Photo:長谷部ナオキチ


多くの業種、ビジネスに、

多大な停滞を巻き起こしたコロナ禍2020。

しかし、予想だにしなかった意識の変化や行動の変化が生まれたことも事実です。

マイナス要因をプラスに転じさせ、

未来をより良く変えようとする意志もまた、

コロナを経て高まっているエネルギーの一つ。

そんな世界に影響を与えるような

エネルギッシュな経営者を

区民ニュース創業者高木優一が掘り下げます。


◆GUEST PROFILE◆

鈴木達郎

Tatsuro Suzuki


認定NPO金融知力普及協会

理事  事務局長

https://apfl.or.jp/


上智大学比較文化学部卒業後、

外資系経営コンサルティング会社、

ネット広告代理店などを経て、

金融知力普及協会へ参画。

全国40以上の地方銀行が実施する「全国

高校生金融経済クイズ選手権エコノミクス

甲子園」やハートフォード生命保険との

コラボレーションで作成した

「二つのお財布で考えるセカンドライフの

お金ワークブック」、

カードゲームで経済を学ぶ

「経済TCGエコノミカ」など

企画・実現。

著書に「8歳からのお給料袋」(共著)

「おかねなんていらな~い?」(絵本)

子どもたちがゲーム感覚で学んだ金融知識を競う全国大会

高木優一:  鈴木理事には以前、私のラジオ番組(不動産・相続お悩み相談室:かわさきFM:2015年8月)にご出演いただき、後記対談もさせていただきました(http://www.fudosan-consulting.jp/radio/talk/34/)。その際、ペイオフ解禁や401Kの登場で2002年以降、お金の責任が自己責任になったという時代の潮流と、それでありながら、日本の金融経済知識はアジア最下位という状況を解説していただきました。御協会はそのための金融リテラシーの向上・普及に尽力されているということで、必要不可欠で大変有意義な活動をなさっていると感じています。そうした活動内容について改めてお伺いし、それがコロナでどう変わってきたか、今後どのように動いていくのか、また、日本人のお金の問題や意識はどう変化していくのかなどを伺わせていただければと思っています。



鈴木達郎:  ラジオに出させていただいてから、ちょうど5年になるんですね。金融リテラシーの点では、老後2000万円問題が浮上し、多くの人が関心を持った、というか、持たざるを得ない状況になりました。まさに老後の蓄えを自己責任でなんとかしなさい、と現実問題として突きつけられたわけです。でもいきなり2000万円と言われても、どうすればいいかわからない。そんな勉強はしてこなかったですからね。投資を未だにギャンブルだと思う人も少なくないし、投資と投機の区別がわかっていない人も多い。日本人は世界的に見てそこが非常に弱いんです。金融リテラシーが上がれば、日本はもっとすごいことができると思うのですが。


高木優一:  その勉強の機会のひとつが「エコノミクス甲子園」でしたね。高校生クイズの金融版。500校、2500人あまりが参加していると聞き、失礼ながら規模の大きさにびっくりしました。国や自治体に頼らず、全国の地銀のバックアップを受け、企業のスポンサーも取れていらっしゃる。テレビのニュースでも毎回取材を受けていると聞きました。素晴らしい試みのイベントなのでお話を伺って以来、注目しています。

もうひとつ「TGCエコノミカ」というカードゲームがありましたね。そちらはどのような感じでしょうか?


鈴木達郎:  正式名称は「経済TGCエコノミカ」というのですが、金融経済の知識をゲーム感覚で身につけられる対戦型のトレーディングカードゲームです。カードには「預金」ちゃんとか「日本株」くんとか「還付金詐欺」などのキャラクターが書いてあり、一見難しそうなのですが、ルールが単純で小学生でも遊べます。キャラクターの意味がわからなくても、ニュースで名前が出れば耳に入ってくるし、興味も湧きます。すでに全国規模の大会も開催していました。今年はLINEさんとのコラボで過去最大のイベントを計画していたのですが、コロナで中止になってしまいました。


高木優一:  それは非常に残念ですね。イベント関係は確かに厳しい。でも「エコノミクス甲子園」にしろ「経済TGCエコノミカ」にしろ、ホームページやSNSで情報発信をされていて特定ユーザーも多い。オンラインに移行しやすいのではと思えますが、そのあたりはどのようにお考えでしょうか?



鈴木達郎:  そうですね。当協会の場合、野球の甲子園と違ってクイズ大会なので、システムさえ作ればなんとかなるとは思います。今年は大きなイベントはできないので、その予算をシステム開発に振り分けてオンラインでやろう、という流れになるでしょうね。ただそれだと残るものが薄いな、と思うんですよ。

実際のクイズ大会は、大手の銀行さんの会場で行うのですが、普段絶対に入れないような上層階の役員会議室を貸してくださるんです。そこで銀行員さんたちがハッピを着て出迎えてくれて高校生たちが歓待を受けます。セットもちゃんとしていて、テレビのクイズ番組のような機械で早押しをやるんですよ。それは楽しいし、残りますよね。だからそこに戻したい、という思いはあります。


金融知力の底上げのために

高木優一:  うちの子もこの数ヶ月、塾の授業をオンラインでやっているのですが、見ていたらわかりますよ。対面で授業を受けていたときのほうが確実にイキイキとしていました。ノートパソコンで画面を見ながらパチパチやっていますが、テレビと一緒でスルーしている時間も多いはず。あれではなかなか頭に入ってこないのではないでしょうか。


鈴木達郎:  教育効率という点では、けっこう違いがあるでしょうね。個々の違いではなく、全体的なことで、もっと言えば世界的なことだから、影響はきっと出てくると思いますよ。ただ予想を覆すようなことが起こる可能性がないわけではありません。世の中にEラーニングが登場して十数年経つと思いますが、リアルを超えて定着することはありませんでした。やはりそれはリアルの方が頭に残り、教育効率がいいからなんだと思います。だけど2020年から数年の間の学生たちは、それ以前の子たちとは異なる学びの回路ができるかもしれません。


高木優一:  なるほど。これまでは選択肢のひとつでしかなかったEラーニングやオンライン授業が半ば強制になり、しかも長期化する可能性がありますよね。2年、3年続くかもしれません。そうなったら、その環境に順応する世代が登場したとしても、ぜんぜん不思議ではないですね。


鈴木達郎:  学びというかたち自体がガガガッと崩れ、断絶が生まれるくらいの変化が起るかもしれません。そうなったらもう、我々には全く理解できないほどのギャップができますよ。オンラインでも対面の授業と同じように感じられる力を持つ、そんな感覚の若者が増えていくかもしれません。


高木優一:  5G、6Gと進んでいけばリアルとオンラインの差がさらに薄まりそうですが、その感覚をいち早く捉えるのは若い世代でしょう。そういった新しい感覚の人たちが、これまでにない、革新的な何かを生み出していくのかもしれませんね。その意味では今まさに、歴史的瞬間に立ち会っているとも言えるでしょう。新しい時代へ進んでいくためにも、金融リテラシーを育む御協会にはますます頑張っていただかないとですね。



鈴木達郎:  はい、それこそ金融経済も大きく変わっていかざるを得ないですからね。例えばですが、オンラインでもリアルな感覚を持つ人たちというのは、もはや東京に住む必要がなくなりますよね。2週間に1回くらいリアルなミーティングのために上京すればいいわけで、基本はどこに住んでいてもいいということになります。コロナがもたらすいちばん大きな影響というのは、結局の所、そうした人々の感覚の変化なのかもしれませんね。我々もその変化に対応しながら、時代に合った金融知力の底上げを実践していきたいと思います。


高木優一:  After2020が鈴木理事のおっしゃるような変化をはらんでいるとするならば、東京の地価や物件価格もガラッと変化しそうですね。折に触れ、金融経済の勉強をさせていただきながら、わたしもまた時代に則した感覚を見据えて邁進していきたいと痛感いたしました。本日はありがとうございました。