地域には、目立とうとしているわけじゃないのに、なぜか周りを明るくしている人がいる。
大きな声で「いいことしてる」と言わないのに、気づけば誰かの背中を押している。そんな人。
「善人承継」は、普段スポットライトが当たりにくい地域の善人にインタビューし、その人の人生の軌跡、成功体験、地域への思いを“生きた証”として残し、次の人へとバトンをつないでいく企画だ。
今回お話を伺ったのは、映像制作会社を営みながら、川口でミニバスのコーチとしても子どもたちに関わる山内陽一さん。
話してみると、とにかく言葉が飾らない。なのに、ぽろっと出てくる一言一言に、その人の生き方がにじみ出る。

出身:東京都
仕事:映像制作会社経営
主な業務:CM制作、企業VP、記録撮影など
地域での活動:ミニバスコーチ、バスケット関連支援、地域イベント協力など
太陽のように明るく――名前に込められた願い
山内さんは東京生まれ。父は歯科医、母も医療関係の仕事をしており、家族は医療に関わる仕事が多いという。妹は薬剤師と建築士。「家族の中で僕だけちゃらんぽらんなんです」と笑うが、その言葉とは裏腹に、現在は映像制作会社を経営している。
名前の「陽一」には、「太陽のように明るく、一本筋の通った人間に育ってほしい」という願いが込められている。沖縄出身で陽気な父親がつけた名前だという。
幼い頃の生活は、いわゆる裕福なものだった。朝食の食卓にキャビアが並ぶこともあり、子どもながらに「自分はお金持ちの家の子どもだ」と思っていたという。しかし後になって振り返ると、それは父が患者からもらったものだったり、子どもの思い込みもあったのではないかと山内さんは語る。
両親の離婚、そしてバスケットボールとの出会い
そんな生活は、小学校6年生のときに大きく変わる。
両親が離婚したのだ。
父に喫茶店へ連れていかれ、「どちらを選ぶ?」と聞かれた日のことを今でも覚えているという。ケーキとメロンソーダが並ぶテーブルで、子どもにとってはあまりにも重い選択だった。
離婚の背景には大きな借金があり、その後の生活は一変する。急に厳しい生活を余儀なくされ、家族はゼロではなく「マイナスからの再出発」だったという。母は看護師になるため学校に通いながら働き、家族全員で生活を支えていた。
山内さんは母を選んだ。理由は一つ、妹たちと離れたくなかったからだ。
中学卒業後、家庭の事情で祖母の家に住み、高校生活を送ることになった。思春期の多感な時期に家族と離れて暮らす生活は決して楽ではなく、自暴自棄のような気持ちになることもあったという。
そんな時期に心の支えとなったのがバスケットボールだった。
高校ではチームの中心選手となり、県北で得点王を取るほどの活躍を見せる。中学時代は目立つ選手ではなかったが、チームメイトから頼られる存在になり、バスケットボールの楽しさを初めて実感したという。
当時チームには監督がいなかった。そのため作戦会議や練習はすべて選手たちが主体となって考えた。練習後も自主的にトレーニングを続け、夜遅くまで練習に励んだ。
大きな大会で勝つことはできなかったが、山内さんは「人生で一番楽しかったバスケだった」と振り返る。自分たちで考え、自分たちで動く経験は、今のコーチとしての姿勢にもつながっている。

子どもが主役の町へ ― 川口への思い
大学卒業後、山内さんは役者を目指した。アルバイトをしながらオーディションを受ける生活の中で、次第に映像制作の仕事にも関わるようになる。テレビ局の制作現場で経験を積み、制作会社を転々としながら技術と経験を磨いた。
そして30歳のときに独立。現在は映像制作会社を経営し、CM制作や企業VP、記録映像など幅広い映像制作を手がけている。
地域ではミニバスケットボールのコーチとしても活動しているが、山内さんの指導は「勝つこと」だけを目的にしていない。
子どもたちには、バスケットが上手くなることよりも「いいやつになってほしい」と話す。人として成長することを何より大切にしているからだ。
「優しさって、見返りを求めないことだと思うんです」
そう語る山内さんは、川口という町にも独自の思いを持っている。スポーツが盛んな地域だからこそ、競技をする場所だけでなく「スポーツを見る文化」が広がってほしいという。
子どもたちが夢中でプレーする姿を、大人が見守り応援する。
大人が主役ではなく、子どもが主役の町。
そんな景色が川口に広がってほしいと願っている。

未来へつなぐバトン
山内さんには、これからやりたいことも多い。
その一つが、中学生のためのバスケットボール大会をつくることだ。部活動では試合に出る機会がないまま引退する子どももいる。そんな子どもたちが一度でもコートに立ち、試合を経験できる場を作りたいという思いがある。
さらに仕事では「劇団をつくる」という夢もある。役者としての経験を生かし、演劇をビジネスとして成立させる新しい形を目指しているという。
話を聞いていると、山内さんは決して自分が目立とうとするタイプではない。むしろ誰かの挑戦を応援し、子どもたちが輝く場をつくることに喜びを感じる人だ。
映像制作でも、スポーツでも、地域活動でも、山内さんが続けていることには一つの共通点がある。
それは
「誰かに光が当たる瞬間をつくること」。
善人は、案外静かな場所にいる。
大きな声で名乗るわけでもなく、ただ目の前の人に向き合っている。
川口には、そんな人が確かにいる。
そしてその思いは、また次の誰かへと受け継がれていく。
――善人承継。
そのバトンは、これからも地域の中でつながっていく。
インタビュー後記
山内陽一さんは、自分を大きく見せる人ではありません。
むしろ、ときどき自分のことを“ちゃらんぽらん”と笑ってしまうような人です。
けれど、その言葉の奥には、苦しかった時代をくぐってきた人の強さがあり、誰かの楽しさを本気で考えられる人のやさしさがあり、
そして何より、「主役は自分じゃなくていい」という、静かな覚悟がありました。
映像の仕事でも、バスケでも、地域でも、山内さんがやりたいのは、きっと“誰かに光が当たる瞬間をつくること”なのだと思います。
見返りを求めず、子どもたちに「いいやつになってほしい」と願う人。
そんな人が川口にいることは、この町にとって、かなり心強いことです。
善人は、案外、派手に名乗りません。
でも、ちゃんといました。
しかも、けっこう熱くて、ちょっとお茶目で、ものすごくまっすぐな善人が。
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*お電話相談の際、『区民ニュース』の記事を読みました。とお伝え下さい。
山元 直樹
2026/03/10(火)