本日のゲストは、訪問看護経営のコンサルタントである赤尾猛さん。

地域医療の推進により訪問看護を始める経営者は増え続けていますが、なかなか上手くいかず廃業に追い込まれるケースも後を絶ちません。

訪問看護ステーションの経営はなぜ難しいのでしょうか。


Photo:長谷部ナオキチ

年間1割が廃業に追い込まれる業種

高木優一:赤尾さんは訪問看護のコンサルタントをやられていますが、本日は訪問看護の現状と課題などをお聞かせいただければと思います。訪問看護の施設は現在どのくらい増えているのですか。


赤尾猛:少しずつ増えてはいますが急激な伸びを示しているというわけではないですね。東京では約1000件の訪問看護ステーションがありまして、1年で約100件ずつ増えているものの、約100件が廃業になっているというのが実情です。



高木優一:1割が廃業に追い込まれてしまうんですか。主な原因は何ですか。


赤尾猛:言葉は悪いのですが、経営者の甘い経営姿勢と言えると思います。訪問看護は訪問介護などに比べると単価が高いので、利益が出るだろうという甘い見通しで始めてしまうのです。


高木優一:訪問看護はいつごろからから事業として発展してきたのですか。



赤尾猛:7年前ぐらいからだと思います。病院で長期入院ができなくなった、あるいは病院に行くのを少しでも遅らせたい、という医療制度の問題と、住み慣れた自分の家で家族に囲まれて最期を迎えたいという患者側からの要求によってこの事業が急速に発展してきました。


高木優一:小規模のステーションが主流ですが、大手の企業も参入してきていますね。


赤尾猛:そうですね。東急系とかセコムなどの大企業や、イムスなどの大手医療法人が経営に参入するケースも増えてきていますね。でも、医師が行っても上手くいかないことが多いですよ。



高木優一:経営者としては、どのようなことに気をつけなければいけないのでしょうか。


赤尾猛:たとえば、職員に対する気遣いなどは重要な要素だと思います。看護師たちは大変な思いをして現場から戻ってくるわけですから、そこで優しい気遣いを感じさせる言葉をかけてあげられるかどうか、そのようなことがとても大切だと思います。


高木優一:なるほど。経営者が気疲れする業界ですね(笑)。



赤尾猛:単一の事業者で、4、5人いる看護師がいる事業所ですと、そのうち2人が辞めてしまったら法律上運営ができなくなります。ですから、辞められないために従業員に非常に気を使います。上から目線で従業員に接するような経営者では上手くいかないですね。また、看護師さんの質の担保も非常に重要な点だと思います。


高木優一:報酬は国から出るのですよね。


赤尾猛:そうです。医療保険の範疇となります。



1人の看護師が月100件回るのが目標

高木優一:だいたい1日、何件ぐらいの利用者宅を回るのですか。


赤尾猛:利用者さんの状況によってずいぶんと違ってきます。本当に戦場といった感じの苦労する現場と比較的楽な現場があるわけですが、平均すれば1日5件ぐらいは回りたいところですね。一人月100件を目標とすれば採算ベースに乗るんです。でも、実情はコンスタントにクリアできているステーションばかりではありません。


高木優一:それほど楽な商売ではないということですね。経営が行き詰まり廃業に追い込まれるステーションはどのような傾向にありますか。



赤尾猛:だいたい経営者にお会いすればわかりますね。また、訪問看護未経験の管理者が多いのも問題です。訪看管理者は経営のセンスを持った独立志向のない方がいいですね。


高木優一:独立してしまう危険性があるということですか。


赤尾猛:そうなんです。よく美容院などで、腕のいいチーフ級の人が、何人かスタッフを引き連れて独立してしまうというケースがありますよね。それと同じです。訪看管理者はみんなの気持ちをグリップできる、人の話を親身になって聞けるセンスのある方がいいですね。



高木優一:お聞きするのが遅れてしまいましたが、赤尾さんのご経歴を教えてください。


赤尾猛:学校を卒業してから外資系のソフト開発会社に入り、そこでSEと営業の中間ぐらいの仕事を行っていましたが、つまらなく感じていました。そんな時、アミューズメント施設のオーナーに誘われその会社に5年間在籍していました。そのあと父親から自分が経営するプラスチック会社に来ないかと言われ、そこで経営とはなんたるかを覚えました。しかし、リーマンショックの煽りで会社が潰れてしまい、訪問看護の世界に入ったのはその後です。


高木優一:それが何年前ぐらいのことですか。


赤尾猛:5年前ですね。まだその時分は訪問看護という仕事そのものが広く認知されていませんで、今ほど活性してはいませんでしたね。



訪問看護のニーズはますます高まる

高木優一:赤尾さんは訪問看護のコンサルタントをやられているわけですが、やはりコンサルも経営者と同じように上から目線では上手くいかないでしょうね。


赤尾猛:その通りです。コンサルに入るのも上から目線ではだめですね。みんなと一緒にやっていこうよ、というスタンスで接しないと上手くいきません。売上が上がらないところは、私が自転車でケアマネさんのところを回り、いろいろ企画を立てて、本当に低姿勢でお願いするといった感じです。その姿をステーションの従業員に見せ、私もみなさんと同じ目線で仕事をしていますよ、というスタンスを取らないとだめですね。


高木優一:地域包括ケアが活性化する中で、これから訪問看護会社の必要性はますます強まっていくと思いますが、いままで話をお聞きすると、それほど経営は楽ではない。特に人の問題が大きいのですね。老人ホームは終の住処で、いろいろな介護サービスは提供できますが、看護はできないですものね。



赤尾猛:そうなんですよ。老人ホームやサ高住(サービス付き高齢者向け住宅)も訪問看護の営業先になりますね。


高木優一:医師にも訪問医療のニーズが当然ながら多くなっていきますよね。


赤尾猛:そう思いますよ。これからは医療全体が訪問主流になっていくでしょうね。


高木優一:何人ぐらいの看護師を確保すれば訪問看護ステーションを始めることができるんですか。


赤尾猛:まあ、目安としては、2.5人は確保しなければならないですね。社長が看護師兼務だと利益が出やすいのですけど、利益が出ていることが看護師もわかってしまいます。そうすると、先ほどの話のように、3人ぐらいできるスタッフを引き抜いて独立してしまう輩が出ることがあるんですよね。でも、そうは言っても、マーケティングが分っていませんから、おいそれと上手くはいきません。


高木優一:営業活動なんてやったことがありませんからね。訪問看護を行う中で、独り暮らしの住居で孤独死に立ち会うということはあるんですか。我々の業界では、本当に孤独死に出会う場面が多いんですよ。


赤尾猛:訪問看護が入っている家庭であれば、孤独死に出会うことはまずないですね。


高木優一:訪問看護のいいところは、一般の民間企業と違って、料金を取りはぐれることがないところですよね。


赤尾猛:確かにそうですね。未払いの苦労はなくてすみます。個人負担分の未払金はあいますが・・


高木優一:求人募集は苦労するところですね。どのステーションでもそこが大きな課題だと思います。



赤尾猛:その通りですね。昔はチラシを捲けば人が集まってきたのですが、今はとてもそんなやり方では人が来ません。


高木優一:昔、看護師をしていて、一時リタイア人などが、また職場に復帰したいのだけど病院じゃ難しい、訪問看護ならできるんじゃないかと・・・そんな方もいらっしゃいますよね。


赤尾猛:そういう方が来ていただけると助かりますね。


高木優一:本日はありがとうございました。