今日のゲストは弁護士の石崎冬貴さん。

石崎さんが専門とする領域は飲食店です。

まだまだ、弁護士の理解が浸透していない飲食業界にどう切り込んでいくのか。

興味深いお話を聞かせていただきました。


Photo:長谷部ナオキチ

飲食業専門の弁護士を目指した理由

高木優一:先生は弁護士になられてどのくらい経つのですか。


石崎冬貴:8年目になります。


高木優一:飲食業の法律相談は、今所属されている事務所でやられているのですか。


石崎冬貴:いえ、個人で行っています。


高木優一:その領域を掘り下げて行こうと思われたきっかけはどのようなことですか。



石崎冬貴:理由はいくつかあるのですが、1つには我々弁護士の仕事の根本的なあり方に関わることです。弁護士の仕事というのは、言ってみれば「紛争解決」です。AさんとBさんが対立し、そのどちらかに関わり、私が勝てば相手が負け、相手が勝てば私が負けるという構造になっています。人の紛争、つまり不幸の中に突っ込んで行きますから、結果的に当事者全員が幸せになるということは構造上ありえないわけです。人の「業」を相手にしているという気持ちはいつもあります。時として、黒を白で決着させざるを得ない場合も時にはあるわけで、仕事をしていて辛くなることがあります。もともと飲んだり食べたりするのが好きなのですが、飲食の場というのはすごく明るいんですね。お店をやっている方も、お客さんも、関連している業者さんも。全員が幸せになれる。そのような世界にすごくリスペクトしていたんです。そして、飲食業をバックアップすることで、人の幸せをバックアップできる手助けできることができるのではないかと考えたわけです。また、私の実家は浅草の米屋だったのですが、事業を行う中で、難しい問題にも直面してきたようです。それを大人になって知らされた時に、法律でバックアップできればよかったと考え、その想いが高じて弁護士になったというのも理由として挙げられるかもしれません。


高木優一:今まで飲食店専門で弁護士をやられている方は、他にはいなかったですよね。


石崎冬貴:私が飲食を専門にしてやり始めたのは5年前なのですが、当時、ネットで検索すると私ともう一人しかいませんでしたね。その方も専門でやられていたわけではないので、「専門」という意味で厳密に言えば、私しかいないと思います。飲食をセレクトした背景には、何か専門分野を作ろうとしたときに、どうせなら誰もやっていなかった分野にしようと考えたこともあるのですが、実際に入ってみると、飲食店はわざわざ弁護士に頼むほどの紛争がめったにないことがわかりました。どんなに大きなものでも100万円のレベルになることはほとんどなく、そういう点では、あまり美味しくない。報酬の面で見れば弁護士の食指を動かす業界ではありません。ミスマッチには理由があるというのが、やってみてわかりました。昼間の無料相談を謳っても、飲食店の方はだれも来れませんしね。でも、こちらから働きかけていけば、結構細々とした課題がいろいろ浮かびあがってきます。たとえば、労務問題。これは相当にずさんです。修行という名のもとに、最低賃金すら払っていないというケースも結構見られます。ですから、労務の基本的なアドバイスをしたり、最近では、悪質なクレーム対応など、ニーズは結構あるんです。



深刻なクレームや漏水の問題

高木優一:飲食店の場合、クレーマーは多そうですね。


石崎冬貴:クレームを、オーナーや管理職が対応しないで店長や従業員に投げてしまう場合も多いんです。そのことで従業員がやる気なくして辞めてしまう場合も結構あります。


高木優一:なるほど。


石崎冬貴:通常の弁護士の顧問料は月々5万円がベースになっているのですが、飲食の場合、5万円を払えるところは少ないですね。私の場合、1万円から始めるケースもありますよ。そこから始めて、何かあれば遠慮なく連絡くださいね、というスタンスで少しずつ入り込んでいきます。そのうち、出店や不動産の課題なども相談されるようになり、出店戦略から関わらせてもらうこともあります。



高木優一:コンサルに近いスタンスですね。今、どのくらいの飲食の顧客を取り扱われているのですか。


石崎冬貴:飲食店の場合は、会社というより店舗単位になりますね。だいたい100軒は超えていると思います。


高木優一:そこで実際にやりとりするのは、オーナーさんになるんですか。



石崎冬貴:何店舗も持っているクライアントは、オーナーさんより管理部門の責任者の方が多いですね。1店舗の場合はオーナー兼店長ですから、もちろん直接のやりとりということになります。

基本的には弁護士を雇うことで紛争を現場で解決できることを、良さとして出していこうと考えています。


高木優一:これまで様々案件を取り扱われて、非常に役に立てたと思われるケースを何か挙げていただけますか。


石崎冬貴:やはり目立つのはクレーマー系ですね。それこそ、商品に毛が入っていたとか、電話をかけていただけで咎められたとか。それでたかられるんです。また、ある喫茶店の女性店長が客からストーカー行為受け、その後クレーマーに発展していったという件などがありました。そのようなクレーム案件を解決に導くと、改めて弁護士の存在を見直され感謝されることが多いですね。弁護士であれば、丸ごと対応を任せられるというのも安心していただけるようです。また、今、やりかけているのは、ある飲食店ビルの漏水の問題です。長屋のようなビルの構造でパイプなどが複雑に絡み合っていて、どこかが詰まってしまうと漏水を起こしてしまうんです。漏水を起こすと衛生の問題がありますので、店を閉めなければなりません。キャッシュフローが良いのが生命線の業種なので、店を閉めると息の根が止まってしまうのです。正直、小さいお店であれば、店を2週間閉めると致命傷になります。ところが、漏水の被害に遭い損害を被ったと証明する書類は店舗のオーナーさんが揃えなければなりません。それがとても複雑で面倒なのです。はっきり言って、とてもできないですよ。結局は泣き寝入りしてしまう場合が多いんです。それで、私が出て行って保険会社との手続きを代行します。図面だけではなく、現場に詳しい施工管理技士の方に手伝ってもらうのですが、屋根に上って原因を探ったり配管を調べてもらったりして、図面や報告書を書いてもらいます。そして私が書類を書き保険会社に交渉に行くという段取りになります。



全国で飲食店顧問契約のネットワークを構築

高木優一:今後の課題としては、まずは飲食店のオーナーの方々に弁護士の利便性を周知させることになりますか。


石崎冬貴:その通りです。私の方でもいろいろな媒体やインターネットを使って情報発信を積極的にするようにしています。


高木優一:無断キャンセル回収代行サービスもされているとお聞きしました。



石崎冬貴:そうなんですよ。私が予約を無断でキャンセルをした人に交渉して料金を回収するというサービスですが、これって、完全成功報酬なんですね。回収金額の3割をいただくのですが、2万円ならば6000円が私の収入ということになります。回収できなければゼロです。本来、その金額は弁護士の報酬には見合わないものですが、そのくらいのわかりやすい案件を実際に見せていかないと、飲食店オーナーは弁護士に頼むという発想を持ちません。


高木優一:なるほど。先生の今後の課題をお聞かせいただけますでしょうか。



石崎冬貴:言うまでもなく、全国に飲食店の数は、それこそ何十万件もありまして、顧問契約を締結するには、基本的にはオーナーに会って対面しないと話が前に進みません。しかし、私一人で動ける範囲は限られてきますので、飲食系の弁護士を広く募り、全国にネットワークを作ろうとしています。ネットワークの中心になるのは、保守的であまり新しい事案に手を出さないタイプの先生ではなく、いろいろな活動に興味を持たれるような、やはり若手の先生方かなと思っています。最終的には、全国すべての飲食店が、弁護士と相談できるように頑張っていきたいですね。「すべての飲食店に顧問弁護士を」がスローガンです。


高木優一:それは楽しみですね。本日はありがとうございました