今回のゲストは川崎市高津区でケアマネージャーをされている伊藤益美さん。

ケアマネの仕事に就いてからまだ1年ほどですが、在宅専門のケアマネとして医療と家庭の間に立ち、計画・調整・手配、ありとあらゆるケアを行っています。

その苦労の一端をお聞きしました。


Photo:長谷部ナオキチ

ストレスにさらされる介護の現場

高木優一:伊藤さんは今はケアマネージャーをされていますが、その前は施設で介護士をされていたのですよね。


伊藤益美:5年間、介護の現場に勤務していました。


高木優一:利用者さんの自立を促すことが大切だとよく言われますが、その加減は難しいですよね。一人で歩かせ、万一倒れて骨折をして病院へ運ばれてしまった場合、施設側としてはご家族に謝らなければならないですよね。自立を促しているんから仕方がないとは言えないでしょうから。


伊藤益美:初回訪問の時や、何度か顔を合わせて話を聞いていくうちに年金の受給額だったりどのくらいの予算まで介護サービスに当てられるかを考えるのもケアマネジャーとしての役割のひとつだと思っています。利用者にとって何が一番の困り事なのか?どんなサービスを付けたらその方のこれからの生活が少しでも改善されるか?などをそれぞれの専門業者と話し合いをし、チームとして少ない予算であっても皆が同じ方向を見据えていくと、良い結果になる事があります。最近は在宅医療も充実してきて、医師や看護師との連携も重要視されてきているので予算が無い場合も正直に相談していただければ最善の方法が見つけられる可能性があるので安心して頂きたいです。



高木優一:そうなると、介護士さんたちは何事も起こらないように、注意深く利用者さんのフォローをしなくてはならないですね。


伊藤益美:5年間施設にいたのですが、本当にいつもびくびくしていました。夜勤は一人なのですが、夜中になると利用者さんがみんな起き出してくるんです。眠りが浅いので目が覚めてしまうんですね。何とかなだめて一人ひとり部屋に帰すのですが、そんな時に転ばれると本当に大変です。看護師さんがいないので、救急車を要請したりする判断を自分でしなくてはならないんです。夜勤の時はいつも「早く朝になってくれ」と願っていました。


高木優一:それはすごくストレスになりますね。


伊藤益美:はい。ストレスが溜まる仕事だと思います。


高木優一:その割には報酬の面で報われないという負の一面がありますね。



伊藤益美:残念ながらその通りですね。報酬の面だけでなく、利用者さんは認知症の方が多いので、「何でこんなことするの!」って怒られることも多い。そんなことも大きなストレスになります。


高木優一:離職率が高いというのも頷けますね。


伊藤益美:だいたい2~3年で辞めていく方が多いです。皆、せっかく国家資格を持っているのに戻ってこない方も多いですよ。


高木優一:それではケアマネージャーとしての立場でお話を伺いますが、医療と介護の連携の大切さがさかんに言われています。しかし、医療側と介護側の温度差というのは、やはりぬぐえない部分も多いのではないでしょうか。


伊藤益美:医療は病院での治療が終わればそこで完結します、ところが私たちはそこから先、つまり自宅での生活のことまで考えなければなりません。そもそもの視点が違うのです。


高木優一:ケアマネージャーの役割は、医療と介護の接点に立ち患者さんのより良いケアを実践させていくことですよね。その調整役と言いましょうか。非常に難しい立場ですね。



介護の世界に入ったきっかけ

高木優一:ケアマネージャーとしては、受け入れる予定の患者さんが現在どのような状況にあるのかは知りたいですよね。そういう時は医師と電話で相談することになるのですか。


伊藤益美:電話だとなかなか先生は出てくださいません。なので、私は極力出向くようにしています。うかがって直接お願いすると、先生や看護師さんも合間を見て会っていただけますね。


高木優一:医師に患者さんの状況をお聞きするのは、まだ患者さんが病院にいらっしゃる時ですよね。


伊藤益美:そうです。何度も病院に出向いて患者さんの状況を確認し、先生にヒアリングします。「先生、どうですか。そろそろ退院できそうですか」「あと、一週間ぐらいはこちらでリハをして、そのあとの方がいいかもしれないね」というような会話をします。



高木優一:何度も訪問するのですか。それは大変ですね。


伊藤益美:病院が近ければいいんですけれどね。ほとんど私、自転車で回るんですよ。


高木優一:それはすごい。


伊藤益美:でも、そのように積極的に先生に会いに行くかどうか、それは個々のケアマネさんの考え方しだいです。私はまだケアマネージャーを始めて1年ちょっとなので、自分の顔を売りたいこともあり、できる限り訪問するようにしています。次第にこの人なら会って話をしてもいいな、と思ってくださる先生や看護師さんも増えてきました。でも、そのしわ寄せで事務の時間などがなかなか取れません。


高木優一:そもそも、伊藤さんが介護の世界の仕事をしようと思ったきっかけはどのようなことだったのですか。



伊藤益美:以前は幼稚園の教諭をやっていたのです。ちょうどその時期、私の祖母が認知症に罹りまして、徘徊したり警察にお世話になったりと母がとても苦労をしている姿を目の当たりにしていました。私も施設によく足を運ぶようになったのですが、そこで職員さんたちの働いている姿を見て、私もこういう仕事に就きたいなと思ったのです。30歳になったときに、もう一度自分の仕事を見直してみようと専門学校に入り直し介護福祉士の資格を取り、介護施設に勤め始めました。介護の現場で5年働いていましたのですが、出産を機に一回現場から離れ、ケアマネの資格を取ろうと考えたのです。


在宅専門のケアマネージャーとして

高木優一:ケアマネージャーの資格を得るにはどのような規定があるのですか。


伊藤益美:介護福祉士の資格を取得して、実務現場を5年間経験しないとケアマネの資格は取れないんです。私は在宅のケアマネをやりたかったので、まずは在宅の現場を知ろうと川崎市の社会福祉協議会にヘルパーとして雇ってくれないかと頼み込みました。


高木優一:普通、そんな奇特な人っていませんよね(笑)。


伊藤益美:施設の介護と在宅の介護はまったく違います。そこで在宅の現場をしっかり見なければと思い5年間、ヘルパーを行いました。その間、ケアマネの資格を取得し現在の事業所に勤めるようになったという経緯です。



高木優一:具体的にケアマネのお仕事ってどのようなことをされるんですか。


伊藤益美:私の場合、在宅が専門ですので、病院と家(家族)の間に入り、それこそありとあらゆる計画を立て、それを実施するのが仕事です。


高木優一:介護計画を立て、それに見合ったディケアサービスを使ったり、訪問看護・介護ステーションを探して依頼をしたり、とかですね。



伊藤益美:はい、そうです。


高木優一:たとえば、外部のさまざまな介護サービス機関も頼みやすいところと、そうでもないところがありますよね。


伊藤益美:そうなのですが、同じサービス施設ばかりに依頼してはいけないという決まりがあるんです。



高木優一:そうなんですか。


伊藤益美:本当に新規のご利用さんは、どのようにサービスを利用すればよいのか、これから先の生活のめどがまったく立っていませんので、家に帰ったらどのように過ごしたいのかの聞き取りを行い、看護師さんから車椅子の有無などを確認しながら、1から指導・アドバイスをしていかなければなりません。


高木優一:家族は途方にくれますよね。今まで病院でケアしてくれたのが突然、家で見なければならなくなったのですから。



伊藤益美:はい。皆さん、本当にどうしたらわからない状態になります。突然、介護が始まるわけですから。認定調査を受けていないと介護サービスは使えないのですが、まずはそこからお伝えするようにしています。


高木優一:本当にケアマネさんが命綱ですね。本日はどうもありがとうございました。