Photo:長谷部ナオキチ

2022年2月、「同性同士の『内縁』を認めない」という判決が横浜家裁で下されました。6月20日には注目の同性婚裁判で「同性婚を認めないのは『合憲』」との判断が大阪地裁で出てYahoo!のトップニュースに。世界的にもジェンダーレスが進む中、時代と逆行するかに思えるような判決の意味は何か?今後、財産分与や相続でも今後大きな問題に発展しかねない同性同士の法律問題に関して、自らゲイであることを公言し、LGBTQに詳しい内田和利弁護士にお話を伺いました。

同性同士の「内縁」が認められず、財産分与の申し立てが却下

高木 優一ずは2月の横浜での裁判、長年一緒に暮らしていた同性カップルが別れて、一方が財産分与を申し立てていましたが、事実婚、つまり内縁関係を認めず、したがって財産分与も認めない、という判断でした。異性間だと広く認められ、権利も確定していますが、今回はそれが叶わなかった。


内田 和利そうですね。まず、財産分与に関してですが、そもそもは法律上の夫婦間で婚姻関係中にさまざまな財産ができてくるのを婚姻関係を解消する際、つまり離婚の時に精算するというのが主な目的です。この財産分与については、事実婚、婚姻届を出していない場合でも認めますよ、という判断は確定していますが、今回の審判ではそれが同性同士のカップルにも適用されるのか、ということが争われました。



高木 優一:つきつめると異性か同性かという点で、同性であるが故に認めないと?


内田 和利:審判の中身は「内縁」ではないから、という判断です。内縁というのは婚姻届を出してはいないが、それ以外は婚姻と同じ。婚姻...つまりは男女間が前提となっています。同性の婚姻は認められていないので、内縁も認められず、したがって財産分与の申し立ても否定されました。


高木 優一:この手の問題は、日本はだいぶ遅れている印象ですね。少し違うかもしれませんが、先日は夫婦別姓も否定されましたし。



内田 和利:姓を変えたくないからということで確かに事実婚は増えていますね。でも、それと本件のような同性同士の場合は違うよ、というのが裁判所の認識です。


高木 優一:だけど先生、財産分与だとか遺産相続という話になると、由々しき問題ですよ。以前私のラジオに出ていただいた行政書士の先生に伺いましたが、日本では全国民のうちの7〜9%がLGBTQの方だとか。人数にすると約1000万人くらいですか?オリックスファンの比じゃないくらい多い(笑)そう考えると、もはやマイノリティとは言えないですよね。「不動産・相続お悩み相談室」ではないがしろにできないです。


「同性婚を認めないのは『合憲』」の大阪判決に秘められたメッセージ

高木 優一次は6月の大阪地裁ですね。同性同士の結婚を認めていない憲法や戸籍法の規定が、憲法に違反するかを争われた訴訟、いわゆる同性婚訴訟です。大阪地裁は規定に憲法違反はないと判断して、原告側が求めていた国への賠償責任を認めませんでした。平たく言うと同性婚を認めないのは合憲ですよ、という判決ですよね。


内田 和利はい。こちらについてはいくつか論点があるのですが、婚姻について定めた憲法の24条、その第1項で「婚姻の自由」というのが同性のカップルにも保障されるのではないか、と言うのがひとつ。そしてもうひとつが、法の下の平等を定めた14条において、同性カップルの婚姻を認めないのは差別ではないか、という話です。大阪の判決では、どちらも憲法違反ではない、という判断が出ました。



高木 優一:それだけ聞くと今の時代に合っていない判決のような感じがしますね。


内田 和利:同性婚に関する裁判は、以前札幌でもあり、同じ論点について判断がなされました。その際には14条の部分、法の下の平等には反するという判断が出ています。婚姻はさまざまな効果が生じますがーー同居や扶助、財産分与や相続権などもそうですがーー同性カップルの場合、その一部すらも認めないのはさすがにやりすぎだよね、という判断でした。大阪の方はそれらも含めてやりすぎではない、という判決です。


高木 優一:後退した印象でしょうか?


内田 和利:結論としては後退した印象です。ただ判決文を精査すると、あながちそうとも言えない部分もあります。


高木 優一:どういったところですか?



内田 和利:先の憲法24条ですが、「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し...」と謳われています。この「両性」とは結婚する二人であって、性別は関係ないとするのが原告側の主張。一方、大阪地裁は、これまでの婚姻の歴史的な経過や背景を踏まえて、「両性」は男女を想定して作られている、従って24条の婚姻の自由は異性間にしか保障されていない、という判断を示しました。ここでもうひとつ重要なことを言っていて、では24条において同性婚を禁止しているのかと言うと、そこまでの趣旨はない。なので憲法を改正しなくても法律で同性婚を導入することは憲法違反にはならない、といった形の判断がなされています。


高木 優一:なるほど、結論的には札幌の判決より後退したかに見えますが、プラスのメッセージも読み取れる判決だったわけですね。


内田 和利:その通りです。憲法を変えなくても法整備をすることで、改善できる部分があると言う内容だったと読み取れます。


高木 優一:法律も時代に合わせて変えていかないとですよね。そんなことを、改めて思い起こさせられました。


各論から変えていくという選択肢

高木 優一先生はご自身がゲイであることをカミングアウトされていますが、日本では「性同一性障害」というカテゴリもあります。違いについてお話しいただけますか?


内田 和利:私のように自分自身の生物学的な身体の性と性自認は一致していて、外に向く感情の対象、恋愛や性愛の対象が異性ではなく同性、というのがいわゆるゲイやレズビアンの人。一方、生物学的な身体の性と自分自身の性自認が一致していない方で、さらには手術によって身体機能を変えることを望んでいるのが、いわゆる「性同一性障害」と言われる方々になります。



高木 優一:「障害」というのもどうかと思いますよね。多様性のひとつでしかない。


内田 和利:確かに、世界的に見れば「障害」という言葉は使われなくなっていて、最近では「性別異和」と言ったりします。ただ日本の場合は、戸籍の性別を変える特例法の中で「性同一性障害」が規定されているので、その概念が残ってしまっています。


高木 優一:なるほど。よくわかりました。ところで先生は、公言される前と後で大きな変化はありましたか?


内田 和利:すべてオープンにしてからはだいぶラクになりました。


高木 優一:今は隠す時代でもなくなってきましたからね。だけど昔は苦しんだ人が多かっただろうし、今でもオープンにできずに悩んでいる人もいると思います。そういった方が、財産分与や相続でさらにまた苦しめられるとしたら、胸が痛みますね。



内田 和利:相続の第一線にいらっしゃる髙木さんに、そのようにおっしゃっていただけるのはうれしいですね。大阪の判決でも同性婚はいろんな在り方があり、一義的ではないよね、ということが言われています。仮に同性婚自体はすぐには難しいとしても、個別の各論や制度設計などを変えていくことはできるはず。性的指向が戸籍上の同性だからということで苦しんだり、不利になる方が少しでも無くなるよう、私たち弁護士も尽力したいと思います。


高木 優一:私の勝手な思い込みかもしれませんが、LGBTQの方のには、成功者が多いような気がします。有名なデザイナーやアーチスト、クリエイター、IT関連の起業家...一体いくら稼いでるのか、という方々。そんな人たちが自分の財産や遺産を思い通りにできないとしたら、やはり何かがおかしいとしか言いようがありません。


内田 和利:確かに。このままでいいはずはないですね。自治体で導入が増えている同性同士のパートナーシップ制度も大阪の判決で触れられていますが、婚姻と違って法的な直接の効果はありません。大きなことができないから何もしないのではなく、前述しました通り、各論から変えていく、という選択肢はありだと思います。


高木 優一:LGBTQの方の法律相談の場合、まだまだ勇気がなかったり、相談に行って不快な思いをしたらどうしよう、と悩んでいる方も多いと思います。そんな方々のためにも、内田先生にはこの分野の専門家として親身に寄り添ってくださる存在でいてほしいと願います。本日はお忙しい中、ありがとうございました。


内田 和利:もちろん私もこの問題は真摯に取り組んでおり、悩める方々のお役に立ちたいと切に願っています。こちらこそ、どうもありがとうございました。




こすぎ法律事務所

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弁護士紹介(内田和利)

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神奈川県  弁護士会  所属


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