鹿児島県霧島市溝辺町。
空港からほど近いこの場所に、週末になると行列ができる店がある。
夏になれば、子どもたちの笑い声と、水の流れる音が響く。
どこか懐かしく、それでいて、今も人を惹きつけてやまない場所。
その中心にいるのが、井倉 渓という男だ。
だが彼は、最初からこの場所に根を張っていたわけではない。
むしろ、その逆だ。

氏 名:井倉 渓(いのくら けい)
居住地:鹿児島県霧島市溝辺町
職 業:株式会社K’s Village 代表取締役
そうめん流し・手打ちそば「竹川峡(ちくせんきょう)」オーナー
事業内容:流しそうめんを中心とした飲食店の運営
従業員数:10名(パート・アルバイト含む)
「流れのままに生きてきた」少年時代
「特に意味はないんですよ。名前も、ぱっと思いつきでつけたって聞きました」
そう笑う彼の人生は、まさにその言葉通りだった。
福岡、熊本、鹿児島。
転勤族として各地を渡り歩きながら、環境に適応していく日々。
特別に何かを目指すわけでもなく、
「なんとなく楽しそうだから」という理由で始めたバスケットボールに熱中する。
水泳は嫌いで、バスケは好き。勉強は最低限。
どこにでもいる、普通の少年。
ただ一つ違ったのは、「流れに逆らわない」という生き方だった。

迷い、遠回りしながら見つけた“自分の居場所”
高校卒業後、彼は決して一直線ではない道を歩く。
電気工事、NPO法人の団体職員、訪問販売。様々な挫折も経験する。
「何も考えてなかったですね。ほんとに笑」
だが、その“何も考えていない時間”こそが、後の土台になる。
転機は27歳。
子どもができたことだった。
「このままではやばいなと思いましたね」
初めて、人生に“責任”が生まれた瞬間。彼は直感的にこう思う。
「食べ物を作る仕事なら、絶対に残る」
そうして飛び込んだ農業の世界。
熊本での7年間は、彼にとって“仕事を知る時間”だった。
農地開拓、営業、交渉。
東京ドーム6個分の土地を開拓するという、常識外れの成果も残す。
だがその裏で、組織との方向性にズレも生まれていた。
「それを感じたので辞めました」
あっさりと語るその決断は、軽くはない。
積み上げてきたものを、すべて手放す選択だった。

事業承継という“賭け”
すべてをリセットした彼に、転機が訪れる。
父親からの一言だった。
「ここ、売りに出そうなんだよな」
それが、現在の店との出会い。
当初は彼の父親が別事業としての再生を考えていた。
だが、現地を訪れたとき、その考えは変わる。
行列。
子どもたちの笑顔。
流しそうめんという文化。
「これ、なくしたらもったいないなって思ったんです」
そこからは早かった。
資金も実績もない中、信頼を積み上げ、
家族の支援を受けながら事業承継へ。
だが、待っていたのはコロナ。
「始めた瞬間に、全部止まりましたね」
普通なら折れる状況。だが彼は、“流れに身を任せる男”だった。
だからこそ、止まらなかった。


「やりきった」と言える場所まで
現在、6期目。売上は5,000万円規模。パートさんを合わせると従業員は最大13名。
設備投資、機械化、オペレーション改善。
やれることはとりあえずすべてやった。
「もう、やりきったかなって思ってます」
普通なら満足して終わるところだ。
だが彼は、次を見ている。
・別の飲食事業
・そうめん文化の展開
・事業承継による再生
「マネジメントが好きなんですよね」
技術で勝負する人間は多い。
だが彼は違う。
人を活かし、仕組みを整え、その場に“流れ”を生み出す。
目に見えない価値を形にしていく力。それこそが、井倉 渓という男の本質だ。
地域へのリアルな視点
溝辺という地域に対しても、彼の視点は現実的だ。
「正直、ここで生まれてないとわからない笑」
外から来た人間だからこそ見えるものがある。
過疎化、若者流出。
それを“問題”としてではなく、“前提”として受け止めている。
「誰でもみんな一回は外に出たいんですよ」
理想論ではなく、現実。
だからこそ彼は言う。
「土地なんてタダでいいから、住める環境作った方がいい」
綺麗ごとではない。
現場を知る人間の言葉だ。

若い世代へ伝えたいこと
「若いうちは、いろいろ経験した方がいい」
自分自身が遠回りしてきたからこそ、出てくる言葉。
ただ一つ、強く否定したのはこれだった。
「退職代行だけはやめた方がいい」
それは、根性論でも、古い価値観でもない。
辞めることより、“辞めると言う経験”の方が大事だと語る。
逃げるな、ではない。経験を捨てるな、というメッセージだ。
怖さと向き合い、言葉を選び、自分の意思で区切りをつける。
その一歩こそが、人を大人にする。
井倉渓という男は、それを知っているのだ。
今の時代に、ここまで真っ直ぐに伝えてくれる人はどれだけいるだろう。
こんな大人がいれば、若い世代も少しは救われるのかもしれない。
インタビュー後記
この人はとても明るい。
インタビューは、途中で笑いが起き、話が逸れ、何度も止まりながら、また逸れ、笑い、それでも進んでいく。
けれど不思議と、その“途切れ途切れ”の時間こそが、井倉 渓という人間をよく表していた。
流されているようで、実は流れを見ている。
決めていないようで、決めるべき瞬間は逃さない。
派手な成功談ではない。劇的なストーリーでもない。
それでも、確かに思う。
――もっと知りたい、もっと話していたい。
そう思わせるのは、
きっと“生き方”そのものに魅力があるからだ。
こうなると井倉渓が、このバトンを誰に渡すのか気になる。
きっと、“まだ知られていない素敵な誰か”に光を当ててくれることだろう。
お問い合わせ
竹川峡(ちくせんきょう)
※運営会社:株式会社K’s Village
〒899-6402
鹿児島県霧島市溝辺町竹子1427-1
TEL:0995-59-2141
HP:https://tikusenkyo.com/
営業時間11:00~15:00
定休日:毎週水曜日(祝日は営業)1月1日~3日
※11月~3月は別途不定休あり
*お電話相談の際、『区民ニュース』の記事を読みました。とお伝え下さい。