🖊️わたしが好きな荻窪 OGIKUBO ESSAY -歌人・木下龍也×ルミネ荻窪-

荻窪の好きなところや、街との思い出は、その街を大切に思ったことのある人の数だけ存在するはず。

西荻窪に暮らし、『荻窪メリーゴーランド』(木下龍也・鈴木晴香による共著)なども発表されている、歌人の木下龍也さん kino19880112 のコラムを特別にお届けします。

木下さんが綴る、「わたしが好きな荻窪」とは?

〜COLUMN〜
「約15分のシミュレーション」歌人・木下龍也

JR荻窪駅北口から青梅街道へ出て、西へまっすぐ行くと本屋 Titleはある。僕の歩行速度なら約15分、バスなら約5分で着くのだが、僕は最近やっとバスに乗れるようになった。バスがあることを知らなかったわけでも、乗り方がわからなかったわけでも、歩くのが好きというわけでもない。けれどもあえて、徒歩を選んでいた。

僕はTitleが大好きだ。行けば必ず今の自分に必要な本に出会えるし、時間を忘れて書棚の端から端までを見てしまうほど居心地がいい。さらに、奥のカフェで味わうことのできるフレンチトーストは思い出すだけでよだれが出るほどの絶品だ。短歌の展示で何度もお世話になっているから、辻山さんも僕の顔を覚えてくれていて、「ああ、こんにちは」といつもあたたかく迎えてくれる。そんなに大好きな場所ならなるべくはやく着きたいだろう、なぜバスで行かないんだ、とあなたは思うかもしれない。僕だってずっとバスで行きたかった。しかし、歩いて向かう約15分は僕が僕に与える猶予だったのだ。Titleの店主、辻山良雄さんとの会話を脳内でシミュレーションするための。

僕は会話が苦手だ。ひとりで短歌をつくることに慣れた僕にとって、会話ほど怖いものはない。自身の内側を見つめながら悩み、この単語が、この語順が、この口調が、読者にどう受け止められるのか、ひとつひとつを検証し、すべてを削除し、書き直し、また悩む、ということが会話では不可能だからだ。短歌と会話ではまるでスピードが違う。レジで会計をしていただくとき、辻山さんが投げてくれる言葉のボールを、僕は打ち返せないどころか、キャッチするのに精一杯で、そうですね、とか、あー、とか言いながら変な汗をかいてしまう。店を出て、またやってしまった、と思う。面白くない人だと思われたかもしれない。もう話したくないと思われたかもしれない。大好きな本屋の店主に。そんな思考が駆け巡る身体を約15分かけてまた駅まで引きずっていく。

そんな日々が、最近まではあった。こういうふうに書くと、もう上手に会話できるようになったのかな、と思われるかもしれないが、そうではない。どんなにシミュレーションしてもその通りにはいかないとやっと気づいたからだ。だから、バスに乗れるようになった。バスに乗ってはじめて、これまで何度も通り過ぎたはずの荻窪の風景をゆっくり見つめることができた。荻窪の街並みは生活に素直だ。上手じゃなくてもいい、素直ならそれでいいと、その風景は、辻山さんのあたたかさは、僕にずっと伝えてくれていたのかもしれない。


📝プロフィール
木下龍也
1988年生まれ。歌集は『つむじ風、ここにあります』『きみを嫌いな奴はクズだよ』(ともに書肆侃侃房)
『あなたのための短歌集』『オールアラウンドユー』(ともにナナロク社)。その他、短歌の入門書や共著歌集など著書多数。

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45 いいね! ('24/08/31 12:00 時点)