まちの仕事人インタビュー
お米を楽しむ未来を作る
有限会社篠原ライス 代表取締役 篠原 秀久 (しのはら ひでひさ) さん インタビュー

1977年、北区生まれ。調理師学校を卒業後、レストランで修業。その後、2003年に赤羽におにぎり屋さんをオープン。事業が軌道に乗ってきた2005年、父親の急死に伴い、家業であった米穀全般の小売、卸、販売業などを行う「有限会社篠原ライス」を継ぎ、現在に至る。

選りすぐりの農家から米を直送

この仕事を始められたきっかけを教えてください。

業の米穀全般の小売、卸、販売業などの事業は、1947年に私の祖父が始めたものです。その後、「これからは米だけではダメだ!」と、おにぎりやおでん、甘太郎なども売るようになりました。当時から、現在のコンビニのような業態だったそうです。私が産まれて、男子の初孫に大喜びしてくれた祖父は、その10日後に他界しました。事業は父が引き継ぎ、弁当の販売を始めたり、その他の食品を販売するようになりました。ちょうど米の消費が落ちていたタイミングで、父もいろいろと考えていたと思います。パンメーカーのコンビニボランタリー・チェーンに加わり、米屋にも関わらずパンの修業へ行きパンの製造販売も20年弱やっていました。私は、調理師学校を卒業後、レストランで修業を始めました。7年間ほど修行をし、家業の米屋を活かし、お米をもっと楽しんでもらいたい、お米の魅力を知ってほしい!と2003年に、赤羽駅の近くで「おにぎり屋」をオープン。父から「何でも業者に頼らず、自分でやれ」と言われたこともあり、お店の図面を自分でひいて、内装業者さんと相談して店を作り、始めは少し苦労しましたが、新潟の親戚から農家直送「コシヒカリ」を「有田焼炊飯専用土鍋」で炊いて握ったおにぎりは、次第に「おいしい!」と評判になりました。お店が軌道に乗ってきたころ、父が急死。祖父の代から続く家業を放っておくことはできず、おにぎり屋を閉める決断をして、家業を引き継ぎました。


仕事の特徴はどのような点にありますか?

全国各地の選りすぐりの農家から「直接仕入れ」をしています。私が家業を継いだタイミングは、ちょうど小型店頭精米機が出始めていて、お店で量り売りし、精米までを一気通貫でできる環境が整い始めたころでした。父の知り合いや、同業の仲間からご縁をいただき、さまざまなノウハウを学び、失敗と変更を繰り返しながら、現在の農家直送米を提供する業態に至っています。お米は最大30種類ほどをご用意しています。毎年、農家さんと話しながら、お米を選び仕入れているため、入れ替わりもありますね。初めての仕入れの前には農家へ必ず足を運びます。農法やお米の良し悪しだけでなくじっくりと語り合い人柄も吟味して仕入れを行っています。安心・安全・美味しいだけでなく、人にも環境にも配慮した栽培はウチで取り扱ううえでの前提条件ですね。また、農家では作業を行っている現場を見せてもらうようにしています。正直に見せてくれる農家は積極的に楽しそうに説明してくれますしそのまま一緒に農作業も行うこともあります。そんな方でないと取引はしません。その他、店内ではおにぎりやお弁当も販売しています。商標にもなっている「塩玄米結おにぎり」は人気商品の一つです。一般的に玄米は炊いてもバラバラするため、おにぎりには適していないとされています。ウチでは、玄米のもち米を少し混ぜて炊いているため、ザクザクとした食感と共に簡単には崩れないおにぎりになっていますね。これはタクシーやトラックのドライバーさんの意見をもとに開発しました。当店のおにぎりの特徴はお米の弾力を活かすしっかり握るタイプで、グルメ雑誌の取材が入るなど好評です


期待を越えて期待に応える

どんなお客さまが多いですか?

安心安全美味しいお米を求めているお客さま子育て世代のお客さまがメインです。お米は「産地」「環境」「農法」「人」で、味わいが変わるものです。私もお客さまの期待を越えて期待に応えるため、全国の農家と協力しています。東京では西日本の農家のお米を取り扱っているのは珍しいとも言われますね。今後も個性の溢れる農家の方との出会いを広げていきたいと考えています。また春と秋にはお客様と行く農家さんの田んぼや畑での「農業体験会」も好評いただいております。手植えや手刈りはもちろん、田植え機やコンバインの運転体験も出来ます。前回はリンゴの収穫体験も行いました。

仕事をするうえで心掛けていることを教えてください。

『お米を楽しむ社会を作っていきたい』と考えています。お米は日本の主食にも関わらず、一般の人が知らないことはまだまだ多いです。例えばブレンド米。ブレンド米と聞くと、1993年の深刻なお米不足の時に、国産に海外産をブレンドして、食べなれない味になったものを想像されるかもしれません。しかし、ここで私がこの先将来的にご提案したいのは国産の美味しいお米同士のブレンド米。例えば、食べる人の年齢や好み、生活スタイルによっておススメのお米は変わります。家族構成によって、複数のお米を混ぜることで、家庭ごとの最適な黄金比があると考えています。ブレンド米の可能性は無限にあるため、今からワクワクしています。一方、米の消費は減るばかりで米農家は耕作をあきらめる人も多く、ピンチにあると感じています。原因としては、近年の極端な天候気候、農業資材や機械の高騰、補助金に頼っていた小作農家では米は作ってもほとんど利益を出せなくなっている現状。米価は昭和を60年ころからほとんど変わらずです。消費だけが半分程度まで減っていますので米農家も将来を悲観して後継者を育ててきませんでした。かろうじて今までは米の自給率は国産で賄ってきましたがこの先どうなるのか。美味しいお米を正しく評価し、きちんと利益を確保してもらうべく、今後も直送米にこだわっていきます。これからも全国の農家を訪ねて、農家とお客さまと自分の三方良しの取り組みを、続けていきたいですね。


インタビュー後記

「米」という字が「八十八」という文字から作られた説は、お米ができるまでに88回も(たくさん)の手間がかかることが由来。機械などにより少しは楽になったとは言え、まだまだ手間がかかる米作り。その大変さと大地を耕す楽しさ、食料を生産する責任感、収穫の達成感、「お客様が食べてくれるからこそ農家たちは農業が出来るのです」と話す篠原さんだからこそ、農家の人と、お米の文化を大切にしたいという想いは、人の何倍も強い。

お問い合わせ

名前:有限会社篠原ライス

店舗:東京都北区東十条6-7-5

電話:03-3902-4588

HP:https://shinohararice.com

*ご相談の際は、『北区民ニュース』の記事を読みました。とお伝えください。