まちの仕事人インタビュー
漆の文化を育てるウルシスト
FEEL J 株式会社 代表取締役 加藤 千晶 (かとう ちあき) さん インタビュー

・出身

関西生まれ、埼玉育ち


・出身校

上智大学法学部


・趣味

好きなことを仕事にできているので、仕事が趣味みたいなものですが、

最近では、漆の歴史についての研究が面白くてライフワークになっています。

その他には、20年以上お茶のお稽古を続けています。気分転換になるだけでなく、その稽古で学んだことが仕事にも活かせています。


・職歴

鉄鋼メーカーに就職→フランスの銀食器ブランドへ転職→海外ラグジュアリーブランドをいくつか経験→独立

・今のお仕事を選んだ理由はなんですか?

以前、洋食器が好きで海外の銀食器ブランドで働いていたときに、たまたま会社の近くで輪島塗の展示会が開かれていて、同僚に一緒に行かないかと誘われました。お客様とお話しをする上で必要な知識が身につけられるかもと軽い気持ちで会場へ行ったのですが、実際に展示されている漆器を見てとても感動しました。特に印象に残った漆器は、模様がない朱塗りのもので、乾いているのにしっとりと濡れているようで、触れば硬いのに柔らかさや奥行きを感じる見た目に、なんだこれはとすごく驚きました。食器として漆器を使う文化は日本独特なものであるにも関わらず、日本人の私が漆器をあまり知らなかったことを痛感して、漆器に興味を持つようになりました。輪島を訪ね、作り手の方の想いを聞いて、更に漆器の魅力にのめり込んでいきました。


そんな中で1つの疑問が出てきました。たとえば自分へのご褒美として高いバッグを買う人はたくさんいるのに、なぜお椀など、こんなにも美しい漆器を買う人は少ないのか?漆器の素晴らしさを広めるために自分に何かできないかをずっと考えていて、漆器をお仕事にしたいと思い始めました。


もうひとつのきっかけになった出来事は東北地方太平洋沖地震だと思います。当時、震災復興活動に関わり、東北をよく訪ねるようになりました。東北も漆器の生産量が多いですし、岩手県は国産漆の生産量の7~8割を占めています。このころから漆器に関わる仕事ができないかと具体的に考えるようになり、最初は起業をしようという意識はありませんでしたが、自分のやりたいことを形にするため起業に至りました。

・お仕事で大切にしている事はなんですか?

お客様や一緒にお仕事をする方々に楽しんでもらうこと、充実感を持ってもらえることを、大切にしています。前職のブランド業界で、お客様に楽しんでことの大切さを叩き込まれたからだと思います。それに比べると、当時の漆器の売り場では、店員と会話が弾む事が少なく、ディスプレイもお客様目線になっていないと感じたことが多くあり、その気づきが起業のきっかけになったので、お客様に楽しさや充実感の提供に繋がる場作りを大切に、日々新たな工夫を考えています。


・仕事で記憶に残る出来事はありますか?

日本を旅行中のスイスの方が私の開いている金継ぎ体験に来てくれた時の話です。そのお客様は体験中もすごく楽しそうで私も嬉しい気持ちになりました。それからしばらくして、私宛に絵葉書が届きました。「金継ぎした食器を今も大切に使っています、また日本に来たときには必ず行きます」と書いてありました。メールやラインの交換もしたのに、わざわざ絵葉書で感謝のお言葉を頂けたことがすごく嬉しくて記憶に残っています。

・お客様から言われて嬉しかった一言はなんですか?

そもそもお客様が喜んでくれていたら私はどんな言葉も嬉しいのですが、最近言われて嬉しかった言葉があります。それは、私が月に1度開催をしている『日本のことばと文様を学ぶテーブル茶の湯』という茶の湯のワークショップに毎月必ず来ているとても忙しい方が、「このワークショップはただ勉強をする場というだけではなく、自分をリセットして心を整える時間になっている」と仰ってくださったことです。そんな風に役立ててもらえていることが嬉しかったです。金継ぎ教室の生徒さんも同様に言われます。私自身も、お茶のお稽古の際に集中をすることで日頃の雑事から解き放たれるので、お忙しい方々に自分を整える大切な時間を提供できるようこれからも心掛けていきます。

・ここ最近で新たに取り組んでいる事はありますか?

『ウルシの木の活用プロジェクト』というものに取り組んでいます。

漆はウルシという木の樹液です。日本では漆器の需要が落ちているにも関わらず、ウルシの木が足りない状況が続いていて、全体の9割以上の漆を中国からの輸入に頼っています。日本の伝統工芸の原料が日本に無いというアンバランスを変えるために、数年前から国内でウルシの木を植えるボランティアが広がっているのですが、その活動を支えるプロジェクトを立ち上げました。

木を植えてから漆を採るための「漆掻き」ができるようになるまでに15年くらいかかります。その間は収益を見込めない植栽活動は、多くの方々の善意の上に成り立っています。そこで、まず私は広くこの状況を知ってもらう周知活動と、ボランティアの方々の収入源を作る方法を考えました。そこで着目したのが伐採後のウルシの木です。漆掻きを終えると、ウルシの木はひこばえを育てるために伐採するのですが、その後は使い道がなく放置されていました。私はこの木を使って モノづくりができないかと動きました。

ウルシの木の商品が世に出れば、漆自体に興味関心を持つ人が増えるのではないかという狙いもあります。プロジェクトには若い層にもかかわってもらっています。例えば、デザインを学んでいる学生にウルシの木の商品企画を考えてもらっています。なかでも『ウルシの木のオーナメント』については、高校生がデザインを考えて、大学生が整え、それを埼玉の福祉作業所でレーザーカットして製作したものを販売しています。このような形で、学生や福祉施設の方々など、漆器業界ではない人たちにも漆に関心を持ってもらって、次の世代に漆の文化を残していけたらと思っています。


・仕事は好きですか?やりがいは何ですか?

もちろん大好きです。

やりがいはたくさんありますが、たとえば金継ぎ教室で、出来上がった時の生徒さんのすごく嬉しそうな顔を見たら、このワークショップを開いて良かったと感じます。最近では、たった1日で食器を直す「簡易金継ぎ」と言われるものもあるのですが、私は自然の漆を使って直す伝統的なやり方の金継ぎを提案しています。長い時間をかけてしっかり直すことによって、その食器に愛着も湧いてくるので、完成した時にはみんながすごく嬉しそうな顔をしてくれます。割れてしまった時の悲しい出来事から金継ぎをしてまた家で使える喜びに変わるので、達成感も一入なのではと思います。

最近では、割れた食器がカッコよく直るということで、金継ぎは海外の方々にも人気で、日本人より海外の方々の方が「金継ぎ」という言葉を知ってると感じるくらいです。海外の方々が旅の思い出で金継ぎ教室へ来て楽しんでる姿を見た時も、漆文化をまた少し広げることができたとやりがいを感じます。


お問い合わせ

FEEL J 株式会社

  代表取締役  ウルシスト®  加藤千晶 

東京都中央区日本橋堀留町2-2-6 則武ビル3階

Email:mail@feelj.jp

HP:https://www.feelj.jp/

    https://www.feelj.jp/about/feelj/

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※8月末までの参加費が5500円/回が5000円/回になります

*お問い合わせの際、『区民ニュース』の記事を読みました。とお伝え下さい。