まちの仕事人インタビュー
【幸せをささえる建築】目に見えない美しさを形に
長谷川建築デザインオフィス株式会社 代表取締役 長谷川 順持 (はせがわ じゅんじ) さん インタビュー

長谷川建築デザインオフィス株式会社

代表  長谷川順持さん

職業  :建築家

出身地:神奈川県横浜市

大学  :武蔵工業大学建築学科

趣味  :音楽


今回、八丁堀のオフィスで話を伺ってきました。建物全てが長谷川さんの設計で、オフィス以外のフロアは賃貸になっており、音楽家向けとあって部屋には防音室が完備されています。また、地下には演奏会ができるホールもついており、外見のオシャレさだけでなく、住む人の心地良さをとことん考えられたつくりになっています。一級建築士長谷川さんの職業人としてのあり方、建築家としての思いについて教えていただきました。

建築家を目指した理由

父が大工で、家づくりの現場は子どもの頃から身近な存在でした。父は絵が得意で、借家の浴室の壁にフランスのお城のような絵を描いていたんです。私もお風呂に入りながら、その絵を眺めていました。建物の中にこんなふうに遊び心を取り入れるのかと感心したのを覚えています。

そうした体験を通じて、建築や空間への興味が自然と湧いてきました。

アルバイトでも現場仕事を手伝い、建築というものに触れていく中で、次第に“建築家”という道が自分の進むべきものだと確信するようになりました。

建築家として独立するまでの経緯

独立する前は、一級建築士事務所に勤務していました。現場経験が豊富だったので、新人の割に多くの現場を任されていました。

その中で心掛けていたのは、会社で”なくてはならない人”になること。だから早く独立しようという気持ちは全然なくて、出来るだけ早く仕事を覚えようとしていました。

また、与えられた仕事以上の挑戦をすることも意識して、毎年国内外の設計コンペティションに1件応募すると決めていました。会社の中でのミッションだけに留まらず、外に向けても働きかけることで、必ず成長して新しい仕事がくると信じていたからです。

早めに仕事が終わると、コンペに向けてのデザインを考えるような日々を過ごしていました。最初は全く入賞できなかったんですが、落ちても挑戦し続けることで徐々に結果が出るようになり、ついにはグランプリも獲得しました。

初めて受賞したのは奈良でのデザインコンペティションでした。設計したのが居住用の住宅ではなく、モデルハウスだったことが幸運で、工務店の方が見に行ってくれて、モデルハウスの設計を依頼してくれるようになり、全国にクライアントが広がることになりました。

独立することになったのは、自分が取った仕事と会社から頼まれる仕事と両方していたら、身体を壊してしまい、妻に「自分で始めた方が良いんじゃないの?」と背中を押してもらったことがきっかけでした。

身体を壊した理由の一つは働き過ぎかもしれませんが、もう一つは寝不足にも関わらず、プロジェクト終わりに協力してくれた皆とお酒を飲んで楽しみ過ぎていたことだったと思います。

中学の頃から歌を歌うのが趣味で、人と楽しく騒ぐのが好きなんです。

建築へのこだわり

建物は空気のように自然に我々の周りに溶け込んでいます。普段は意識しない存在かもしれませんが、空気と同じように生活環境をかたち創る大切な要素です。

建築家はここに働きかけられる素晴らしい職業だと思います。

日々暮らし、働く場所が、その方の人生を豊かにし、また、幸せを感じられる建築を考え続けています。

人の顔や考えが全部異なるように、全ての建築も違う。出会った人が本当に望んでいるものを探り、その土地にとってふさわしいあり方を考えることにいつもワクワクした気持ちでのぞんでいます。

私が30年以上特にこだわっている家づくりのテーマに“温熱環境”があります。この技術(通称:どまだんシステム)は特許も取得しており、家全体の温度差をなくすことを目指しています。

具体的には、床下空間に熱を貯めるコンクリートを敷設し、その熱で床下全体を温め、あるいはほのかに冷やす仕組みです。これにより、どの部屋でも均一な温度を保ち、快適な環境を実現します。

この技術は、ヒートショックを防ぎ、湿気による家の劣化も防げるため、人と建物の両方の健康に繋がります。

健康と幸せをささえる建物、それが私の目指す理想です。

印象に残っている建築

これまでに手掛けた300件以上の建物の全ての図面・間取りを今でも覚えています。それぞれ自分が住んでもいいと思えるようなものにしてきたつもりなので、全ての建物が印象的です。


鎌倉リトリート

鎌倉リトリート|ヨガスタジオ

スケルトンインフィル完全分離レジデンス


その中でも強いて挙げるとすれば、現在のオフィスである八丁堀の建物です。もともと江戸時代に堀があった歴史的な地域で、その風景を“借景”として取り込む設計にしました。

このオフィスには、音楽家のための賃貸住宅も併設しており、防音設備や小さなホールも備えています。また、建物内にはバーや日本料理店もあり、外部の方々と交流できる空間づくりも意識しました。建築が人と人を繋ぐ役割を持つことが、この建物で実現できたと感じています。


八丁堀|SHINKA

屋上|小窓から江戸時代八丁堀だった道を望めます

今後のビジョン

現場で建物を見届ける瞬間が何よりも好きなので、体が動く限り、現場に立ち続けることが職人としての自分のあり方だと考えています。

私の目指す建築は、見た目が美しいだけでなく、目を閉じても美しいと感じられる空間をつくることです。生活者の幸福に結ばれ、『Well-being』を下ざさえする価値の創出に、建築が果たせる役割はまだまだ多く存在します。人と社会の未来の希望につながる仕事を目指していく所存です。

幸福の価値基準はみんな違うので一概には言えませんが、最大公約数があるのではないかと思います。たとえば、空間として温かいとか、家の中で太陽の動きを常に感じることが出来るとか。

建築という手段を用いて、その幸福に近づける方法論を持っているので、シェアしていきたいです。

インタビュー後記

「目を閉じても美しいと感じられる空間」という言葉がとても印象的でした。長谷川さんが一番大切にされているお客さまへのヒアリング。口にされたことを聞くだけでなく、その奥にある真意、本当の願望を聴くこと。徹底したディスカッションがあるからこそ、そこに経験と知識と技術が合わさり、幸せを叶える建築が出来ているということがよく分かりました。家というとハウスメーカーに依頼するイメージでしたが、全てをオーダーメイドできる一級建築士への相談という選択肢もあることが知れて、自分も興味が湧きました。

お問い合わせ

長谷川建築デザインオフィス株式会社

住所:東京都中央区新川2丁目19−8 SHINKA11階

TEL:03-3523-6063

HP:

■プロジェクトサイト

https://www.ic-style.com/

■事業案内サイト

https://www.interactive-concept.co.jp/

*お電話相談の際、『区民ニュース』の記事を読みました。とお伝え下さい。