まちの仕事人インタビュー
【生活の土台を支えたい】見えないホームレスに寄り添うNPOの挑戦
NPO法人Relight 理事長 市川 加奈 (いちかわ かな) さん インタビュー

設立:2025年2月

住所:新宿区市谷田町

事業:生活困窮者等に対する支援


今回取材に伺ったのは、新宿区を拠点に生活困窮者の支援を全国規模で行う市川さんです。学生時代から社会問題に興味を持ち、若くして起業。株式会社を経営するとともに、NPO法人の理事長も同時に務めています。今、日本で起きているホームレスの問題と支援活動への想いについて教えていただきました。

経歴について

私が「ホームレス」という存在を初めて意識したのは、高校生の頃、立川駅前で寒そうに座っている高齢の男性を見たときでした。誰も声をかけない。みんな避けて通る。その光景がずっと心に引っかかっていて、「どうしてこんなことが起こるんだろう」と思うようになりました。

そんな中炊き出しに参加して支援団体の方から話を聞いていると、今は路上よりもネットカフェなどにいる人の方が多いことを知りました。働くことが出来ているのであれば、立ち直らせる何かを作ればいいのではないかと考えました。


働けなくて困っている人と人手不足で困っている会社。家がない人と空き家。なぜこのアセットがあるのに繋がらないのか。難しいピースをはめる枠組みを自分で作ろうと決めました。

卒業後は数々のソーシャルビジネスの立ち上げに携わってきた株式会社ボーダレス・ジャパンに就職しました。そして、2020年に当社からの出資を受けて、Relight株式会社を立ち上げました。新宿を拠点に「住まい」と「仕事」をセットで支援する法人です。家を借りられない、職に就けないという相談が日々寄せられていますが、理由は様々です。

たとえば、本人確認書類を紛失していたり、スマホが止まっていて企業からの連絡が受け取れないなど。なかには発達障害や知的グレーゾーンの特性を持つ方も多く、手続きを自力で進めるのが難しい場合もあります 。

本人は「働く意思がある」「家がほしい」と思っていても、制度や社会の段取りが複雑すぎて、どこから手をつければいいかわからない。結果として、水商売などの夜職や治安の悪い仕事に流れてしまう人も少なくありません 。

Relightでは、そういった方に対し、まずは住まいや仕事の「入り口」をつくり、面接同行や物件交渉まで丁寧にサポートします。今では毎月200件を超える相談が寄せられるようになりました。

ただ、支援を続ける中で役所や他のNPOをご紹介することしか出来ないような、「働く以前」「住む以前」の生活の土台が整っていない人の多さに気付くようになりました。「借金がある」「家電を買えない」。こうした根本的な課題には、ビジネスでは対応しきれません。

そこで2025年、NPO法人Relightを新たに設立し、生活を立て直す“根っこ”の部分に寄り添う支援を始めました。助成金と寄付金のみで成り立つ完全非営利の寄付型NPOです。

仕事と住まいを提供する「入口」の部分は株式会社として、就職・入居した後を支援する「出口」の部分をNPOとして、両輪で深く関わっていけるように取り組んでいます。

「見えない」ホームレス問題

20~30代の「見えない」ホームレスという社会問題があります。

路上ではなく、ネットカフェや24時間営業の店舗などを転々としながら、単発のバイトでなんとか生活を繋いでいる20〜30代が増えています。路上にいればコミニュティが形成されていて情報を得られたり、生活保護を受けて行政の支援を受けられたりします。ただ、ネットカフェなどにいると完全に孤立してしまい、誰からも見つけてもらうことができないままで、ギリギリの生活を送り続けることになります。

行政の支援はとても重要です。いったん制度に繋がれば、力強い支援が受けられます。ただ、行政がカバーできない最大の理由は、「見つけられない」「相談に来てもらえない」こと。制度の網にかかる前の人には、手を差し伸べることが難しいです。

だからこそ、私たちはその“最初の窓口”でありたい。制度の隙間に落ちた人にとって、最初に話せる相手になりたい。そんな気持ちで活動を続けています。

NPO法人の活動について

現状は会社の相談窓口にwebから問い合わせがあり、住まいや仕事を支援する以前の問題についてNPOとして引き受けています。

たとえば身分証がない、携帯が止まっている、口座が作れないという状況で、そうなると行政の手続きは何も進められません。

本人確認が出来ないと、携帯もないので求人にも応募できない。どこにも行き場がなくなり、様々なリスクに晒されてしまいます。

単発バイトをしている場合は確定申告が必要ですが、自分ではやり方、あるいはそもそもやらなければいけないことを知らないため、脱税になってしまっているケース。

携帯が止まってしまうと求人応募も出来なくなるため、SNS上に出回っているような危険な仕事に関わってしまっているケース。

そんな状態で、初めて私たちの元に「どうしたらいいのか分からない」と相談がきます。

また、最近はお金を借りるハードルが下がっていたり、サブスクのような形で知らず知らずのうちにお金を使ってしまうサービスが増えていたりと、便利な社会になる一方で、コントロール出来ない人には難しくなっています。毎月どこにお金が消えているのか、自分でもわからない。そんな声が本当に多いです。

私たちは、そういった「困り方」に対して、「じゃあ一緒に整えていこう」と言える存在でいたいと思っています。何から始めたらいいか、一緒に見つけるところから始めています。

相談者は20〜30代が中心です。一見すると元気そうで、「自分でなんとかするのが当然」と思われている世代。でも、そのプレッシャーの中で、誰にも頼れず、どんどん孤立していきます。

そしてこの世代は、やがて親になる人たちでもあります。親の暮らしぶりを見て育った子どもが、「それが普通」と思ってしまう。家賃を払わない、電気が止まる、携帯が止まっている……そんな暮らしが当たり前になる。そうやって、社会に馴染めない子どもが育っていく。もう、そういう連鎖が始まってしまっています。

だから、いま目の前にいる大人に介入する意味はとても大きい。ここで踏みとどまれたら、次の世代の未来を変えられると信じています。

理念について

一番大切にしているのは、「生きることで悩まない社会をつくること」です。

いまの社会には、「働けなければ生きる価値がない」「家がなければ人として見られない」みたいな空気が、まだ残っています。でも、生きているだけで価値があると本気で思っています。

だから、ただ助け続けるのではなく、「自分で歩けるようになる支援」をしたい。生活保護を受けることも、立派な自立です。そのお金で、ちゃんと暮らせるようになることこそが、自分の人生を取り戻すことだと思っています。

直接関わった方たちの顔つきが変わっていく姿を見られるところにとてもやりがいを感じています。

これからのビジョン

私たちはまず、「支援が必要なのに、どこに相談すればいいのかわからない」「制度の存在すら知らなかった」といった方々に、ちゃんと支援が届くようにすることを大切にしています。

支援の入口につなぐだけでなく、その後の暮らしが安定するよう、家計の整え方やお金の使い方も一緒に学びながら、生活を立て直していけるように寄り添います。


そのためには、安心して眠れる場所や、毎日通える仕事といった生活の土台が欠かせません。今後は新宿区や都心部で、住まいや仕事の機会を増やしていけるような取り組みも広げていきたいと考えています。


情報を広めてくださることも、寄付で応援してくださることも、すべてが力になります。

誰もが生きることで悩まなくていい社会を、みんなで一緒につくっていけたら嬉しいです。

インタビュー後記

市川さんから聞く支援者の方たちの話は、初めて耳にすることばかりで、自分自身の社会問題への意識の低さを痛感するとともに、蓋をされて社会に行き届いていないという根深い問題にも気付かされました。直接対峙して相談に乗っていくことはやりがいがあるとはいえ、相当気が滅入ると思うのですが、明るく話されている姿が印象的でした。まずは興味を持つところから、そして良ければ市川さんの話を直接聞いてみてください。

お問い合わせ

NPO法人Relight

東京都新宿区市谷田町2-17  八重洲市谷ビル10階

HP:https://npo-relight.org/about/

*ご連絡の際、『区民ニュース』の記事を読みました。とお伝え下さい。