まちの仕事人インタビュー
技術を磨き、想いを未来へつなぐ職人
きもの工房 扇屋 代表 家田 貴之 (いえだたかゆき) さん インタビュー

着物の染色補正を手がける「きもの工房 扇屋」を営む家田貴之さん。着物のシミ抜きや色補正をはじめ、着物全般のメンテナンスを手がけるほか、近年は着物で培った技術を生かし、スカーフなどのシルク製品の修復にも取り組んでいる。高校卒業後、京都で5年間の内弟子修行を経験し、業界で高い技術を持つ師匠のもとで技術を磨いた。東京に戻ってからは家業に加わり、現在は全国から技術を学びに来る人たちへの指導にも力を注いでいる。

今の仕事を始めたきっかけを教えてください。

もともと手先が器用で、子どもの頃から細かな作業が好きでした。中学生の頃には、自分の手先の器用さや目の良さを生かせる仕事はないかと考えていたんです。高校卒業を控えた頃、家業である洗い張りの業界のイベントで染み抜きをする職人さんの姿を見ました。着物をきれいに直し、周囲から「すごい」と称賛されている姿がとても印象に残ったんです。

その後、技能グランプリで一級技能士の方々が技術を競う姿を見て、「この世界で一番になりたい」と思いました。自分の器用さや視力を生かせますし、家業ともつながっています。この技術を身につければ家の仕事をもっと大きくできるのではないかと思い、この道に進むことを決めました。

会社設立までの経緯を教えてください。

高校卒業後、18歳で京都へ行き、内弟子として5年間修行しました。せっかくならこの業界で一番と言われるところで学びたいと思い、技能グランプリの第1回優勝者である師匠のもとに入り、染物の最終調整を行う「染色補正」の技術を学びました。

東京へ戻ってからは両親と一緒に仕事を始め、少しずつ人を雇うようになりました。雇用環境を整える必要もあり、その流れの中で株式会社にしました。

その後、インターネットが普及し始めた時期に自分でホームページを作ったことをきっかけに、個人のお客様が増えていきました。雑誌に取り上げていただいたことも重なり、次第に個人のお客様から直接ご依頼をいただく現在のスタイルへと変わっていきました。

会社の特徴を教えてください。

もともとは職人の店でしたが、現在は「着物全般について相談できる店」という形になっています。着物のシミ抜きだけではなく、直すこと、メンテナンスすることを幅広くご相談いただけるのが特徴です。

最近、特に力を入れているのがシルク製品の修復です。着物の多くはシルクでできていますので、これまで培ってきた技術を生かして、スカーフなどにも対応しています。ハイブランドのシルク製品についてご相談いただくことも増え、海外からのお客様が訪れることもあります。

染色補正は、単にシミを抜くだけではありません。色が薄くなった部分に、もともと残っている色を見極めながら新たな色を加え、全体として自然な色に戻していきます。これを「色の足し算」と言いますが、一点一点状態を見極め、最適な方法で仕上げていくところに、職人の経験と技術が生きています。

お仕事で大切にしていることを教えてください。

一番大切にしているのは、自分自身が納得できる仕事をすることです。京都での修行時代、師匠から「自分でどこを直したのか分かるような仕事をするな」と教わりました。自分ではきれいになったと思っていても、師匠から見るとまだ色が合っていない。一本の繊維まで見ながら、さらに精度を高めていく姿勢を学びました。

また、職人の仕事は品質だけではなく、早さも大切です。高いクオリティを保ちながら、きちんと仕事を進めていく。その両方を大切にしています。

そして今は、技術だけではなく、目の前のお客様と向き合うことも大切にしています。一点一点の仕事に向き合い、自分がやるべきことを一生懸命やる。その結果、「ここにお願いしてよかった」と感じていただけたら、それが何よりだと思っています。

この仕事のどんなところが好きですか?

やはり、お客様に喜んでいただけた瞬間が一番うれしいですね。別のお店では直すのが難しいと言われたものを、探して私のところへ持ってきてくださる方もいらっしゃいます。そうした大切な品物をきれいな状態にしてお返しできた時に、「やってよかった」と実感します。

直接「ありがとう」と言ってくださる方もいますし、手紙やメール、写真付きのメッセージなどで感謝の言葉を届けてくださる方もいます。自分が人の役に立っていることを実感できるのは、この仕事の大きな魅力です。

また、研究することも大きな楽しみです。疑問に思ったことを調べ、想像したものを実際に試して形にしていくことが面白いんです。弟子や生徒に技術を教えることも、自分自身の新しい学びになっています。

自分が仕事をするだけでなく、技術を受け継いでくれる人を育てていきたい

今後やりたいこと等、展望を教えてください。

これから大切にしたいのは、技術を次の世代へ伝えていくことです。現在も弟子を育てており、修行を終えて独立した人もいます。依頼があれば技術を学んでもらう場も設けており、沖縄、新潟、静岡など、さまざまな地域から学びに来てくださっています。

伝統工芸の一部として仕事をしているのであれば、技術を後世に残し、人に伝えていくことも自分の役目だと思っています。これから先は、自分が仕事をするだけでなく、技術を受け継いでくれる人を育てていきたいですね。

仕事そのものを大きく広げるより、今ある仕事を大切にしながら、次の世代を担う人たちが育っていける環境を作っていきたいと思っています。

成功哲学を教えてください。

まず大きな目標を持ち、それを達成するために小さな目標へ分け、計画・実行・微調整を繰り返すことが、夢に近づく方法だと考えています。私自身、「この業界で日本一になる」という目標を掲げ、京都で日本一と言われる師匠のもとで学び、成長してきました。しかし今は、人と比べるのではなく、自分自身が納得し、お客様にも喜んでいただける仕事をすることを目標としています。

そう考えるようになったのは、サーフィン中に命の危険を感じた経験がきっかけです。約3時間かけて岸へ戻った時、家族や弟子、仕事など、当たり前だった日常が、とてもありがたく感じられるようになりました。そこから、限られた時間の中で人と楽しい時間を共有し、誰かの役に立ち、「いい人生だった」と思って終えられるかが大切なのだと考えるようになりました。技術を通して人の役に立ち、その先にある人生そのものを大切にしたいと考えています。 

インタビュー後記

今回の取材で特に心に残ったのは、家田さんの「日本一を目指す」という言葉が、年月を重ねる中で少しずつ別の意味へ変わっていったことでした。

修行を始めた当初は「この人を超える」という目標を持ち、技術を磨いていましたが、いつしか「人と比べて勝つこと」よりも、「自分が納得できる仕事をすること」の方が大切だと気づいていきます。

そして、サーフィン中に命の危険を感じた経験も印象的でした。職人というと、仕事に打ち込む姿を想像しがちですが、家田さんからは、技術の奥にある「人を大切にする」という思いが伝わってきました。

お客様からの「ありがとう」を喜び、弟子に技術を伝え、日々の当たり前にも感謝する。そんな現在の家田さんの穏やかな人柄は、職人としての歩みだけでなく、人生そのものと向き合ってきた時間によって育まれたものなのだと感じました。家田さんの仕事は、物を修復するだけではなく、人から人へ大切なものを受け渡していく仕事なのかもしれません。

お問い合わせ

きもの工房 扇屋

〒104-0043 東京都中央区湊3-4-5 平田湊ビル3F

TEL:03-6280-4788

Mail:info@ougiya.tv

公式サイトきもの工房 扇屋

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