浅野健太郎さんは、まだ若手の範疇に入る弁護士ですが、全国14箇所に拠点を持ち、79名の弁護士を擁するベリーベスト法律事務所の敏腕経営者でもあります。今回は、まだ日本では馴染みの薄い「信託」を中心にお話をうかがいました。


Photo:長谷部ナオキチ

日本ではほとんど普及していない「信託」

高木優一:今日はまず、信託に関してお話をお聞きしたいと思います。私も以前、ラジオにご出演いただいた際に信託のお話をうかがって大変勉強になりました。先生はニューヨーク州でも弁護士をされていますが、ニューヨークでは普通に行われている信託が、なぜ日本では定着されないのか。そのあたりの背景からお聞きしたいと思います。基本的な質問ですが、信託は相続の一つの方法と考えていいのですか?

浅野健太郎:はい。信託は相続以外の場面でも用いられるのですが、相続の場面で非常に便利なツールとして使うことができます。日本で信託が定着していないのは、日本では信託に関し体系的に勉強している弁護士がほとんどいないというのが要因だと思います。私はニューヨークでも司法試験を受けたのですが、信託は試験の必須科目になっていました。日本では大学の授業でも習いませんし、司法試験に出題されることもありません。

高木優一:アメリカでは当たり前のように行われている信託という手法が日本ではまったく採用されていない。日本とアメリカの法曹界の文化の違い、弁護士の取扱い範囲の違いを感じますね。

浅野健太郎:アメリカでは弁護士が財産の受託までを行うケースも多いのですが、私どもが今提案しているのは、「家族信託」というような、弁護士が財産を管理するというより、別の親族などの信頼できる人に管理を任せて、それを弁護士が監督するというやり方です。

事業継承には「信託」が最適

高木優一:たとえば浪費癖がある親族が財産を継ぐという場合、一度に何千万のお金を渡すのではなく、信託を使ってお金の運営管理を委託して、給料のように毎月10万円とか20万円とかを小出しに払っていく、そのような方法が取れるということですね。

浅野健太郎:そうです。

高木優一:信託のシステムはぜひ普及させていただきたいと思うのですが、日本で、先生のように勉強されている弁護士がほとんどいないという状況では、まだまだ時間がかかりそうですね。

浅野健太郎:信託のニーズは決して少なくないので、徐々には浸透していくだろうとは思います。しかし現時点では、ご指摘の通り日本の弁護士はまだまだ知識も経験も持ち合わせていないという状況ですから、少しでも早く浸透させるには、我々が積極的に情報発信していくしかないと考えています。

高木優一:先生の事務所は全国的に拠点を持ち活動されていますので、ぜひ各地で広めていただきたいと思うのですが、今、弁護士事務所はどちらかと言えば縮小傾向にあるような気がします。そのような消極的な流れの逆を行くように、御法人はますます規模が大きくなっています。個人と企業の両方を取扱う総合法律事務所では規模、件数ともに他を凌駕していますね。今後もさらなる展開を考えていらっしゃいますか。

浅野健太郎:年の末から来年にかけて、さらに拠点を増やすつもりでいます。私たちの拠点がない地域のお客さまからもお問い合わせをいただくことが多く、まだまだ全国に弁護士のニーズが眠っていると思っています。

高木優一:信託の話に戻りますが、企業の経営者がどのようにお子さんに、あるいは親族の方々に事業を引き継いでいくかといういわゆる「事業承継」に関しては、信託は非常に有効な手法だという気がします。

浅野健太郎:その通りです。遺言の場合は、「この財産を誰々に引き継がせる」というだけの機能しか果たせません。要は財産を渡せばそれで終わりということになりますが、信託の場合、この財産は自分が生きている間にどう運用され、亡くなったときにどのように引き継がれていくのが良いのか、その想い、その考えを設計図に描き、その通りに財産が運用され引き継がれるようにします。特にオーナー企業の経営者の場合は、会社を次世代にどう継承させられるかが非常に切実な課題となることが多いので、信託とは相性が良いですね。便利でフレキシブルなツールとして活用しやすいと考えます。

情報発信を積極的に行い、敷居の高さを払拭する

高木優一:信託は税法上と言いますか、税金対策上でも運用できるのですか?

浅野健太郎:はい。たとえば、会社の株を税金上有利なタイミングでお子さんに生前贈与することがよくあります。しかし、株を贈与してしまうと、それ以降、会社をお子さんに支配されてしまうという懸念を持つ経営の方もいらっしゃいます。そこで、財産を贈与すると同時に信託して、会社から得られる経済的なメリットに関しては早めにお子さんに譲渡する、つまり税法上は譲渡して引き継がせた形にしますが、株の管理や経営に関してはお父さんが引き続き行うという形を取ることができます。なるべく早く引き継がせたいのだけれども、まだお子さんが経営者としては成長していないという場合などには信託は非常に有効ですね。

高木優一:会社経営に携わっている方、収益不動産を所有している方などには確かに便利な手法だと感じました。これからも御法人には信託の拡販に尽力していただきたいと思いますが、改めてベリーベスト法律事務所の概要に関してお話しいただけますか。

浅野健太郎:ベリーベスト法律事務所として事業を始めたのは2010年の12月なのですが、その前身となる法律事務所を2006年に開設しましたから、その期間を合わせると9年強になります。私と大学時代にゼミで一緒だった酒井と二人が代表者となっておりまして、現在のところ全国14箇所の拠点に弁護士が79人在籍しています。その他、東京に中国人の弁護士が4人、特許や商標を扱う弁理士が2人、登記を行う司法書士が2人、行政書士が4人、それに税理士として所属している者が4人、事務スタッフが170人という陣容となっています。当事務所の特徴としては、それこそ扱わない分野がないという領域の広さがまず挙げられます。総合法律事務所を標榜していても扱うのは法人だけという所も多いのですが、当事務所は法人から個人まで、あらゆる層のあらゆる種類の法律相談に対応しますので、文字通り総合法律事務所という位置づけになります。また、海外にも拠点を出しており、現在のところ上海、バングラデシュ、ミャンマー、カンボジアに拠点を構え、日本企業が海外進出をする際のお手伝いをさせていただいております。

高木優一:御法人は一般の方に向けても非常に積極的に情報発信をされていますね。

浅野健太郎:弁護士に対して、どう相談を持ちかければ良いのかわからない。問題を抱えていてそれを相談したくても、弁護士は敷居が高そうなのであきらめている。そんな負のイメージをできる限り払拭し、「泣き寝入り」をなくそうという心づもりでいます。その一つの試みとして、当事務所では、各分野ごとにホームページを作ったり、月額の顧問料3980円の顧問弁護士サービスを作るなどして、アクセスのハードルを低くして気軽にご相談いただけるよう努めています。更に、困っているけど弁護士に相談できないという「泣き寝入り」をなくすだけではなく、ご自分に法律的な権利があるということを気付いてさえいないという「泣かず寝入り」もなくしていければと思っています。たとえば、子供のころの集団予防接種が原因でB型肝炎になった方は国から最大3600万円の給付金を受け取れる可能性があるのですが、メディアでの取り上げ方が不十分なのか、ほとんどの方はこれを知りません。私たちは、今後も、このような「泣かず寝入り」をなくすために、インターネットを始め様々な方法で情報発信をしていきたいと思っています。