本日のゲストは、私と同業の杉浦弘文さん。

杉浦さんは、名古屋で一般社団法人 全国共有不動産活用支援機構を立ち上げ、近年深刻化する空き家問題に真正面から取り組んでいます。


Photo:長谷部ナオキチ

社会問題としての空き家対策

高木優一:杉浦さんが一般社団法人 全国共有不動産活用支援機構を立ち上げられた経緯をお話しいただけますか。



杉浦弘文:もともと私は名古屋で不動産会社を経営しておりますが、昨今、空き家になっていた物件や土地が地面師などに利用され、空き家問題がクローズアップされるというような社会的な背景もあり、空き家をきちんと処分していきましょうという動きが活発になってきました。そこで、共同所有物件の適切な処分を推進する機能を有するこのような法人を立ち上げたのです。調べていくうちに、土地の活用しやすい場所の空き家は共有が原因になっているケースが多いことが分かりました。たとえば、三人の共有の持ち物である空き家があったとします。ところが、そのうちの一人は名古屋、一人は熊本、一人は宮城に住んでいて、普段、コミュニケーションはまったく取れていない状況です。そういった物件の対応は、不動産会社の営業担当だけではとてもできません。仮にその土地の相場が6千万円だったとして、2千万ずつ三人で分けて共有不動産の処分が終わるというような単純な話ではないのです。弁護士や鑑定士、税理士、高木社長のような不動産コーディネーターといったそれぞれの専門家が連携して的確かつスピード感のある提案をしていかないと、いつまでたってもそのまま放置される状況になってしまいます。



高木優一:今のお話のように、相続する方が全国にばらけていて、普段は交流がないというパターンは実に多いですね。


杉浦弘文:そうですね。女性の相続人が結婚し、旦那さんの転勤で遠方に行ってしまった。そのうちに実家ともあまり連絡を取らないようになる。そうなると、相続人としての意識が薄れていきますね。また、相続人同士が近隣に住んでいてもほとんど交流がなく、仲があまりよくないというケースもあります。そこで私どもが間に入って調整し、売却までを行うというパターンもありますね。



高木優一:私の扱った物件でも、東京にあるにもかかわらず、何人かいる相続人は全員山形県に住んでいるのです。東京の物件など貰っても使い途がないし経費や税金もかかる、どうにか処分したいという意向でした。結果、こちらですべて片づけ大変感謝されました。相続して嬉しい不動産と、相続すると困る不動産がありますよね。今回杉浦さんが立ち上げられた社団法人の拠点は名古屋にあるのですね。


杉浦弘文:はい。名古屋を本拠地に東京にも事務局を設置し、当面は東海と関東、2つのエリアを中心に活動していく所存です。



大手不動産会社が手を出さない非効率な事案を解決する

高木優一:所属しているメンバーの方々は、それこそ先ほどおっしゃったように弁護士や税理士、司法書士など士業の方はもとより、後日売却するためには測量士も建物解体の専門家も必要ですし、それぞれの分野のプロの叡智を結集し、連携していろいろな問題を解決していくのが最も適切な方法だと思います。


杉浦弘文:その通りです。


高木優一:杉浦さんが、このような空き家問題を何とかしたいと思い立ったのはいつ頃ですか。



杉浦弘文:おととしぐらいから空き家が問題視されましたが、民間企業や宅建協会、役所等でも以前からも相談会を行ったりしていました。そのような場でお話をうかがって、先ほど述べたような相続人同士が他人同然で、売却を含めた活用が滞るというような事案が増えてきたなと感じてきたのは3年前ぐらいからですかね。


高木優一:相続人同士の仲が悪いというのも問題ですが、相続人が認知症を患っているというケースも多くなってきました。これもまた厄介です。認知症患者の方が共有持ち分の中に一人入っただけで相続の機能そのものがストップしてしまいます。



杉浦弘文:かつて私も大手不動産会社に籍を置いていましたが、そのような厄介な事案が持ち込まれても対処できなかったですね。一人の営業マンが交通費をかけて宮城県に行き、熊本県に行き、親族の調整をし、なんてとても不効率でできません。


高木優一:大手の場合、非効率で面倒な案件が発生したときはどうするんですか。


杉浦弘文:話だけ聞いて、買い手を探しますと言って、そのまま机の中に書類は仕舞い込みそれで終わりです。


高木優一:大手の不動産会社は、いつ数字に結びつくかが分からない案件には手を出しませんよね。また、弁護士が不動産のことを相談されても、不動産業界に精通したスタッフが横のつながりでいなかったら、大抵は「それは大変ですね」で終わらせてしまいます。



杉浦弘文:空き家と言ってもいろいろあります。戸建てもあれば、マンションも、空き地もあります。先日は空きビルも扱いました。


高木優一:ビルごと空いてしまったんですか。


杉浦弘文:そうです。父親が所有していたのですが、入居者を募集しようにも兄弟の歩調が合わないんです。長男は募集したい、でも遠方にいる次男は処分したい。長男は自宅に近いので手放さずに家賃収入を得たい。で、その収入を兄弟で均一に分けるのかといえば、長男としては親父を看取ったのは自分なんだから、それ相応の額をもらいたい、と主張するわけです。そのうちにどんどんと時が経ち、今度はその不動産を相続した長男次男の子供たちがもめるということにもなりかねません。



空き家対策は早めに手を打つことが重要

高木優一:ご相談者としてはなるべく自分たちの代で決着をつけたいですよね。アパートを相続すると言っても、親がアパート経営に向いているといって、子供が同じように向いているとも限りませんから、マンションやアパートを親が残してくれても有り難く相続しますということになるとは限りませんね。


杉浦弘文:一人で相続するのであればいいのですが、もし三人で共有となれば、誰かが家賃をもらいに行ったり、苦情を聞いたり、メンテナンスを施したりしなければなりません。そこまではなかなかやりたがりませんよ。



高木優一:社団法人を立ち上げ、杉浦さんがおやりになっていることは、今後の不動産業界の一つの潮流になりますね。本来なら弁護士が前面に出て取り仕切るような事案が多いのかもしれませんが、不動産に関して、詳しい方ばかりではないですから。




杉浦弘文:降って湧いたような不動産の処分をしたいのだけど、誰に相談したらよいのかが分からないというケースは今後ますます増えていくことは間違いないですね。だいたい、皆さん相談するのが遅れる場合が多いです。たとえば、富裕層で共有不動産に困っている方などは、兄弟の仲がかならずしも良いと言えない場合が多くありますので、結局だれにも相談できずに、ぎりぎりになってから相談に来られます。そういったときに、我々サイドがいかにスピーディに解決の道筋を立てられるかが重要なポイントなんです。そのためにも、それぞれの専門家が連携し合って事を進めるのがベストな方法だと思っているのです。


高木優一:相談している最中に認知症になってしまうなどというケースもありますからね。測量するだけで普通に半年ぐらいはかかりますから。早めに対策を立てることが本当に大切だと思います。

本日はありがとうございました。