まちの仕事人インタビュー
働くLGBTQとのコミュニケーションをサポート
株式会社マクアケデザイン 代表取締役 宮川 直己 (みやがわ なおき) さん インタビュー

1977年生まれ。長崎県出身。横浜市中区在住。九州大学を卒業後、福岡市役所に入庁。児童虐待・DV相談業務など10年間勤務の後、起業。心理コンサルティングを主軸に、17段階の意識レベルの研究、タッピング・セラピーの習得などにより、独自のプログラムを開発。2022年5月『LGBTQの働き方をケアする本』を出版。

人生を見据えたサポートがしたい

の仕事を始められたきっかけを教えてください。

福岡市役所に入庁し、児童相談、人権相談、DV相談を担当していたのですが、急増する相談件数に対する人手不足や、法律に定められた行政機能の限界もあり、解決に向けた対策のほとんどが“子どもを引き離す”“夫婦を引き離す”といった環境を変えることが精一杯。引き離したことで、一時的には改善がみられるものの、家に帰してしまうと、また悪化し、結果何も変わらなかったという状況を何度も目にしてきました。環境面だけでなく、心理的なケアや、その人の人生を見据えたサポートをしたいと考えるようになったことが、この仕事を始めたきっかけです。さらに、大きなきっかけとなったのは、私がトランスジェンダーだったことです。私は女性として産まれましたが、自分の記憶にない頃から「スカートを履かせるなら、どこにも行かない!」と親に言い、常に男の子の格好をしていたようです。小学校入学時に黒のランドセルを買ってもらいたいと言い出せなかったことで、男性として生きることを諦め、そこからは悩みと葛藤の日々。福岡市役所の本庁に異動となり、組織や社会を俯瞰して見ることができるようになったとき、自分の人生も俯瞰して考えるように。そこで「自分の望む(性別での)生き方をしたい」と強く思い、男性として生きることを決意しました。戸籍上の性別や、名前が変わっても、昔から一緒に働く職場の仲間からの「元女性」という見られ方はなくならないと考え、過去の自分を誰も知らない世界で暮らすために退職。一度起業した後、サラリーマンとして働いたのですが、その職場では過度なストレスを感じ、食事ものどを通らず、眠れない日々が続きました。そんなときに出逢ったのがメンタルのコーチング。コーチングにより、ストレスから解放され、人生全体が変わった気がしたのです。この時の強い印象から、自分のようにストレスを抱えている人を、コーチングによって解放を促したいと考え、『マクアケデザイン』を起業しました。

仕事の特徴はどのような点にありますか?

個人向けには、「17段階の意識レベル理論」を発展させた、独自のプログラムによるコーチングを、企業向けには、私の実体験を元にした「LGBTQの働き方のケア」に関する研修やコーチングを行っています。LGBTQに関する社内制度と、実際にそこで働く人の心のズレは、まだまだ大きいため、それらのギャップをコミュニケーションで埋める方法をお伝えしています。本や研修は受けたので、答えは分かっているはずなのに、ギャップやズレを感じており、どう実現させていったら良いかわからない、という企業の悩みにお応えできる内容です。研修は、全社員もしくは管理職の方にご参加いただくことが多く、「LGBTQとはそもそも何?」といった基本的な内容から、ケーススタディとして「こんなときどうする?」という投げかけの元、具体的な対処方法についてお伝えしています。企業側の「どうすれば、当事者が安心して働きながら、力を発揮できるようになるのか?」という疑問に、専門性を持ってサポートしています。


言動の奥に『尊重』と『想いやり』を

どんなお客さまからのご相談が多いですか?

個人は、管理職や経営層の方が多く、部下やメンバーのケアに意識が向いたタイミングでお声がけいただいています。法人は、中小企業の他にも、大手金融機関や、外資系コンサルティングファームなど、社員が5,000名前後の企業からもご相談をいただいています。地方自治体からのご相談も増えていますが、自分の古巣ということもあり、「この街が好きで、もっとよくしたい」という想いに触れると、懐かしさもあり嬉しくなりますね。メンバーの入退社が激しいコンサル会社からのご相談がある一方、メンバーがほぼ固定の地方自治体からもご相談がある状況は、非常に興味深く、対極ともいえる状況をお伺いすることで、社会全体の課題観を捉えることができています。タイミングとしては、新人研修や、管理職の研修として、定期的にご依頼いただくことが多いですね。また、3ヶ月前に本を出版したことで、「本を読んでご連絡しました」という方も増えてきました。とてもうれしい反響です。

仕事をするうえで心がけていることはありますか?

「NGにフォーカスしすぎないこと」す。LGBTQ当事者への対応を真剣に考えていらっしゃる企業様ほど、「結局何がNGなの?」と、ハラスメントを避けるための型を知りたいと言われることが非常に多いです。しかし、現場では人それぞれ違った価値観や考え方を持っているため、同じ行動や発言であっても、捉え方が変わります。NGに気を取られることで、一番大切なはずの「ひとりの人間として相手を尊重する」ことがおろそかになってしまう危険性は非常に大きいため、できるだけそこにフォーカスしすぎないように伝えています。大切なのは、言動の奥に『尊重』や『想いやり』があるかどうか。そして相手との間に、『尊重』や『想いやり』が伝わる関係性ができていれば大丈夫です。このことを私は大切に伝えていきたいと考えています。LGBTQを取り巻く環境は、まだまだ課題も山積していますが、少しずつ良くなっています。遅くとも10年以内には、LGBTQという言葉によって境界を引く意識が、社会からとり払われていくことを目指しています。そうなると、私の仕事は減っていくことになるのですが、社会と共に、自分も次のステップに進むため、これからも全力で取り組みます!

インタビュー後記

女性として産まれ、男性として生きていく。話をお聞きして「お気持ちは分かります」と、軽々しく言うことができないほどの、悩みや葛藤を乗り越えられた宮川さん。その経験に裏付けされた視野の広いメンタルコーチングは、他では類を見ない。ダイバーシティを掲げる会社であれば、宮川さんの話を聞くべきだ。

お問い合わせ

名称:株式会社マクアケデザイン

HP:https://makuake-d.com

メール:info@makuake-d.com

書籍:「LGBTQの働き方をケアする本」 https://www.amazon.co.jp/dp/442612803X

*ご相談の際は、『区民ニュース』の記事を読みました。とお伝えください。