まちの仕事人インタビュー
すべての草花の価値を伝える
株式会社ソウアン 代表取締役 石川 浩章 (いしかわ ひろあき) さん インタビュー

1963年生まれ。中学時代からバンド活動に没頭。大学卒業後は、一旦就職するものの会社組織に失望し、音楽活動に専念。だが、チャンスが来ては失うといった状況が続き、大きな成功は得られず40代を迎える。いつもライブを観に来ていた後輩との縁で、イベント制作会社へ入社。その後、自分の理想とするイベント事業を行うため、2015年に株式会社ソウアンを起業。新規事業として、ドライフラワー事業『謳花』をスタート。

すべての草花に価値がある

新規事業を始めたきっかけを教えてください。

流木などに装花をしていたクリエイターの秋田さんと出会ったことがきっかけです。自由が丘の某イベントの運営に携わった際、現地のアート展示をお願いしたアーティストの仲間が秋田さん。その後も弊社で運営している『サナギ新宿前イベントスペース』のアートイベントに参加してくれる等、交流は続き、ある日「何か新しいことを一緒にやりたい」と会社に訪ねて来たことを覚えています。秋田さんの作品は非常に独特で、ドライフラワーでありながら、生花とは違う意味で“生きている”と感じることができるものばかりです。そこには「多様性」や「生きる力」を想起させるものがあり、素直に「面白い!」と思いましたね。私は花の専門家ではありませんが、元々植物には興味があったため、2人で新規事業として『謳花』をスタート。とはいえ本業も忙しく、しばらくは秋田さんにまかせっきりでした。特に大きな成果も上がっていない中で発生した、新型コロナウィルスの感染拡大。本業であるイベント事業がストップし、打ち手を見いだせない中、自宅での“花の需要が増えている”との情報を知りました。ビジネスという観点だけなく、未知の恐怖に不安を抱えている人に対して、花を扱う事業者として何かできることがあるのでは?と考え、そこで本腰を入れて『謳花』という事業の本質から見直し、現在に至ります。

仕事の特徴はどのような点にありますか?

『謳花』で使用する草花は、一見形が整っていないものが多いです。それは、制作に使用する花が、庭師さんからいただく剪定されて捨てられてしまう花など、流通に乗らないものを積極的に活用しているからです。私たちは、日照条件によって曲がったり、色が薄かったりと、一見きれいに整っていないような草花であっても、それを“その場だからこそ得られたカタチ”として捉え、魅力的で価値があると考えています。この“すべての草花に価値がある”という考え方は、このサービスのベースになるものですね。その考えに至った経緯は、私のこれまでの経験にあります。私は40歳過ぎまで音楽の道を追い続けた結果、夢破れました。そんな私のことを「面倒をみてやる」と言ってくれた恩人がいて、私を受け入れてくれた20代、30代の先輩がいてくれたことで、今の私の“カタチ”ができあがっています。そのため、草花たちのどんな場所であっても、その環境で精一杯成長し、力強く光を追い求めた“カタチ”に物語を感じ、心を惹かれるのです。そんな物語の詰まった“カタチ”にクリエイターの力で命を吹き込まれたドライフラワーが『謳花』です。


今日もまた、花と出会う

新規事業への想いを教えてください。

“人類で初めてお花を贈った人のように、今日もまた、花と出会う”という言葉が、この事業の価値を再確認した際に私たちがたどり着いた答えです。この事業を始めた当初、アジサイのドライフラワーを、花を扱う何人かのクリエイターにお渡しし、感想を聞いたことがあります。反応は「色が悪くて使えない!」という否定的なものから、「小ささや色の薄さに味があって魅力的!」と肯定的なものまでさまざま。この反応の幅に、この事業の持つ多様性と可能性を感じました。花は人を喜ばせようと考えて咲いている訳ではありません。人が勝手に花の美しさを決めているだけなのです。人類で初めて花を贈った人は、自分の価値観で目の前の花を美しく感じたことで、それを誰かに手渡し、花を受け取った人も、美しいと喜んだはずです。同じように、私たちも自由に花の美しさを感じ、すべての人が自分の価値観で花を見て感じることのできる世界を目指そうと心に決めました。様々な環境下の草花の価値を伝える活動を“ハグレ・プロジェクト”と名付けました。これは、ある意味“ハグレ”者である自分が、その環境で精一杯、光を追い求めて来た姿と重ね合わせた自分へのエールでもありますね。廃棄野菜や雑草、剪定ゴミといった、一般的な花材としての価値や需要から“ハグレ”てしまった草花たちの、本来持つ魅力や価値を見出し、たくさんの方のお手元へと渡していくプロジェクトです。

仕事をするうえで心掛けていることを教えてください。

この事業の掲げている夢は『全世界の人が、すべての草花の価値に気づく文化をつくる』というもの。イノベーションは、AIなどに代表されるテクノロジーによって起こるのかも知れませんが、中長期的に大きなイノベーションを起こしているのは、文化の変化によるものだと考えています。様々な価値観の衝突によるトラブルや、戦争などが世界中で発生していますが、それらは多様性を受け入れる文化に変化することによって、出口が見つかるのではないでしょうか。「ドライフラワー」は西洋から持ち込まれた文化ですが、日本にも枯れた花を愛でる侘び寂びという独自の感性があります。日本では、散った桜の花びらが水面に浮き、それらが連なって流れていく様子を『花筏(はないかだ)』と呼んだり、桜の花が散り若葉が出始めたころを『葉桜』と表現するなど、移り変わる、その時々の様に心を寄せる文化があります。そんな日本人の感性を加えた、日本のドライフラワーを世界に届けていきたいですね。


インタビュー後記

40歳を過ぎるまで、声がかかり続けたことで、逆に諦めるタイミングを失い、音楽の夢を追い続けた石川さん。父親と他界をきっかけに、社会人としての新たな一歩を踏み出し“人はいつからでもやり直せる。人生には成功も失敗もない”との考えの元、精一杯の成長を続けてきた。“全部自分で責任を取る人生”を送るために、会社を立ち上げたという覚悟に後押しされたドライフラワー事業。世界の文化を変える挑戦は、始まったばかりだ。

お問い合わせ

名前:株式会社ソウアン

住所:東京都新宿区新宿4-3-15レイフラット新宿B棟3F

謳花HP:https://ouka-soan.com/

謳花Instagram:https://www.instagram.com/ouka_official

問合せ先:ishikawa@soan-inc.jp

*ご相談の際は、『区民ニュース』の記事を読みました。とお伝えください。