。政治の世界ですらこうなのですから。


高木優一:女性議員が一割しかいない状況ですと、どのような弊害が起こり得ますか。



三原じゅん子:私たちも「女性が働きやすくなる、辛い思いをしなくて済む」ための法案は作るのです。でも、なかなか審議をしてもらえないで、何年も棚上げされたままになってしまっているという現実があります。これはやはり女性議員が少ないからだと感じています。女性に対する政策を重要だと思っていただけない風潮があるのは否めません。


高木優一:数が多ければ強くなる。少なければ弱い。数の論理ってやっぱりあるんですね。


三原じゅん子:大いにあると思っています。最近は国会などで女性議員の発言なども以前よりは多くなってきたとは思うのですが、私たちは女性だからという理由で登用されるのは嫌なのです。女性議員といっても、すべての人が同じ考えを持っているわけではありませんし、得意分野も違います。女性で大きなポジションに就いたからといって、それを嬉しいかと言われれば、全然そんなことはありません。



高木優一:いままでのお話をお聞きしますと、いろいろな制度を数多く行っていって少しずつ市民の意識を変えていくという方法が適切だということですね。


三原じゅん子:はい。現場のいろいろな声が反映された制度をきめ細かく作っていく、それしかないだろうと感じています。でも、今の政治は政局の情勢ばかりに気を取られているような気がします。ですから、一本の法律を作るのにもものすごい時間がかかってしまう。


高木優一:それも問題ですね。本日はさまざまなお話しをいただきありがとうございました。