今回ゲストの小室友里さんは元AV女優。

その名をご存知の方は多いと思います。

今は、ラブヘルスカウンセラーとして、企業のセクハラ問題に関するセミナーを行い、若い人たちの性の問題の相談を受け、また自分からも文章で発信し、様々なコミュニケーション活動をされています。


Photo:長谷部ナオキチ

男女のコミュニケーションの行き違い

高木優一:小室さんは、今の男女のコミュニケーションのさまざまな課題に対してアドバイザーをされていますが、こと性に関しては、男性と女性では認識が大きく違うと思います。まず、男性向けにはどのような講座・セミナーなどをされているのですか。


小室友里:男性向けには大きく2つありまして、1つは、経営者向けにはセクハラ予防対策などの、まあ、割合硬い内容のセミナーですね。単に事例を示すのではありません。事例であれば弁護士や社労士から聞けますから。そうではなくて、女性心理を理解しつつ、未然にセクハラを防ぐという視点のセミナーを中心に行っています。経営者の中には、10年前と今とではコミュニケーションのあり方が大きく変わっているという時代の趨勢についていけていない方が、まだまだ多くいらっしゃいます。ですから、今は、女性心理を理解した上でのコミュニケーションのあり方が必要なんですということを認識していただくことがまず重要だと考えています。



高木優一:具体的にはどのようなことから始めればいいのですか。


小室友里:まずは女性との距離の取り方ですね。男性って1+1という問題があった場合、すぐに「2」という答えを求めるんですよ。女性は1+1という過程の方が大事で、何でそれをしたのか、そう考えたのかが大切なのです。「2」にたどりつく前に、まずは1+1の方の問題を重要視するのですが、そこが男性はなかなか理解できません。


高木優一:男女のコミュニケーションでも、さらに深いセクシャル・コミュニケーションのお話をぜひお聞きしたいと思います。



小室友里:これが2つ目のケースですね。男女が深い関係になっても、男性は女性に「2」を求めるんです。結局、男性ってHOWが欲しいんですよね。気持の問題だけでなく、男性がなかなかわからない女性の身体のしくみを学ぶ機会もないから、常に男性の論理で女性に接しようとしてしまうんです。

職場でも、今、さかんに女性進出を謳っているわりには、女性蔑視・男尊女卑の考え方はまだまだ根強いと思います。たとえば男性の上司がよく「これは、仕事だからやってください」という言い方をしますが、それは、仕事なんだから、ぶつぶつ言わずになんとかしろよっていう意味ですよね。要は、暗に同じステージに上がって来いよって言っているわけです。でも、男と女は別の生き物なのだから、そこに無理があるんですよ。そのステージは男性社会が作り上げたものでしょう。そこに上がってこいというのは無理があることに気づいていない。そのステージに引っ張り上げるためには、女性が納得できる土壌がないといけないと思うのです。それがないため、結局、そこに上がるために男性らしくしなければならなくなります。そうすると、本来持っていたかわいらしい女性らしさがどんどん失われていってしまいます。今、それをすごく感じますね。


男性はHOWを求め、女性はWHYを求める

高木優一:女性側にはどのようなアプローチをされていますか。


小室友里:やはりメインはセクシャリティの問題です。女性の性の解放が謳われていますが、ただただオープンになればいいわけではありません。オープンにすればするほど男性は引いていきますから。そこがわかっていないのです。もちろん、パートナーシップを築いている間柄ならば別ですけれどね。女性は、自分の性を見つめなおす機会がないんです。自分の性器もまともに見たことがない人も実は多いものです。つまり、現実的に普段、自分の身体のことも性のこともあまり知らないくせに、男性に求めることは大きいのです。男性はHOWを求めWHYをないがしろにする、女性は逆にWHYを求めてHOWをないがしろにする傾向にあると思います。そのような逆転現象が起きていることに双方が気づいていないんです。



高木優一:ある身の上相談で、既婚者の女性の相談は、自分のパートナーは自分勝手すぎるという訴えが多いと聞いたことがあります。


小室友里:男性も女性も本当に学ぶ場所がなさすぎるのだと思います。同姓同士が、がやがやと集まって不満やグチを言い合って終わってしまうんですね。クロストークがないんです。切実にそう思ったので、今、学ぶ場所をいろいろと作っているところなんです。



高木優一:小室さんのブログなどを読んで質問してくる人は男性が多いですか女性ですか。


小室友里:男性の方が多いと思います。やはりほとんどがHOWの質問ですよ。女性からは、男性へのグチが多いですね。でも、女性は聞いているうちにご自分で解決していきます。そうだね、そうだねと共感していくうちに、それですっきりするんでしょうね。



高木優一:女性の話は、オチというか結論がないことが多いんですよね。そこで「オチはなんだよ」って迫ってしまうともうダメですね。


小室友里:そんな風に迫られると引いてしまいます。



AV後はカウンセリングと執筆活動が中心

高木優一:小室さんが、AVの世界から今の仕事に移られたきっかけを教えてください。


小室友里:私の所属していた事務所はとても経営理念がしっかりしている会社で、社長からずっと、「この仕事は長く続けられないからな」と言われ続けていていました。それで、日ごろから将来のビジョンをいろいろ思い描いていたのですが、引退する半年前にやりたくない撮影内容をやらなければ作品がリリースできないことを告げられ、やりたくないことをやって続けるくらいなら引退をしようと決心しました。実際には、もう少し続けざるをえない状況だったのですが、その間、執筆や舞台などの活動も試していました。その中で執筆活動が性に合っていたというか、好きだということもあり、完全にAVを離れたあとは、若い層への性のカウンセリングとそれに付随するライター活動を中心に行い、今に至っているという感じです。



高木優一:小室さんは「一般社団法人痴漢抑止活動センター」で理事をされていますが、そこでは「痴漢抑止バッチ」の普及というユニークな活動を行っています。そのあたりのお話を少し聞かせてください。


小室友里:「痴漢抑止バッチ」は、女子高校生が考え出したアイデアを大学生や専門学生が実際にデザイン化してバッチにしているという記事をたまたま目にし、いいなあと興味を持ったんです。そしてそのバッチを企画した協会にも興味を持って、代表理事の方にお会いして活動の内容などを聞かせていただきました。そこで、とても共感し、もっと活動を拡散するお手伝いをしたいと申し出たんです。



高木優一:それはいつごろのことですか。


小室友里:去年の夏です。痴漢抑止という言葉はあまりなじみがないですよね。でも、きちんとお話をさせていただければ、だいたいの方には理解していただけますね。


高木優一:確かに、痴漢防止という言葉だとなじみがありますが、「抑止」はあまり聞きなれない言葉です。



小室友里:痴漢といえば、FANZA REPORT(ファンザレポート)というサイトをご存知ですか。そこで性に関する統計調査を行っているのですが、人気検索ワードの1位が「熟女」なんです。そして2位が「痴漢」。AVって結局は、ファンタジーの世界で作り物であることは皆、十分に承知していながら、リアルな「痴漢」の世界を求めているんですよね。


高木優一:なるほど。一筋縄ではいかない世界ですね。今日はどうもありがとうございました。