公共施設や商業施設、病院、学校など、今やあらゆる場所に設置されている防犯カメラ。

事件や事故の防犯カメラ映像が公開され、ニュースで報じられることも珍しくなくなりました。


通学路や商店街でも「犯罪抑止の眼」として設置が進み、コロナ禍ではニーズがさらに加速しているといいます。

その背景にある社会情勢について、業界のパイオニアである株式会社ユニティの代表・狩野刀根男(かのうとねお)氏に話を伺いました。


取材・構成:高木優一/写真・文:長谷部なおき

治安の悪化が防犯カメラの普及を促進

高木優一:まずは狩野代表が防犯カメラの仕事に携わるようになったきっかけを教えてください。


狩野刀根男:いまから20年くらい前、バブルが弾けて10年前後の頃だったと思います。私は技術セールスのコンサルタントをしていたのですが、顧問先が防犯カメラを扱っており、大手都銀さんの250支店でカメラの見直しをするという業務を請け負いました。その設備導入をプロジェクトマネージャーとして担当したことがきっかけで、防犯カメラの専門会社ユニティを立ち上げるに至ったのです。折しも当時は、海外から窃盗集団が入ってきた時期。都市や近郊のマンションではピッキング被害が続出し、治安も悪化していました。マンションの管理組合さんからの防犯カメラの引き合いは、ひっきりなしでした。


高木優一:20年前と言えばミレニアムな世紀の変わり目でしたが、都市部のマンションでも防犯カメラはまだ普及していなかったでしょうか?


狩野刀根男:新築マンションでは導入が増えていましたが、既存の建物はほとんど設置されていませんでした。そういうところが狙われるので、安心のためにカメラをつけたいというご依頼が絶えませんでした。

 

高木優一:昔は不用心でも当たり前というか、鍵をかけない家もけっこうありましたよね?


狩野刀根男:確かに。その頃はどこの町内にも小うるさいオバちゃんとか頑固なオヤジさんがいて、近所を見守ってくれていました。それが防犯カメラの役割を果たしていたのだと思います。核家族化で人のつながりが希薄になり、卑劣な犯罪が増えました。かつてのオバちゃんやおじさんの役割を、防犯カメラが担うようになっていったのだと思います。


高木優一:セキュリティに対する人々の価値観が大きく変わっていったのですね。


狩野刀根男:この仕事をしていると、世相をリアルに感じます。監視社会と言われて昔は恐れられましたが、今では需要が増すばかりです。本来は防犯カメラがなくても安心な社会というのがベストなのでしょうけれど…


事件を解決する防犯カメラ

高木優一:防犯カメラが普及したことで、様々な変化があったと思いますが、設置から保守までされている現場の目線で見ると、どのような変化が大きいと感じられていますか?


狩野刀根男:この仕事を20年やってきて如実に感じるのは、犯罪検挙率が上がったこと、特に重要犯罪や悪質な犯罪がカメラで捕まるケースが増えたことを感じます。先日も当社が管理する防犯カメラの設置エリアで殺人事件がおきました。警察からの連絡で映像再生と解析をしたところ、犯行現場の住居から出てくる犯人を捉えており、時間は早期に解決しました。


高木優一振り込め詐欺や特殊詐欺の検挙でも一時話題になりましたね。


狩野刀根男:銀行のATMに設置されたカメラの犯人映像は、ニュースなどでご覧になった方も多いと思いますが、住宅のお年寄りを狙う詐欺集団の逮捕でも、防犯カメラの功績は大きいです。


高木優一:マンションや個人宅の防犯カメラですか?


狩野刀根男:そうですね。今はお年寄りの単身世帯が増えているのですが、心配したご家族が防犯カメラや見守りカメラを設置されるケースが多く、それに気づかずにのこのことやってきた詐欺師の受け子をカメラが捉えていた、というパターンです。


高木優一:警察から依頼を受けたり、連携するケースは多いのでしょうか?

 

狩野刀根男:それはもう、しょっちゅうですね。防犯カメラの設置位置というのは、警察はすべて地図上に落とし込んでいますから、事件や事故が起こると即座にカメラを特定していきます。その中に弊社が保守を担当しているカメラがあれば、再生や解析の協力依頼が来ます。犯罪事件などでは、複数のカメラの映像から、犯人を追跡していくようなこともあります。渋谷区のバス停で女性が殴打されて殺害された事件でも、カメラを繋いで犯人を追っていました。

 

高木優一:あの事件もユニティさんのカメラでしたか!

 

狩野刀根男:はい。当社のカメラが捉えていたので捜査に協力していました。犯人を特定する寸前で自首してきたために、一件落着となりましたが。

 

高木優一:スパイ映画のように、街や駅や空港の防犯カメラをパソコンで操作して人物を追いかける、みたいなことが現実にできてしまうのですね。

 

狩野刀根男:技術的にはぜんぜん可能ですね。今や防犯カメラも4K、8Kの時代ですから、映像もどんどん鮮明になっていきます。データの圧縮技術が伴ってくれば、あっという間に普及するので、テレビ並みのクリアな映像で人物の特定ができるようになるでしょう。


防犯カメラが求められる社会情勢

高木優一:コロナで防犯カメラのニーズが高まっていると聞きました。何が起きているのでしょうか?


狩野刀根男:最初の緊急事態宣言が出された前後、港区でスポーツクラブの玄関が割られました。いわゆる「自粛警察」です。クラスターが出ているのに営業しているのが許せない、というわけですよ。大きなニュースになりましたよね。その直後です。とあるテニスクラブにも営業をやめるよう「自粛警察」からの電話があったそうなのですが、内容がほぼ恐喝だったそうです。慌てたオーナーから依頼があり、大急ぎでカメラを7台設置しました。

 

高木優一:たしかにあの頃は行き過ぎた人たちが跋扈していましたね。

 

狩野刀根男:時短やオンライン化で人がいなくなった場所では、犯罪が頻発しました。東北のある高級車専門のディーラーさんは、リモートで無人になったタイヤの保管庫を狙われました。高級車のタイヤが相当数盗まれて大変な被害が出たそうです。出勤がなくなった工場が放火され、全焼してしまった事件もありました。時短とステイホームでひと気がなくなったある会社の駐車場では、トラック2台分もの産業廃棄物が投棄されるといった事件もありました。


高木優一:防犯カメラは付けていなかったのでしょうか?

 

狩野刀根男:はい、残念ながら。すべて事件の後にお問い合わせをいただき、設置させていただくといった流れでした。

 

高木優一:コロナ禍で犯罪が増えたことで防犯カメラの需要も増えている、ということでしょうか?

 

狩野刀根男:もちろん、そのケースもありますが、物騒な事件が報道されると、まさに「防犯」という意識からお問い合わせをいただいたり、設置依頼が増加します。会社や商業施設だけではなく、個人宅からの依頼も増えました。地域で大きな事件が発生したり、お子さんを狙った犯罪が起きると、商店街や自治会、町内会などからの設置依頼があるのですが、そちらもコロナ禍で増加しています。

 

高木優一:商店街の道路や通学路の電柱などに取り付けてあるカメラですね。あれは自治体や警察の管理ではないのですね?

 

狩野刀根男:商店街や自治会の管理になるのですが、費用は補助金が付いています。4〜5年前から始まり、区市町村で申請ができます。補助の割合は自治体によって異なりますが、街や子どもたちの防犯につながるので、少なくはないと思います。設置場所を決める際には警察の協力もあります。


高木優一:安心で安全な街づくりのためにも、防犯カメラはもはや欠かせないものですね。

 

狩野刀根男:「監視」と捉えると世知辛いですが、「見守りの眼」と捉えて、必要に感じていただけるとありがたいです。カメラがあることで犯罪抑止になり、事件や事故の早期解決につながるケースがたくさんあります。人が安心して暮らせる社会をつくることが、私どもの願いです。皆様の平穏無事な毎日のために、少しでもお役に立てれば幸いだと考えています。


高木優一:大変勉強になりました。また機会がありましたら、お話を伺わせてください。本日はお忙しい中ありがとうございました。

 


★狩野刀根男

株式会社ユニティ  代表取締役

防犯設備士

専修大学不動産建設黒門会会員

セールスコンサルタントとして起業し、2000年に株式会社ユニティ設立

防犯機器レンタル及び販売、防犯コンサルタント業務を中心に、セキュリティからや商業設備販売までを手掛ける。設置及び保守管理をする防犯カメラで、犯罪事件や事故の捜査に多数貢献。


★株式会社ユニティ

https://bohancamera.jp/