今回のゲストは、登戸で探偵事務所を構えていらっしゃる山下智巳さんです。

探偵と聞くと、秘密主義で寡黙なイメージを持たれる方も多いと思いますが、山下さんは実に気さくでオープンな方です。

いろいろなお話を聞いて、普段我々が感じている探偵のイメージが実に実態に即していないのかが理解できました。


Photo:長谷部ナオキチ

士業からのオファーに応えられる探偵事務所はごくわずか

高木優一:私は日ごろ、弁護士との付き合いが多いのですが、その人脈の中で山下さんと知り合いました。弁護士から調査を依頼されるというケースは日常的なのですか。

山下智巳:そうですね。ご相談者がまず弁護士さんを尋ね、弁護士さんから私どもに調査の依頼があるのですが、当方の信頼をいただいてから依頼という形になります。たとえば、浮気調査の場合は、不貞行為があるかないかで、離婚の進め方が変わってきます。

高木優一:なるほど。浮気調査の他に多い依頼案件としては何がありますか。

山下智巳:行方調査、いわゆる人探しですね。

高木優一:相続絡みの人探しの話はよく耳にします。20年前に生き別れになった兄弟を探したいのだけれど、今どこにいるのかわからない。探す伝手がないといったケースですね。

山下智巳:相続人を確定しなければいけない。当該人物は書類上ではこの住所にいることになっているのだけれど、実際にはそこには住んでいない。どこかに引っ越したらしいのだが、行方がわからないので探して欲しいといったような依頼です。

高木優一:実際に探せるものなのですか。

山下智巳:ひと昔前ならば、近くの人たちが手がかりになるような情報を教えてくれたりもしたのですが、今の時代、なかなか情報を開示してくれません。いかに聞きだすかが腕の見せどころですね。実際に探せるかどうかは、やってみないとわからないというのが正直なところです。案外と簡単に見つけだせる場合もありますし、どうやっても探し出せないという場合もあります。確率的にはフィフティフィフティといったところでしょうか。

高木優一:山下さんには、ぜひとも私のラジオ番組への出演をお願いしたかったのですが、その意図としては、あまり世間ではよくわかっていない、「裏の世界の仕事」といった良いイメージを持たれない探偵という職業について、実際は弁護士や司法書士、行政書士などの士業の方たちとも繋がりのある法律的な側面に関わる仕事なのだということを紹介したかったという想いがあったからです。

山下智巳:ありがとうございます。でも、士業の方からのオファーがある探偵事務所は少ないんですよ。ほとんどが、一般の人たちから直接の依頼で仕事をしています。弁護士さんがこの事務所だったら安心して仕事を任せられるという関係性を築けていて、実力を備えている探偵事務所はほんのわずかというのが現状です。東京・神奈川で、士業の方と組んで相談会などを行っている探偵事務所は私のところだけだと思います。

依頼人は千差万別

高木優一:一般の人が探偵事務所に相談に行くというのは、かなり切羽詰った状況なんでしょうね。

山下智巳:そう、お金を出してまで調べてもらいたいと思うのは本当に究極なんですよ。居ても立ってもいられない状態で、元の彼女の居場所を突き止めたいと頼んでくるわけです。

高木優一:「元カノの居場所を教えろ」ですか。私にはまったく興味ない話ですね(笑)。パンドラの箱なんて開けない方がいい。

山下智巳:そうですよね。そういうケースの場合は誓約書を書いてもらい、住所は決して教えないようにしています。写真だけ見せて、今はこんな風ですよ、と教えるぐらいですね。

高木優一:山下さんが探偵になられてから、世の中の仕組みというか情報伝達の状況が大きく変わりました。携帯電話からSNSに移行し、注意深く証拠を消したはずなのに、一緒にいた写真がフェイスブックにアップされていたなどということがあるんでしょうね。

山下智巳:ありますね。一昔前では携帯電話、いわゆるガラケーなどではそれほどセキュリティがしっかりしていなかったので、着信履歴から浮気がバレたということがありましたが、今はラインとかフェイスブックで、いるはずのない処で女性とご飯を食べていたそのレストランのメニューがアップされていたというようなケースは増えています。

高木優一:浮気調査を依頼してくるのはいわゆる富裕層の人が多いというイメージがあるのですが、そうでもないのですか。

山下智巳:あらゆる層の人たちから依頼があります。学生もいますよ。社会人の彼氏がバレンタインデーの日に急に仕事が入ったから会えないと言ってきたのだけど怪しいので調べて欲しいとか。

高木優一:へえ。自分でお金を出して調査を依頼するんですか。

山下智巳:おばあちゃんがお金を出してくれるというケースもありました(笑)。

高木優一:最近、熟年離婚が多いという話をよく聞きます。

山下智巳:50代、60代の人たちはまだバリバリに元気ですし、お金も持っています。「第二の人生を謳歌したい」と、突然奥さんが離婚届を出してくる。びっくりして調査をしたらサークルで知り合った男性と仲良くなっているというような例は多いですよ。

高木優一:男女比で言うと、やはり女性の方が多いですか。

山下智巳:割合でいえば7:3。7が女性です。今の時代、別れても何とかやっていけるという社会的背景も大きいのでしょうね。

この業界を変えてやる!

高木優一:たとえば、浮気調査を依頼された場合、山下さんは調査までで、その後は弁護士にバトンタッチするという段取りになりますか。

山下智巳:調査をして浮気の事実が発覚したら、依頼者はその時点でほぼ弁護士の紹介を依頼してきます。そこで離婚に強い弁護士に引き合わせます。私も一緒に弁護士事務所へ行くことが多いですね。自分が調査している案件ですので、弁護士に細かい報告ができますから。

高木優一:山下さんが、あえてこの職業に就いたきっかけを少しお話いただけますか。

山下智巳:れないバンドマンだったんですよ。やることがなくて日中ずっと家にいたんです。そこでテレビで松田優作の「探偵物語」の再放送を観て、探偵ってカッコいいなって(笑)。

そこで、探偵養成のスクールへ行って探偵とは何ぞやを学び、尾行実習などの基本は習いました。でも、そのスクールでは独立開業支援や探偵事務所への就職斡旋などを謳っていましたが、実際そこから独立や就職ができた人は一人もいなかったですね。


高木優一:探偵の世界って、外からはなかなか見えない閉塞的なイメージがありますよね。

山下智巳:そうですね。この世界に入って初めて、一度訪ねてきた客は逃さないっていうぼったくりが一部で横行しているということにも気づきました。やはり、そんなことでは社会的な市民権はなかなか得られない。今、私は意識的に士業の方たちなどと一緒に仕事をするようにしていますが、それにはこの商売の社会的地位を上げたいという想いもあります。それでも、平成19年の6月に、探偵業を営む者は国家公安委員会に届出をしなければならないという探偵業法が施行されてからは、いわゆる悪徳業者の類はずいぶん減りました。

高木優一:今、山下さんが仕事をやる上で意識していることは何ですか。

山下智巳:以前は、孤軍奮闘状態で、「トップになってやる。この業界の体質を変えてやる!」と拳を振り上げていたのですが、今は25から30歳ぐらいの若い世代がそういった気概を持っていますね。「山下を追い抜け!」って意気込んでいますので、「かかってこい!」って感じですね。

高木優一:それはとても心強い。本日はありがとうございました。