みなさまも記憶に新しい残念な事故が今年の4月23日に発生いたしました。その事故とは、北海道・知床半島沖で観光船「KAZU  Ⅰ(カズワン)」が沈没した事故です。乗員・乗客合わせて26名全員が死亡・行方不明となりました。

 

実は、こちらの観光船に北海道在住の20歳代男性が、交際相手の20歳代女性と一緒に乗っておりました。どうやら、乗船した23日は女性の誕生日だったそうです。男性は指輪を買って、知床旅行に誘っていたのです。男性はサプライズでプロポーズするつもりだったそうです。だから、男性からすれば「どうしてもこの日」だったのでしょうね。

 

若い二人が船上でのプロポーズを行うというのは、なんともロマンティックだと思いませんか?本当であれば、プロポーズに成功して新婚生活を送っていたことだと思います。しかしながら、「どうしてもこの日」が「何故、こんな日に」に変わってしまいました。

 

男性のご遺体は4月23日の事故発生から5日後、海上で見つかりました。一方、女性のご遺体はロシアが実効支配する北方領土・国後(くなしり)島で見つかり、他の乗船者2人のご遺体とともに9月9日に日本側へ引き渡されました。

 

9月10日朝、ご遺体を収容した海上保安庁の巡視船が到着する小樽港に、男性のお父様は「息子に代わって彼女の帰りを見届けたい」という思いで駆けつけたそうです。船から運び出された棺を乗せた車が目の前を通る時、目を閉じて合掌をして、心の中で「お帰りなさい」と語りかけたそうです。

 

男性のお葬式から数か月後、その女性のお葬式が営まれました。男性のお父様が「息子も連れてきました」と遺影を見せると、女性のお母様は「来てくれたんだね。ありがとう」と言いながら遺影を抱きしめたそうです。棺の中で眠る娘にも声を震わせながら「会いに来てくれたよ」と語りかけ、ほほえみながら泣いたそうです。双方の親御さんは、2人の「再会」に嬉しさを感じると同時に、悲しみもこみ上げて泣き崩れたそうです。

 

このような表現が正解なのかどうかはわかりませんが、批判を恐れずに言わせてもらうと、毎年、お亡くなりになる予定ではない方の命が失われています。本当はこの後も続いていく素敵なドラマがあったにもかかわらず、突然、命が奪われることになるなんて、本当に辛い事だと思うのです。

 

私は葬儀社という立場上、事故や事件などによって理不尽に奪われた将来のある若い方のお葬式を担当した経験がございます。このような場合、遺された親御さんは、茫然自失というか心ここにあらずという感じでした。それは、本当に仕方ない事だと思います。精神状態は普通ではなくて当然です。

 

本当は、お別れなんて認めたくないでしょう。しかし、言葉として正しいかどうかわかりませんが、「心のけじめ」は必要だと考えます。遺影写真と棺の中のお顔とのやりとかもしれませんが、少しずつかもしれませんが、遺された方々の心は少し軽くなったのではないかと思います。

 

男性の家族は、女性の家族と話し合い、2人が暮らすはずだった街の役所に「婚姻届」を出しに行ったそうです。受理されることはなくても、「せめて形を残してあげたい」との思いだったそうです。こういった供養も素敵だと思います。

 

最近のお葬式は、家族葬が増えているからという訳ではございませんが、お亡くなりなった方が高齢になればなるほど、参列者は少なくなっていきます。しかし、お顔を見たかった、話しかけたかった、ぬくもりを感じたかったという思いの方は、誰しもにいると思います。

 

金銭的な問題もあるのは理解できますが、「本当にそのようなお別れの方法を選択して良いのですか?」とお聞きするのはプロとして当然の事だと思います。大切な方とのお別れに立ち会えた事で心が軽くなったと思っていただける参列者が居たのであれば、お葬式をした意味があると思うのです。

 

 

 

 

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著:一級葬祭ディレクター 小林大悟