善人承継 リレーインタビュー
時間も想いもどこにも記録されていない。だからこそ思う「伝えなきゃいけない」
看護師 吉野 美貴 (よしの みき) さん インタビュー

“めんどくせえ”の先にあるものを、彼女は知っている

神奈川県・横須賀市。

海に囲まれ、どこか人情の残るこの街で、ひとりの看護師が現場に立ち続けている。

吉野美貴さん。

自分のことを「口も悪いし、態度にも出る」と笑って言う。

周りからは「怖い人」と言われることもある。

それでも彼女は、現場に立ち続ける。

なぜか。

その答えは、彼女のこれまでの人生と、いま向き合っている“現実”の中にあった。


名前:吉野 美貴(よしの みき)

出身:千葉県千葉市生まれ/神奈川県横須賀市育ち

職業:看護師

経歴:看護専門学校卒業後、横須賀市内病院勤務 → 美容医療 → 都内病院 → 現職へ復帰

学歴:臨床経験後、大学院修了(長期履修制度)

特徴:現場主義/論理重視/率直でブレない信念

関心領域:看護教育、現場改善、地域医療との連携 

家族と、決断と、「迷惑かけられない」という原点

彼女の原点は、少し重たい。

幼い頃、母は病気を抱えながらも家族を支えていた。

三人目の出産では、「命を取るか、子どもを取るか」という選択を迫られる。

父が選んだのは、母の命だった。その姿は、強烈に焼き付いている。


もともと父は別の仕事をしていたが、家族を守るために自ら道を変え、自衛官になった。

自分の人生よりも、家族を優先する人だった。


「やりたいならやれ」


そう言って、背中を押してくれる存在でもあった。彼女にとって父は、ずっと“理想の男性像”だったという。そんな父の姿を見てきたからこそ、

「迷惑をかけられない」「自分で食っていける仕事を選ばなきゃいけない」そう考えるようになった。

まだ小学生の頃の話だ。

“人の役に立つ”だけではない。 “生きていくため”でもある。その両方が、彼女を看護師という道へと向かわせた。

まっすぐすぎる選択と、揺らいだ30歳

”一度決めたらやり切る”それが彼女のスタイルだった。看護師になると決めてからは、他の道をほとんど見なかった。

専門に進み、現場に出て、働き続けた。だが、30歳前後。人生が揺らぐ。


プライベートで大きな転機があり、将来を見つめ直す時間が訪れた。

同時に、仕事にも迷いが生まれる。

一度は美容医療の世界に足を踏み入れた。華やかで、整えられた世界。

だが、そこには“命”の現場とは違う空気があった。

「死に直結しない世界」

その違和感は、彼女を再び病院へと戻す。

だが戻ったとき、気づいてしまう。


“このままでいいのか?”


その答えを探すため、彼女は働きながら大学院へ進んだ。



「なんでやらねえんだよ」——怖い人の正体

彼女は言う。


「めんどくせえこと、やんなくていいって思う人が多すぎる」


記録、委員会、ルール。現場には“面倒なこと”が山ほどある。

だが、その一つひとつが、“給料”にも、“医療の質”にも直結している。それを理解しないまま文句を言う人間が、どうしても許せない。

さらに彼女は、もう一歩踏み込む。

患者の髭を剃る。

爪を切る。

着替えを整える。

それは命に関わらない。でも、「その人らしく生きる」ことには関わる。

忙しさの中で削られていくケア。それを見過ごせない。

だから、言う。だから、やる。

怖いのではない。

彼女は“ちゃんと見ている人間”なだけだ。



横須賀という街と、離れられない理由

彼女はこの街を、一度は好きになれなかった。

生まれは千葉。

どこかで「自分は横須賀の人間ではない」と思っていた時期もあった。

だが今は違う。

胸を張って言える。

「自分は横須賀で生きている」と。

横須賀市は、高齢化が進む街だ。病院に来る人の多くは、すでに体を壊している。

「まさか自分がこうなるとは思わなかった」

そんな言葉を、何度も聞いてきた。だからこそ思う。

“もっと早く考えられたらいいのに”

どう生きて、どう最期を迎えるか。その選択は、本来もっと前からできるはずだ。

彼女の周りには、地域に出て活動する元同僚がいる。町の保健室のような取り組みをし、医療と地域をつなぐ人たち。

その姿を見ているからこそ思う。

自分もこの街の人たちを支えたい。

現場だけじゃなく、もっと外にも関わっていきたい。

横須賀という街に対して、 “関わる側”でいたいという想いが、確かにある。


「まだまだだな」で終わらせない未来

まもなく39歳。

彼女の中にはまだ迷いがある。子どもも欲しい。でも、もっと学びたい。現場にもいたい。でも、このままではいけない。

やりたいことは山ほどある。看護師を増やしたい。魅力を伝えたい。教育の仕組みを変えたい。

それでも彼女は言う。

「言ってるだけじゃ意味ない」「形にしないとダメ」

だから、考え続ける。

現場を変えたい。人を増やしたい。患者にもっとできることを増やしたい。

その思考は、止まらない。

伝えたいのは、「あの頃」のこと

彼女の話を聞いていると、ふと出てくる言葉がある。

「楽しかったんですよね、あの頃」

厳しかった。忙しかった。余裕なんてなかった。それでも、楽しかった。

先輩たちは、ただ教えるのではなかった。

自分たちが持っているものを、惜しみなく“見せてくれていた”。

患者のことを、みんなで30分もかけて本気で考える。

他職種を巻き込みながら、「この人にとって何が一番いいか」を探す。

そんな時間が、確かにあった。

その中で、彼女は看護の面白さを知った。

でも——

その時間も、想いも、どこにも記録されていない。

だからこそ思う。

「伝えなきゃいけない」

武勇伝じゃなくていい。きれいな話じゃなくてもいい。あの時、何を考えていたのか。

どう悩んで、どう向き合っていたのか。

それが残っていれば、きっと誰かに届く。

同じように悩んでいる人に。

これからこの世界に入ってくる人に。

「こういう人たちがいたんだ」って。

その積み重ねが、また次の誰かをつくっていく。

彼女は、そう信じている。


インタビュー後記

正直、この人は“ウニ”みたいな人だと思った。

口は悪いし、言うことも強い。

外側はトゲだらけで、簡単には近づけない。

でも、その殻をひとつ越えた瞬間、見えるものがある。

中には、驚くほどまっすぐで、濃い“旨み”が詰まっている。

この人、めちゃくちゃまともだ。

やることをやらない人間には厳しい。でも、やってる人間にはちゃんと向き合う。

そして何より、「患者のためになるか」で全部判断している。こういう人がいるから、現場はまだ崩れていない。


横須賀という街も、他の街のようにこれからもっと高齢化は進んでいくのかもしれない。

それでも、この人みたいに考え続ける人間がいる限り、まだやれることはあると思う。

——この想い、誰に渡そう。

それをつなぐのが、善人承継だ。


この記事に関するお問い合わせ

株式会社SOG

インタビュアー  山元  直樹

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*お電話相談の際、『区民ニュース』の記事を読みました。とお伝え下さい。