Photo:長谷部ナオキチ

高い敷居を取り払い、お客様志向の目線を持つ。裁判所の周辺を出て、お客さまの近くに行く。法曹界は大きく変わり、弁護士は身近な存在になりました。しかし、法的なトラブルを抱えても、弁護士事務所のドアをノックするのはまだまだハードルが高い、と思う方が少なくありません。実際は相談するだけでも解決への突破口が見えたり、お悩みが解消・軽減されるケースも多いはずですが...。そんな現状を目の当たりにして「もっと気軽に弁護士にお悩みをぶつけてほしい」と考え、神奈川県で四半世紀にわたり法曹界で実務に携わられている金谷達成弁護士にお話を伺いました。


裁判所の近くから地域エリアへ

高木 優一私はラジオ番組や相続案件で弁護士の先生とお会いする機会は多いのですが、近年は関内や川崎駅周辺といった裁判所に近い場所だけではなく、登戸や向ヶ丘遊園など、地域型と言いますか、いわゆる街中の事務所が増えたように思います。これは弁護士会の中で棲み分けのようなものができているのでしょうか?


金谷 達成棲み分けといえば棲み分けかもしれませんが、昔はそれこそ裁判所の近くにしか弁護士はいなかったと思います。横浜で言えば関内。川崎なら川崎駅周辺。小田原もそうですね。そういった場所に弁護士が集中し、そこ以外には全くいないという時代がありました。変化が起きたのは、私の知る限りでは20年ちょっと前くらいでしょうか。私のよく知っている先輩の弁護士が上大岡に事務所を出したんですよ。



高木 優一:2000年前後ですね。


金谷 達成:はい、それが当時は衝撃的でした。それこそ耳を疑うくらいの。


高木 優一:上大岡に法律事務所!?  という感じだったのでしょうね。法的機関は何もないところだし。強いて言えば拘置所が近いですが。


金谷 達成:そう思って聞きました、なぜ上大岡なんですか?って。そうしたら、返ってきた答えがすごく明解だったんですよ。「だって、上大岡の人にとって便利でしょ」って。


高木 優一:お客様志向的ですね。



金谷 達成:その通りです。でもその発想って、昔の弁護士にはほとんどありませんでした。裁判所の近くに法律事務所があるのはひとえに弁護士目線で、裁判所に行くことの多い弁護士にとって楽だから、という考えしかなかったんですよね。だけどお客様の目線で考えれば、上大岡や港北ニュータウン、髙木さんが先ほど言われた登戸だとか向ヶ丘遊園など、そういった場所にあった方が来やすいですよね。


高木 優一:確かにそうですね。


金谷 達成:横浜で言っても、以前は関内にしか法律事務所はありませんでした。でも、利用者目線で考えれば横浜駅の近くの方が便利ですよね。


高木 優一:仕事帰りでも寄れますからね。


金谷 達成:そのように考えられるようになったのが、せいぜい20年くらいのことなのだと思います。そこから時が流れて近年は、若手弁護士を中心に、関内や川崎にいてもしょうがない、自分達からお客様の近いところに行こう、ということで、県内のいろいろな場所に法律事務所ができました。まだまだですけどね。



高木 優一:それこそ昔では考えられないようなところにも?


金谷 達成:たとえば三浦市ですよね。最初聞いた時には驚きました。でも三浦市に法律事務所があったら、三浦市の人にとっては便利ですよね。


高木 優一:とは言え、認知してもらうのは大変でしょうね。弁護士事務所といえば裁判所の近く、とイメージする人は案外多い気がします。私の知ってる溝の口の法律事務所の先生は、秦野に出張所を出したけど撤退しちゃいましたから。


金谷 達成:撤退は様々な理由があってのことと思いますが、私のような古典的な関内村の弁護士からすると、溝の口自体斬新ですよ。でも人口が多いですし、ターミナル駅ですから、乗降する方も多い。そう考えると便利な場所なんですよね。


高木 優一:川崎の場合はひとつの区が20万人前後で合計155万人くらい。高津区と宮前区だけで50万人弱いますからね。小さな県と変わらないくらいです。多摩区と中原区を足したら80万都市ですから、法律事務所も必要でしょう。



金谷 達成:ひとつ象徴的なのが武蔵小杉ですね。武蔵小杉は...いま法律事務所が10軒以上ありますよね。私が弁護士になった頃は一軒もありませんでした。


高木 優一:そうなんですか?


金谷 達成:武蔵小杉の街自体がいまとは全く違う感じで、東横線はありましたが、工場があったんですよ。


高木 優一:知ってます。ガラス工場でしたよね。


金谷 達成:そうです。だからあそこで法律事務所を開こうなんて思ってた人は、私の世代には一人もいなかった。南武線もあって川崎へも近かったのに。でもそれが、今やあれだけの人口の地域に発展し、たくさんの法律事務所ができました。そういった新興地域に事務所を開こうと考える若手の弁護士は、これからも増えていくんじゃないでしょうか。



神奈川も東京も変わってきている

高木 優一今まで法律事務所のなかったエリアや新興地域に、新しい事務所ができることは、神奈川県弁護士会の副会長を歴任された金谷先生からご覧になっても歓迎すべき事柄でしょうか?


金谷 達成もちろん、それは歓迎です。というのも、今現在もそうですが、ニーズを拾えきれていないですから。間違いなく。


高木 優一:ニーズ、ですか?



金谷 達成:はい。つまり、何か困っていて弁護士に頼みたいんだけど、どうしていいかわからない、それで泣き寝入りするしかないという方が、まだまだたくさんいらっしゃいますよね。


高木 優一:それはめちゃくちゃ多いと思います。


金谷 達成:神奈川県は人口の多い地域ですからよけいにそうだと思います。そういった方々のニーズに応える、といったら語弊がありますが、お役に立つためにはどうすればいいかというと、もう弁護士が出ていくしかないですよね。いろんなところに。そのひとつの在り方として弁護士事務所を、いわゆる「関内村」だけではなく、「川崎村」だけでもなく、さまざまな地域に開設することは重要だと思います。それによって救われる方がたくさんいらっしゃると思います。


高木 優一:先生、それは神奈川独自と言いますか、たとえば東京にはない流れなんですか?というのも、私はいろんな弁護士の先生と交流を持たせていただいていますが、ほとんどが山手線の駅や山手線環内です。六本木や渋谷、今度お会いする先生も上野です。中央に集中していて、外側にはあまりない。そんな印象がありますが。


金谷 達成:いや、東京も変わってきてますよ。裁判所が霞ヶ関なので神奈川の関内のように歩いて行けるわけではないですが、以前は確かに銀座とか赤坂とか、地下鉄で2〜3駅のところが多かったんですね。やはり弁護士目線でした。山手線環内というのもその発想だったと思います。ところがですね、詳しく知ってるわけではないですが、そんな私が知る限りでも、結構外側に事務所ができています。



高木 優一:どのあたりですか?


金谷 達成:二子玉川や自由が丘、あとは中野区、杉並区、練馬区も最近できてますね。裁判所まで小一時間みなきゃいけない、ちょっと大変かな、という場所にも増えてきていますね。


高木 優一:なるほど、東京でも結構広いエリアにできているんですね。


かつての高い敷居は無くなった

高木 優一髙木:弁護士事務所の変化についてお話しいただきましたが、利用者側の変化はどうでしょう?ご相談の内容などは変わってきているのでしょうか?昔はなかったのに今は増えているトラブルなどもありますよね?そのあたりはいかがでしょう?


金谷 達成:事案そのもので言うと、昔なかったのに今はあるといったものは、そんなには多くないんですよ。もちろん、ネット社会のトラブルは、それ自体が昔はありませんでしたから、インターネットで悪口を書かれた、などの事案は新しいものです。でも、大局的に見たら、少なくとも私が扱っている案件はそんなに変わった印象はありません。ただ、利用される方々の意識は変化していると思います。


高木 優一:それはどういった点ですか?


金谷 達成:多くの方が法律事務所の門を叩く時、以前に比べて気楽に来ていただけるようになったかと思います。


高木 優一:いい意味で、敷居が低くなったと言うことでしょうか?



金谷 達成:そうですね、まだまだかも知れませんけれど。言い方を変えれば、昔の弁護士の敷居があまりにも高すぎました。私が弁護士になった25年ほど前は、一般の方が何か困ったことがあっても弁護士に相談するのは「決死の覚悟だった」と、これは実際に言われたことがあります。弁護士のところへ行くという行為自体がものすごく思い切った、覚悟のいることだったのだと思います。


高木 優一:確かに、かつてはそんな印象があったかも知れません。


金谷 達成:一見さんお断りという時代でしたからね。


高木 優一:紹介のみですか?


金谷 達成:はい、そうです。知ってる人の紹介がないと相談すら受けない、という事務所は多かったですね。文字通り敷居を立てて気軽に入れないようにしていました。


高木 優一:その時代からするとだいぶ変わりましたね。


金谷 達成:そうですね、かつてのような事務所はほとんどなくなりました。



高木 優一:先生方のところに行くのに決死の覚悟はいらない?(笑)


金谷 達成:もちろんです(笑)困ったことがあったらまずは相談に来てください、という感じです。


高木 優一:敷居はなくなりましたね(笑)テレビの影響などもありますか?


金谷 達成:それは大いにありますね。弁護士はすごく特殊な人種で、とっつきにくい印象が昔はあったのだと思います。それがテレビに弁護士が出るようになって身近になった。弁護士というのも普通の人間と変わらないんだ、と思っていただけたのかも知れません(笑)


高木 優一:実際に困り事が起きたとして、一般の人が弁護士に辿り着くまでのプロセスはどうでしょう?以前よりも来やすくなっていますか?そのあたりは大きく変化したのでしょうか?


金谷 達成:そこはいちばん大きく変わった部分かも知れません。まず、広告が解禁になりました。それからインターネットの普及ですね。



高木 優一:以前は広告禁止だったんですか?


金谷 達成:そうなんです。法律士事務所が広告を出してもOKになったのは2000年頃の話です。それまでは電話帳と道案内の看板しかありませんでした。辿り着くのも一苦労です。


高木 優一:しかも一見お断り(笑)


金谷 達成:そうですね(笑)その意味では随分と門戸が開かれるようになったと言えます。区役所や市役所などの法律相談も増えましたし、今ではホームページを持つことが当たり前ですから、ネットで検索して問い合わせて来られる方も増えました。


高木 優一:仕事柄、私も不動産・相続お悩み相談で、トラブルを抱えてらっしゃる方を何人も見てきました。でも「司法2割」という言葉がある通り、弁護士の先生や専門家に相談される方はまだまだ少数なんですよね。そこを変えていくことに、及ばずながらお役に立ちたいと思っています。


金谷 達成:それは心強い。ありがとうございます。



高木 優一:弁護士の先生に入っていただくことで円満に解決する問題や、泣き寝入りせずに済むことがたくさんあるし、もっと言えば、痛ましい事件を未然に防ぐことだってできると思うんです。


金谷 達成:そうですね、困っていることがあったら、とにかく我々を頼っていただきたい。そうすれば何かしらの糸口はつかめるはずですから。


高木 優一:弁護士会の先生方には、今後もラジオにご出演いただいたり、ホームページのQ&Aコーナーにご登場いただき、先生それぞれのお人柄なども伝えていけたらと思っています。本日はお忙しい中、お時間頂戴しましてありがとうございました。


金谷 達成:こちらこそありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします。



神奈川県弁護士会所属  市民総合法律事務所

https://www.shiminsogo-lo.gr.jp/


神奈川県弁護士会  法律相談総合案内

https://www.kanaben.or.jp/consult/guide/index.html