湿布のことを正確に知っている人は、おそらく1−2割くらいではないでしょうか?

まず、衝撃の事実を3つお伝えしていきます。


衝撃の事実①: 湿布には冷やす効果も温める効果もない

多くの方々は「冷湿布は冷やす、温湿布は温める」と誤解しています。


実際は、湿布に含まれる成分によって皮膚が刺激されて、冷たい感じがしたり温かい感じがしたりするだけなのです。あくまでも「感じがする」だけで、際立った温度変化は伴いません。缶コーヒーに氷を当てれば冷えるし、使い捨てカイロを当てれば温まりますが、缶コーヒーに湿布を貼っても温度変化はないといえば分かっていただけるかと思います。冷えを感じる成分としてはカンフル、メントール、ハッカ油などで、温かさを感じる成分としては、トウガラシエキス(カプサイシン)、ノニル酸ワニリルアミドなどです。


上記を実践に応用すると、骨折や捻挫などのケガをした時に、すぐに湿布を貼るよりは、最初に氷や冷水などでしっかりと冷やすことの方がよっぽど大切なのです。それによって毛細血管を収縮させて、内出血で創部が腫れるのを防ぎます。また、湿布ではありませんが、同じメカニズムとして、風邪で熱が出た時におデコ(額)に冷却ジェルシートを貼る方も多いかと思いますが、あれも医学的にはあまり意味がありません。ジェルに含まれている水分が蒸発することで、貼付部の温度が気化熱によりわずかに下がるというものです。しかし,これは貼付部の局所的な温度変化であり,体温が下がるわけではありません。解熱目的で冷却するには大きな太い動脈がある首、脇の下、太ももの付け根などに氷嚢などを当てるのが医療現場でのやり方です(話が脱線してすみません)。


衝撃の事実②: 消えつつある冷湿布と温湿布

湿布は、進化の歴史から「第一世代」と「第二世代」に分けられます。


第一世代は、サリチル酸メチルに代表される消炎鎮痛成分に、温感・冷感を与える刺激成分が加えられていました。湿布は白くて柔らかい厚手のタイプのもので、冷蔵庫に保存していました。第一世代の湿布の主目的は貼付部に「冷感」「温感」を与えることで、冷湿布に唐辛子エキスを加えたものが、温湿布という原始的なものでした。


1988年には、鎮痛効果の高い非ステロイド性抗炎症薬 (NSAIDs) を含んだ湿布が、製造承認されました。これが現在主流となっている鎮痛目的の第二世代の湿布です。薄い布に有効成分を含ませたテープ剤と、白くて柔らかい厚手のパップ剤とがあります。テープ剤は、粘着力が強く、関節などの動く部位でもはがれにくいのですが、その分、長く貼っているとかぶれやすいデメリットがあります。パップ剤は、厚みがあり水分を含んでいるので貼った感じがひんやりします。かぶれの心配が少ない分、はがれやすいというデメリットがあります。この2つは常温保存になり、主成分が同じであれば、効果に差はないようです。


現在、流通している第二世代の湿布は、「鎮痛効果」を発揮するのが目的であり、「冷感」や「温感」を与えることではありません。冷湿布や温湿布というのは、30年以上昔の分類ということになります。それでも冷湿布・温湿布に根強いファンがおり、根強い誤解があるため、第二世代の湿布でも冷感・温感を与える刺激成分が加えられている製品がわずかながら存在します。現在、医療機関で処方される湿布のほとんどすべてに、貼付感が良くなるように清涼(冷感)成分が添加されていますが、決して「冷やす」という目的ではないのです。ノニル酸ワニリルアミドなどの温感成分が添加されているものはパッケージの色がピンクやオレンジになっていますが、これも「温める」という目的ではありません。ご自身の患部の状態に合わせて、また、貼り心地の好みで選ばれると良いでしょう


衝撃の事実③: 海外では湿布は入手困難

日本では広く普及している湿布ですが、文化や習慣の違いなのか、欧米ではほとんど使われていませんし、売っていません。海外旅行のときなど、海外で湿布を購入するのは難しいという現実があります。欧米では痛み止めといえば飲み薬が一般的で、湿布は通常使われないようです。また、痛み止めの飲み薬についても、非ステロイド性抗炎症薬 (NSAIDs)は、日本ほど積極的に使われていません。したがって、NSAIDsを含んだ第二世代の湿布も製品としての存在価値が薄いものと思われます。日本では湿布の歴史は古く、効いた気がするということから(?)、薬として認可されてきました。湿布自体に著明な効果がないのか、海外で湿布がほとんど使われていないからなのかは不明ですが、湿布の効果を証明した海外の論文はほぼありません。


本題:  腰痛には冷湿布?温湿布?

人間の胴体は胸、腹、背中、腰も、基本的に温めることはあっても「冷やす必要」はありません。冷やす必要があるのは、外傷で局所が腫れてくる恐れがある時と、局所に熱感がある時の2つだけです。そのようなケースは非常に稀と思われます。


上記で説明してきましたように、湿布には温度を変化させる作用はありませんから、どんな場合でも第二世代の痛み止めの湿布を貼ればよいと思います。慢性の痛みの場合には、風呂などで温めた方が楽になることが多いので、低温火傷に気をつけて湿布の上からカイロを当てるとよいかもしれません。温感湿布はかぶれることが多いので個人的にはお勧めしませんし、カイロの方が実際に温度が上がるので効果的です。急性腰痛の場合には、ネットなどでは「冷やした方がよい」と書いてあることが多いのですが、その証拠はありません。急に腰が痛くなったのは、おそらく体の中で何らかの外傷が起こったと勝手に決めつけているためと思われます。急に胸が痛くなったり、急に腹が痛くなったりする事はありますが、その原因が外傷とは言えないのは腰も同様なのです。



監修

アレックス脊椎クリニック  院長

吉原 潔(よしはら  きよし)


PROFILE

日本医科大学卒業 医学博士。

卒業後は日本医科大学の付属病院および関連病院で研修・勤務する。日本スポーツ協会公認スポーツドクターでもあり、社会人リーグやプロスポーツ選手の治療に当たってきた。その後、帝京大学溝口病院整形外科講師、三軒茶屋第一病院整形外科部長を経て、現在はアレックス脊椎クリニック院長。脊椎内視鏡手術のパイオニアだが、スポーツ医学との接点が多く、フィットネストレーナーの公認ライセンスも所持(NESTA:全米エクササイズ&スポーツトレーナー協会)。筋力トレーニングおよび体重管理にも造詣が深い。


ホームページ

腰博士  https://koshihakase.com

M+ POWER  https://m-pluspower.com


著書

◆脊柱管狭窄症 腰のスーパードクターが伝授する 最新最強自力克服大全(わかさ出版)

◆脊柱管狭窄症 腰の名医20人が教える最高の治し方大全(文響社)

◆ひざ痛・変形性ひざ関節症(文響社)

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