
1947年、大阪府生まれ。武蔵野音楽大学声楽科を卒業後、1976年に『東京オペラ座』の前身『グループ潮』を立ち上げ、第一回公演。現在まで代表・芸術監督として活動。欧州の古典作品を、現代の視点から再構成した公演や、日本から世界に向けたオペラの創作・公演が好評。ヨーロッパで35回公演を行った『忘れられた少年~天正遣欧少年使節~』は、ローマ法王へ謁見するきっかけとなった代表作の一つ。オリジナル曲を中心に全国でリサイタルも実施している。
オペラはすべてが詰まった総合芸術
この仕事を始められたきっかけを教えてください
高校生のころは「世界をもっと良くしたい!」と本気で考えていましたね。全国で初めてデモをした高校として有名な学校で、自治会の会長をやっていたほどです。しかし、政治の世界は甘いものではなく、夢の実現までに大きな距離を感じました。そこで、政治から離れて、世界に貢献するためにはどうしたらよいかと考え、先人たちに学ぶことにしたのです。古典文学、美術、音楽など、一通りを勉強しなおしました。中でも音楽には大きな影響を受け「作曲したい!」と心に決めて、音大に進路を急遽決定。大学入試の3ヶ月前だったこともあり、周りからは無謀とも言われましたが、何とか音大に入学することができました。ところが、入ってみると音大の中が、自分の想像していた環境ではなかったことに気がつきます。音楽家同士ではしのぎを削っていましたが、音楽の裾野を広げたり、音楽の力を広く世の中に知ってもらう活動をしている人が、ほとんどいなかったのです。声楽科にいたことで、歌が得意だったことと、作曲も行っていたため、それらを掛け合わせた表現力を発揮できる『オペラ』を選び、1976年に現在の『東京オペラ協会』の前身となる組織を立ち上げました。当時の音楽業界からは、完全に異端な活動としてみなされ、かなりそっぽを向かれる状況でしたね。しかし、当時から私は「オペラにはすごい可能性がある」と感じていました。ヨーロッパの人に馴染みのあるオペラを、日本式に料理することで、新しい表現が生まれます。また、それを海外へもっていくことで、国際交流の手段としても活用できると考えたのです。これまでに、中国やスペインなどからもオファーをいただき、コラボレーションして作品を作ることもありました。歌唱力と演技力、さらには舞台芸術と、総合芸術の詰まった『オペラ』を是非観に来てください! 8月3日(土)になかのZERO大ホールにて、オペラ「忘れられた少年」を公演します。第1部ではオペラや天正遣欧少年使節の物語を解説しながら進める、解説付きハイライト公演(全席自由2,500円)を、第2部ではフルバージョンの本公演(自由席3,500円、指定席5,000円)を見ていただくことができます。
仕事の特徴はどのような点にありますか?
『日本ならではのオペラ』を制作するようにしています。ヨーロッパの古典オペラを真似することはありません。それであれば、本場に観に行った方が良いからです。歌舞伎の要素を取り入れたり、日本語でそのまま歌うようにしたりと、日本オリジナルのオペラになるように演出を工夫しています。また、『社会性のあるオペラ』の制作を行っていることも大きな特徴です。これは学生時代から「世の中を良くしたい!」と考えていた自分の想いに通じるものになります。その他では、目や身体の不自由な方も一緒に活動できるオペラとして『ユニバーサルデザインオペラ』を手掛けています。
ヨーロッパ公演でローマ法王にも謁見
ローマ法王ヨハネパウロⅡ世に謁見
オペラが仕上がるまで
新しいオペラを作る場合、構想で5年、作り始めて上演まで2年ほどかかります。代表作は「忘れられた少年~天正遣欧少年使節~」で、安土桃山時代に欧州見分に派遣された名代の少年たちの物語です。少年4人は、8年間の欧州見分の後に帰国したものの、日の本では豊臣秀吉によりキリスト教が禁止されていました。4人それぞれが葛藤し、それぞれが決断し辿っていった道。悲劇もありますが、“みんな大変な中で、みんなしっかり生きていた”ことを伝え、いろいろな生き方を認め合おうというオペラです。この実話をテーマにしたオペラは、長い構想期間と作成期間がかかりましたが、おかげさまでポルトガル、スペイン、ドイツ、バチカンなどヨーロッパで35公演を実施し、当時のローマ法王ヨハネパウロⅡ世の前でも歌いました。オペラというと、大掛かりなセットの舞台をイメージされるかもしれませんが、プロジェクターで映像を作って舞台を作る新しい技術を取り入れたことで、海外へ持ち出しやすいよう工夫しています。
オペラを作るうえで心掛けていることを教えてください
オペラは“目的”ではなく、みんなが元気になるための“手段”と考えています。オペラを観に来てくれる人は、小学生から90歳まで幅広く、健康な方も身体が少し不自由な方もいらっしゃいます。オーケストラ50人、歌手50人の総勢100人でお届けするオペラを観てもらい、みなさんに元気になってもらいたいですね。もし、歌う方に興味をお持ちの方がいたら、是非『東京オペラ協会』へご連絡ください。長崎、福岡、愛媛、岡山、関西にも支部があり、オペラに出演するための技術を学び、各支部が協力し合って出演を果たしています。ちなみに、オペラ歌手を専業にしている人はほとんどいません。音大出身の中学や高校の先生や、会社員の人など、オペラ歌手としての自尊心を持っている人が集まって技術を磨いています。これまで50年近くオペラに関わってきましたが、まだまだ道半ばですね。やりたいことは頭の中にたくさんあります。その一つが、『オペラの映画化』です。現在、長崎出身の32歳の草場尚也に監督を依頼しています。若い才能の力も借りて、オペラが世の中に広がる機会が増えると嬉しいですね。2026年に公開予定です。お楽しみに。
インタビュー後記
石多さんのオペラへの関わりは、台本の作成だけではなく、舞台監督、作曲、出演など多岐にわたる。そのうえ全国だけでなく世界中を飛び回っており、一か所にとどまる時間は非常に短い。その活動量の多さで、これからも日本のオペラを世界に発信し、オペラの力でみんなを元気にしていく。
お問い合わせ
特定非営利活動法人 東京オペラ協会
東京都中野区江原町1‐47-13飛沢ビル3-D
TEL:03-5906-5253
HP:http://www.tokyo-opera.gr.jp/index.html
*お電話相談の際、『中野区民ニュース』の記事を読みました。とお伝え下さい。