以前勤めていた葬儀会館に80歳代の男性でAさんという方がよくご来館されておりました。Aさんのご来館理由は、お葬式の生前相談をすることで、自分のお葬式のお見積りを作成して、お茶を飲んで帰るというのがいつもの流れでした。

 

Aさんは何度もいらして下さったので、受付のスタッフなんかも「Aさんお見えですよ!!」という感じに、スタッフは誰もが知っているお客様でした。一般的にあまり聞いた事が無い話しだと思いますが、まさかの葬儀会館に良く来て下さる常連さんでした。

 

Aさんは「自分のお葬式はこんな風にしたい!!」という思いをお話しして下さり、こちらから色々なご提案をさせていただき、ご納得いただくと自分のお葬式のお見積りを作成して帰っていくのです。

 

その時決まって「俺が死んだら電話するからなぁ~!!」と笑顔で帰って行かれるのですが、こんな時、初めて相談にご来館いただいたお客様にはなかなか言えない事ですが、Aさんには「お亡くなりになったら電話できませんよ!!」と軽めのジョークを言っても大丈夫な関係になって行きました。

 

そんなAさんには、お越しいただいた際には必ず「ご家族にはお見積りをこちらの葬儀会館で作ってある事をそれとなく伝えてくださいね」とお話ししておりました。Aさんも「わかっている」と言った後に、「まぁ、まだ死なないから大丈夫だよ!!」と笑顔を見せておりました。

 

何故、「ご家族にはお見積りをこちらの葬儀会館で作ってある事をそれとなく伝えてくださいね」といつもお話ししていたかと言いますと、よくあるお話しなのですが、自分のお葬式の生前相談をしたお客様のほとんどがご家族にお伝え出来ていないという事がよくあったからです。

 

これは、「エンディングノート」を書いた方に限って、なかなかご家族にお話ししていないという事を耳にした事がありました。自分のお葬式の生前相談をしたお客様も同じ事が言えます。やはり、「俺のお葬式はこんな風にしてくれ!!」と家族にお見積りをお見せしてお話しするのはタイミングと言いますか、話し始めづらいですよね。

 

聞かされた家族も「なんで、そんな事をするの?」とか「縁起でもない」と言って耳を塞いでしまいそうですよね。実際に、Aさんもお子さんにお伝え出来ていなかったようで、ある日、Aさんのご長男様から「父が亡くなった」というご連絡が入りました。

 

そう言えば、最近お会いしてなかったなぁ~急に寂しい気持ちになりました。そして、今までお越しいただいた際に作成したいくつかのお見積り書をご長男様にお見せしました。そして、「Aさんは子どもたちに迷惑をかけたくないからって毎回来た時に寂しそうに言っていましたよ」とお伝えするとご長男様の目には涙があふれてきました。

 

私も「Aさんはお越しいただくと、『息子は東京で〇〇の仕事をしているから忙しくてなかなか会えなくてね』とお話ししていましたよ」とお伝えすると、ご長男様は、「仕事が忙しくて一緒に暮らしてあげられなかったから」と涙声で頑張ってお話ししてくださいました。

 

ご長男様は、一緒に暮らしてもっとお話ししたかったと本音でお話しくださいました。そして、お見積りを作成した時にこんな事を言っていたという事をご長男様にお伝えしながらの打合せとなりましたが、ご長男様は嬉しそうに聞いて下さいました。

 

ある僧侶から「人は死をもって、大切な人に、教えたい事を伝える」というお話しをお聞きしました。私は、お葬式は「旅立つ方の声なき声を聴く」というとても大切な要素があると思うのです。だから、Aさんとの生前相談の内容やその時の様子を伝えたことで、ご長男様にAさんの何かしら大切なことが伝わったのではないかと思うのです。

 

 

 

 

こちらのブログをご覧のお葬式のご相談をご希望されている方は、メールにてお葬式の事前相談を実施しております。あなたがもしもの時に慌てない為にも是非ご活用ください。d.kobayashi.sousaidr1@gmail.com  (1級葬祭ディレクター  小林大悟  相談メール)

 


著:一級葬祭ディレクター 小林大悟