香川から飛び出した“勝手に観光大使”。出来千春さんは、今日も誰かの笑顔を増やしている。
出来千春さんは、香川県出身である。
ただし、話し始めると少し不思議だ。
関西弁のようで、香川弁のようで、でもそのどちらでもない。本人いわく「オリジナル弁」。
なるほど、たしかにこの人は、言葉からしてすでに出来千春である。
名前の「千春」は、春に生まれたことが由来の一つだ。もともとは別の名前になる予定だったが、春に生まれたことで「春」の字が入った。
そして「千」は、四字熟語の「千載一遇」から来ている。千年に一度しか巡り合えないような、またとない機会。
待ち望まれて生まれてきた子。
そんな意味を込めて、この一文字が選ばれた。
この名前が、どこか彼女らしい。
たくさんの春を連れてくる人。
そして、出会う人にとっての“千載一遇”になっていく人。
そんな印象が、話を聞くほど強くなっていく。

名 前: 出来千春さん
出 身: 香川県
在 住: 埼玉県大宮エリア
現 在: 新宿のホワイトニングサロンでマネージャー
大切にしていること: 自分に素直であること
目指す未来: 世界中の人を笑顔にすること
いじめた側と、いじめられた側。その両方を知った
幼少期の出来さんは、外でよく遊ぶ子だった。
転勤族で、香川県内をいくつか移りながら育った。団地の子どもたちと外を走り回り、男の子とも女の子とも遊んだ。
母の影響で小学生の頃からバドミントンも始め、高校生まで続けた。
小学生までは、楽しかった記憶が多いという。
転校しても友達ができた。先生にも恵まれた。環境が変わっても、その場所で人とつながっていける力が、きっと昔からあったのだと思う。
ただ、中学生になると状況は変わる。
出来さんは、いじめを経験した。
しかも彼女は、ただ「いじめられた人」としてその記憶を語らない。
「多分、私、スタートはいじめっ子だったタイプなんです」
そう言える人は、なかなかいない。
当時の彼女に悪意はなかった。遊び半分で茶化しているつもりだった。でも相手にとっては、そうではなかった。
親が呼び出され、先生に怒られて、初めて気づいた。
自分が軽くやったつもりのことが、誰かを傷つけることがある。
その後、今度は自分が団体で無視される側になった。
休み時間はトイレにこもる。誰にも言わない。反発もしない。気づけば始まり、気づけば終わっていた。
けれど、その痛みは彼女の中に残った。
人の気持ちを考えるきっかけになった。
「もっと早く、自分が言いたいことを言えばよかった」
今の自分が当時の自分に声をかけるなら、そう言うという。
この経験が、出来千春という人をやさしくしたのだと思う。
ただ明るいだけではない。
人の痛みを知っている明るさだ。
だから彼女の笑顔には、軽さがない。

香川を出た理由は、街コンだった
人生の分岐点は、いくつもある。
その中でも大きかったのが、香川を出て東京方面へ向かう決断だった。
大学まで香川で過ごした出来さんは、もともと地元を出るつもりはなかった。経済学部に通っていたが、特別やりたいこともなかった。
ただ、親が銀行員だった。
地元で経済学部となると、就職先は銀行になりがちだ。それがどうしても嫌だった。
そんな時、たまたまニュースで「街コン」を見た。
400人規模の人が集まり、出会いが生まれるイベント。
それを見た瞬間、彼女は思った。
「400人の出会いを作るって、すごくない?」
そして、すぐに検索した。
一番上に出てきた街コン運営会社に電話した。
「働かせてください!」
勢いがすごい。
普通は、調べる。悩む。保留する。親に相談する。友達に相談する。そして結局やらない。
出来千春さんは違う。すぐ電話する。
その会社は、ちょうどその年から新卒採用を始めるところだった。彼女はエントリーし、採用される。
香川にいたらできないことなら、最先端の場所に行けばいい。そう考えて、東京方面へ出てきた。この行動力は、彼女の魅力の一つだ。
「受かるとしか思ってなかった」
根拠は、たぶんない。
でも人生を動かす人は、時々こういうことを平気で言う。そして本当に、人生を動かしてしまう。

人との出会いが、次の仕事を連れてきた
現在、出来さんは新宿のホワイトニングサロンでマネージャーをしている。
紹介制を中心にしたサロンで、人と人とのつながりを大切にしながら働いている。
ここに至るまでにも、やはり「人」があった。
会社員として働く中で、出来さんは一度、自分の中のワクワクを見失いかけた。
東京で何かをやりたい。
自分でも何かをやってみたい。
そんな気持ちはあったはずなのに、社会の波に飲まれるうちに薄れていった。
しかし、会社の外の人と会うようになってから、景色が変わる。
いろんな働き方がある。いろんな人生がある。そう知った出来さんは、副業を始め、会社を立ち上げ、外の世界へどんどん踏み出していった。
その中で、今のオーナーと出会う。
当時、オーナーは交流会イベントを運営していた。人手が足りないということで、出来さんは週末だけ手伝うようになる。
そこで見たのは、仕事への姿勢、お客様とのコミュニケーション、そして行動力だった。
「この人、素敵だな」
そう思える人と毎週会っていたら、自分も動きたくなる。そんな頃、オーナーから声をかけられた。
「美容部門を立ち上げようと思っていて、出来と一緒にやりたい」
こうして、今の仕事につながった。
ホワイトニングは、人を笑顔にする仕事だ。
出来さんにとって、それは単なる美容サービスではない。自分が掲げるミッションに近い場所にある。
「世界中の人を笑顔にする」
2年ほど前、ふと降りてきた言葉だという。
本人も「意味わかんないんですけど」と笑う。
でも、しっくりきた。
まずは目の前の人を笑顔にする。
その先に、世界中の人の笑顔がある。
大げさに聞こえるかもしれない。
でも、出来千春さんが言うと、不思議と笑えない。
この人なら、本当にやりかねない。

勝手に香川観光大使、公式化待ち
出来さんは、自分のことを「勝手に香川観光大使」と呼ぶ。
もちろん、まだ公式ではない。
だが本人は「いつか公式になると思ってます」と言う。
いい。こういう勝手さは、町を元気にする。
出来さんが思う香川の魅力は、自然と人の温かさだ。
もちろん香川といえば、うどんのイメージが強い。
だが彼女は言う。
「うどん食べたら終わりでしょ、じゃないんだよ」
香川には、もっといろんな魅力がある。
2泊3日でも足りないくらい、知ってほしい場所や人がいる。
最近は、地元を知るために香川へ帰っているという。自分が観光客になったつもりで、どう回れば楽しいかを考える。
場所だけではない。彼女が大切にしているのは、人だ。
「あの人がいるから行きたい」
そんな旅がある。
うどん屋さんも、観光地も、自然も、そこにいる人の魅力と一緒に伝えたい。
地元の人は、地元の魅力に気づきにくい。
出来さん自身も、香川にいた頃は「こんなクソ田舎」と思っていたという。
正直でいい。
でも外に出たからこそ、見えた魅力がある。
だから今度は、香川の人たちに伝えたい。
「香川って魅力的だよね」と、自信を持ってほしい。
住んでいる人が魅力を語れなければ、外の人は来ない。
だからまず、地元の人に気づいてもらう。誇りを持ってもらう。
そして発信する人を増やしていく。
これは観光の話でありながら、彼女の生き方そのものでもある。
人の魅力に気づく。
本人が気づいていない良さを伝える。
自信を持たせる。
そして笑顔を増やす。
出来千春さんは、香川に対しても、人に対しても、同じことをしている。


素直であること。それが人を集める理由
出来さんがこれからも大切にしたいこと。
それは「素直であること」だ。
しかも、ただ人の話を聞くという意味ではない。
まずは、自分に素直であること。
自分の気持ちに蓋をしないこと。
わからない時に、わからないと言えること。
助けてほしい時に、助けてほしいと言えること。
以前の彼女は、自分では素直だと思っていた。でも実は、自分の気持ちすらわかっていなかった。
プライドが邪魔をしていた。
相手の気持ちをわかろうとしても、自分のことすらわかっていなければ、本当にはわからない。だからこそ、素直さが必要だった。
「わからないから助けてほしい」
その一言を言えるようになった時、人は救われる。
出来さんの周りに人が集まる理由が、少しわかった気がした。
明るいからではない。
面白いからでもない。
もちろん、それもあるが本質はたぶん、彼女が人の中に入っていくことを怖がらないからだ。
そして、自分の弱さも隠しすぎないからだ。
彼女は「善人とはどんな人か」という問いに、こう答えた。
「愛で満ち溢れている人」
自分が自分のことをわからなかった時、自分以上に自分を愛してくれる人に救われたという。
無条件の愛。
本人が望んでいなくても、降り注ぐ愛。
見方によっては、お節介かもしれない。
でも、そのお節介に救われる人もいる。
出来さんは、自分にはまだできない領域だと言う。
いや、たぶんもう始まっている。
彼女のまわりに人が集まるのは、きっとその愛の気配を感じるからだ。
5年前より、もっと笑顔の人を増やしていますか
5年後の自分に声をかけるなら、何と言うか。
出来さんは少し考えて、こう言った。
「5年前より、もっと笑顔の人を増やしていますか」
きれいな答えだった。
彼女の人生は、ずっとそこにつながっている。
中学時代の痛みも。香川を飛び出した勢いも。街コンに電話した行動力も。
ホワイトニングサロンでの仕事も。香川を勝手に背負っていることも。
全部、笑顔に向かっている。
老後は、世界中に友達がいるらしい。
英語も話せて、海外の友達と笑い合い、日本に来たら案内して、もちろん香川にも連れていく。
そして最後は、ピンピンコロリン。
本人がそう言うと、なぜか妙にリアルだ。
世界中の人を笑顔にする。香川の魅力を伝える。人に会いに行く旅をつくる。
誰かの歯を白くして、その人の表情を明るくする。
出来千春さんが描いている絵は、まだ完成していない。
でも、その下書きはもう見えている。
そこには、人がいる。
笑顔がある。
香川がある。
そして、少しせっかちで、少しお節介で、かなり明るい一人の女性が、真ん中で笑っている。

インタビュー後記
私は出来千春さんのことを、勝手に「大阪の元気なおばちゃん」みたいな人だと思っていた。
まず、香川出身だった。
この時点で、私の観察眼はだいぶ怪しい。
しかも本人は、香川への愛が強い。埼玉に住んでいるが、埼玉愛は「ございません」と言い切る。ここまで潔いと、埼玉も逆に許してくれる気がする。
話を聞いていて感じたのは、この人はとにかく“人”なのだということだ。
人に会う。
人から学ぶ。
人を笑顔にする。
人の魅力を伝える。
人に助けてもらう。
人に愛を注がれる。
そしてまた、人に返していく。
全部、人でできている。
正直、ホワイトニングより先に、この人自身がだいぶ眩しい。
善人承継は、普段スポットライトを浴びることのない善人の、生きた証を残すプロジェクトだ。
出来千春さんは、たぶん自分ではまだ「善人です」とは言わない。
でも、愛で満ち溢れている人を善人と呼ぶなら。
そして、誰かの笑顔を本気で増やそうとしている人を善人と呼ぶなら。
この人はもう、とっくに善人じゃないかと思う。
あとは公式の香川観光大使になるだけだ。
香川県の方、見ていたらぜひご検討ください。
この人、たぶん本当に人を連れてきます。
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善人承継インタビュアー
山元 直樹
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*お電話相談の際、『区民ニュース』の記事を読みました。とお伝え下さい。
山元 直樹
2026/05/16(土)