善人承継 リレーインタビュー
世界を渡り、人に出会い、心を和ませる。
ジープ島後継 挑戦者 渡会 和馬 (わたらい かずま) さん インタビュー

名前の通りに、生きている人がいる

「渡る」に「会う」と書いて、渡会。

「和」は、平和の和。人を和ませる和。

「馬」は、午年に生まれサラブレッドのように育つことを願って付けられた。


渡会和馬さんは、自分の名前についてこう語る。


「世界を渡り、人に出会い、心を和ませられるような突出した人(馬,サラブレッド)になりなさい。そんな願いが込められているんじゃないかなって」


それは、後付けの綺麗な話ではない。

彼の人生そのものが、まるで名前に導かれるように進んできた。

岐阜県で生まれ育った少年は、やがて海のない土地を離れ、世界を旅し、40カ国近くを巡り、最後にたどり着いたのが、ミクロネシア連邦チューク州、トラック本島沖に浮かぶ小さな無人島、ジープ島だった。


都会にあるものは全てなく、

都会にないものが全てある。

電波もない。余計な肩書きも通じない。

社長も、アルバイトも、医者も、学生も、同じ部屋で眠る。

化粧も、ワックスも、見栄も、いつの間にか剥がれていく。

そこに残るのは、その人自身だ。

渡会さんは、その島で人を迎え、人と向き合い続けている。


名  前:渡会和馬(わたらい・かずま)

愛  称:タラちゃん

年  齢:35歳

拠  点:ミクロネシア連邦チューク州・ジープ島

活  動:ジープ島の運営・後継者として挑戦中

19歳で、人生が一度壊れた

今の穏やかな語り口からは想像できないほど、渡会さんの人生には大きな転機があった。

19歳の頃、両親の離婚、母の植物状態、家の借金。

いくつもの現実が、一気に押し寄せた。

長男だった彼は、家の借金と母の介護に向き合うことになる。

金額は約3000万円。

19歳から25歳までの6年間は、人生で最も苦しい時期だったという。


「その時が、自分にとって一番きつかった」


当時の彼は、自分の人生を不幸だと思っていた。

人も離れていく。お金もない。希望も見えない。

その過程で、自ら命を絶とうとしたこともあった。

けれど、病院のベッドの横に置かれていた鉛筆で、ふと書いた言葉があった。


「世界一周」


中学生の頃、居酒屋で見かけた世界一周のポスター。

忘れていたはずの夢が、そこにまだ残っていた。

薬を飲んでも、ベッドの上で休んでいても元気が出なかった。

でも、その夢を書いた瞬間だけ、心が少し動いた。そして、 ジープ島の本に出会った。


本のタイトルは、


もしあなたが、いま、仕事に追われていて少しだけ解放されたいと思うなら。


"全てを失った時に、本当に大切なものが見つかる"

その時は、このジープ島の本にそう書かれていたように感じた。

最初はそんな言葉に反発した。

ふざけるな、とも思った。

でも、生きることを諦めきれなかった。

そして、残ったものがあった。


夢と、人だった。


泣き虫だった少年が、人と向き合う人になるまで

子どもの頃の自分を、渡会さんは「弱虫で泣き虫だった」と言う。

ただ、今振り返ると、それは感情が豊かで、素直だったということでもある。

夢中になると周りの声が聞こえなくなるほど集中する子どもだった。


アニメや漫画にも強く影響を受けた。『ジャングルの王者ターちゃん』や『ワンピース』の世界観は、少なからず今の生き方にもつながっているという。

中学生の頃には「少年の主張」で、原稿用紙8枚、9枚分を丸暗記して発表したこともある。

その記憶力は、今の仕事にもつながっている。

ジープ島に来たお客さんの名前を、フルネームで漢字まで書く。

顔と名前を覚える。

4年間で書いたノートは7冊ほどになった。

便利な時代に、自分の名前を漢字で丁寧に書いてもらうことは意外と少ない。

だからこそ、そこには小さな温度が生まれる。


渡会さんは、人と向き合う力がある人だ。

本人は「自分ではよくわからない」と笑うが、話を聞いているとわかる。

逃げない。飾らない。ごまかさない。

真正面から、人を見ている。


世界一の絶景は、人の心だった

ジープ島に行く前、渡会さんは師匠に尋ねた。


「なぜ、ジープ島に行ったんですか」


返ってきた言葉は、少し不思議だった。


「人に会うために行った」


無人島なのに、人に会うため。

最初は意味がわからなかった。

でも、4年目に入った今、その意味がわかるようになった。

ジープ島には、星がある。虹がある。夕日がある。イルカがいる。

世界一とも言える絶景が、そこにはある。

けれど、渡会さんが本当に美しいと思うものは、景色そのものだけではない。

その景色を見て、泣く人。笑う人。声を上げる人。言葉を失う人。

その瞬間に現れる、人の心だ。


世界一の絶景は、人の心だなって、心から思ったんです


人間関係は、時に一番しんどい。

お金よりも、人間関係で悩む人の方が多いかもしれない。

それでも、やっぱり人間が一番美しい。

心の振り幅こそが、人として生きている証なのだと、渡会さんは言う。

自然は晴れの日だけではない。雨の日もある。

人も同じだ。

前向きな日もあれば、落ち込む日もある。

それを全部含めて、人なんだ。


ジープ島は、そのことを思い出させてくれる場所なのかもしれない。


手放すことで、幸せの幅が広がる

若い人に伝えたいことを尋ねると、渡会さんはこう答えた。


「人生に幅を持たせた方がいい」


もっと速く。もっと多く。もっと豊かに。

人はつい、増やすことばかりを考える。

お金を増やす。物を増やす。

それ自体が悪いわけではない。

でも、ジープ島ではシャワーはバケツ一杯。

日本で当たり前に使っているものが、ここでは当たり前ではない。

だからこそ、今あるもののありがたさが見えてくる。

お金をヤシの木に渡しても、喜んではくれない。

魚にお金を見せても、食べられるわけではない。

でも、海に感謝し、ゴミを拾い、自然に手を合わせることはできる。


「あるものに感謝するためには、手放すことも必要だと思うんです」


全てを失ったと感じたとき、

全てを得るということを知る。


その言葉を、渡会さんは自分の人生で少しずつ確かめてきた。

幸せのハードルを下げること。

小さなことに感謝できる自分でいること。

人と関わり、自然と関わり、自分の心と向き合うこと。

それは、若い人だけに向けた言葉ではない。

だからそれは、今からでも遅くはない。


手放してしまったら一生を掛けても戻ってこないこともある。だからこそ、本当に手放してはいけないもの失う前に少しずつ手放すことを経験する大切さもある。

ジープ島を守るという夢

渡会さんには、今、大きな夢がある。

ジープ島のあるチュークの海、そしてその環境を、世界遺産にしたいという夢だ。

それは、人をたくさん呼びたいからではない。

むしろ、守りたいからだ。

海を守りたい。自然を守りたい。

人が心を取り戻せる場所を、残していきたい。


台風が来れば、島は直に影響を受ける。

家を直すこともある。

自然の中で生きるということは、美しいだけではない。

命が近い。

油断すれば、死にも直結する。

だからこそ、毎日を曖昧にしない。

師匠から教わった言葉がある。


「日々に句読点を打っていく」


いい日も、悪い日もある。

それでも、その一日にちゃんと丸を打つ。

区切りをつけて、また明日を生きる。

渡会さんの老後観も、どこか潔い。

老後のために今を我慢する、という考え方ではない。

今をどう生きるか。その積み重ねの先にしか、未来はないと知っている。

渡会和馬さんにとっての善人

最後に、渡会さんに「善人とはどんな人か」と尋ねた。

少し考えながら、彼は「心の美しさ」という言葉にたどり着いた。

人は、真実でありたい。善でありたい。美しくありたい。

けれど今の世の中では、何が本物で、何が善で、何が美しいのか、わかりにくくなっている。


高いモノだけが、本物とは限らない。

多く売っている売れていることだけが、善とは限らない。

見えてるものだけが、本当に美しいとも限らない。

でも、変わらないものがある。

桜を見て、綺麗だと思う心。

朝日や夕日を見て、美しいと感じる心。

誰かに教えられたわけではないのに、人の中に自然と生まれる感情。

それが、心の美しさなのだと。


「善人とは、心の美しさを感じられる人」


ジープ島には、それを思い出す瞬間がたくさんある。

だから人は帰った後、大切な人に伝えたくなる。

あの島はよかった。あの場所に行ってほしい、と。

渡会和馬さんは、世界を渡り、人に出会い、心を和ませる、突出した人(馬,サラブレッド)になる。


そんな名前の通りに生きている。


そして今日も、ジープ島で誰かを迎える。

肩書きではなく、人として。

絶景ではなく、心に出会うために。


インタビュー後記

インタビュー中、何度も思った。

この人、私の質問に答えているようで、たぶん海と会話してたんじゃないだろうか。


普通なら「老後はどう考えていますか」と聞けば、年金とか貯金とか健康とか、そういう話になる。

ところが渡会さんは、命の近さを語り出す。

シャワーはバケツ一杯。お金をヤシの木に渡しても喜ばない。世界一の絶景は人の心。

いや、金融屋泣かせである。

お金の話をしても、最後はヤシの木に持っていかれる。

でも、それがいい。

お金も大事。制度も大事。準備も大事。

ただ、それだけで人は幸せになるのかと言われると、たぶん違う。


渡会さんの話を聞いていると、人生は増やすだけではなく、手放すことで見えるものがあるのだと思わされる。

便利な日本で暮らす私たちは、気づけばたくさん持っている。

でも、持ちすぎているせいで、何が本当に大切なのかわからなくなることがある。

ジープ島には、きっと余計なものがない。

だから、人の心が見えるんだ。


渡会和馬さん。

この人に会いに行く旅は、島に行く旅であり、自分に会いに行く旅なのかもしれない。

……ただし、先に覚悟しておいた方がいい。


シャワーはバケツ一杯だ笑

お問い合わせ

善人承継インタビュアー

山元  直樹

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*お電話相談の際、『区民ニュース』の記事を読みました。とお伝え下さい。

ご紹介者さま: 株式会社リアル 坂口 友亮 さん