■ 子どもでいられなかった子ども
「本当は、もっと子どもでいたかったなって思うんです」
有高さおりさんは、そう静かに言った。
東京都江東区深川で生まれ、父の仕事で埼玉県川口市(旧鳩ケ谷市)へ。
見た目はどこにでもいる少女だったが、家庭の中身は違った。
父は外で遊び、帰れば酒と暴力。母もまた、その矛先を子どもに向ける。
甘えたい。でも甘えられない。
大人を軽蔑しながら、大人の顔色を読む。
そんな矛盾の中で、彼女は「子ども」としての時間をうまく持てなかった。
中学で剣道部に入り、「武器があれば」と思ったこともある。
父をどうにかしてやろうと本気で思った過去もある。
それでも彼女は壊れなかった。
いや、正確に言えば——
壊れながら、生き方を覚えていった。

名 前:有高さおり(ありたか さおり)
出 身:東京都江東区深川生まれ/埼玉県川口市(旧鳩ヶ谷市)育ち 三姉妹の長女
職 業:やきとり94〇(KUSHIMARU)経営
経 歴:ホテル勤務→幼稚園課外講師→トラック運転手→水商売→不動産→飲食業へ
努力が無駄になった日、それでも残ったもの
小学生の頃、彼女は勉強にのめり込んだ。
きっかけは家庭教師の存在だ。嫌々始めたはずが、その先生の影響で「学ぶことが楽しい」と思えるようになった。
努力は積み上がった。だが、受験直前——両親の喧嘩で、すべてが終わる。
「じゃあ受験なんかしなくていい!」
その一言で、数年の努力は消えた。
普通なら折れる。でも彼女は違った。
積み上げた“中身”だけは、自分の中に残っていた。
授業を少し聞けば理解できる。
周りが何をしているか、冷静に見える。
生き抜くための力は、すでに備わっていた。
すべてを変えた、母の死
20歳。人生の分岐点が訪れる。
母の死。
それは悲しみ以上に、「現実」を突きつける出来事だった。
泣き崩れる父を見て、彼女は思う。
「この人、弱いだけだったんだ」
あれほど憎んだ存在が、ただの弱い人間に見えた瞬間だった。
怒りは消えた。
代わりに残ったのは、“受け入れ”だった。
そして気づく。自分は一人じゃない。
周りに人がいるから、生きている。
この価値観が、今の彼女の核になっている。

夜の世界から、店を持つ側へ
母の看病をしながら働く日々。
トラック運転手として寝不足の中働き、事故も経験する。
限界だった。
夜に働くしかなかった。水商売に入ったのは、逃げじゃない。
“生きるための選択”だった。
そこで人と出会い、商売を学び、繋がりを作る。やがて彼女は店を持つ。
最初は囲炉裏の店。次に焼き鳥。
うまくいかなかった店もある。
人に裏切られたこともある。
パートナーとも別れた。
でも——全部、自分で決めてきた。
象徴的なのが、肉の仕入れの話だ。
「この味でやりたい!」
そう決めた彼女は、当時週1で通っていた焼き鳥屋に出入りする肉屋のトラックを追いかけ、信号待ちで直接交渉した。
普通はやらない。でも彼女はやる。
この“突破力”が、今の店を支えている。
現在、焼き鳥屋を営み5年目。
ただの飲食店ではない。ここは——
“人が戻ってくる場所”だ。
彼女は言う。
「みんなが気軽に集まれる場所は、ひとつ作っておきたい」
商売というより、居場所づくり。
昔、自分が持てなかったものを、今は人に渡している。
だからこの店には、理由がある。
味だけじゃなく、人が集まる理由がある。

この街への想い。そして、次の世代へ
鳩ヶ谷という街に対して、彼女の想いは単純な「好き」だけではない。
むしろ、どこかに“もったいなさ”と“苛立ち”が混じっている。
「もっとオープンになればいいのに」
古くからの人間が強く、新しく入ってくる人をどこかで弾く空気。商店街が閉まり、祭りが減り、少しずつ活気が失われていく現実。
全部、見えている。だからこそ思う。
「やり方次第で、絶対変わるはずなんだ」
飲食店が増えれば、人は集まる。
人が集まれば、街は動く。
それを感覚じゃなく、“経験”で知っている人間の言葉だ。
一方で、若い世代が少しずつ動き始めているのも感じている。
「今はもう、若い人たちが頑張ってくれてるから」
少し距離を置きながらも、その動きをちゃんと見ている。そして、期待もしている。
だからこそ、彼女が次の世代に伝えたいことはシンプルだ。
「挑戦してほしい。できることは、全部やった方がいい」
努力して、失敗して、やり切ってみる。その先にしか見えない景色がある。
この街も、人生も、誰かが用意してくれるものじゃない。
だから、自分で動くしかない。
きっと彼女は、これからもずっとこのスタイルを貫くはずだ。
人生の楽しみ方も、その先の景色の見方も、ちゃんと知っているから。

インタビュー後記
有高さおりさん。この人、めちゃくちゃ面倒くさい人生を歩いてる。
でも——
その面倒くささから逃げなかった人間の言葉は、やっぱり強く、熱い。
綺麗に整った人生の話なんかより、こういう“歪んだ道を前に進んできた人間”の方が、よっぽど信用できる。
厳しい家庭環境で育った人間が、人を集める場所を作ってる。
普通は無理だ。でも、この人はそれをやってのけたんだ。
そしてもう一つ、やっぱり思うことがある。
「挑戦してほしい。できることは全部やった方がいい」
この言葉、これまで何人のインタビューで聞いてきただろう。
厳しい過去を乗り越えてきた人。
何度も失敗して、それでも前を向いてきた人。
そういう人たちは、不思議と同じ場所に辿り着く。有高さおりさんも、その一人だった。
だから一回、店に行ってみてほしい。話してみてほしい。そうすればすぐに気づく。
「あ、この人、ちゃんと見てくれる人だな」って。
——なんだ、こういうことを伝えてくれる人がいる街なら、まだまだ希望はあるじゃないか。
粗く眩しい若い人たちよ。これを聞いてどう思う?君たちはこれからどう生きる?
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山元 直樹
2026/04/24(金)