Photo:長谷部ナオキチ


多くの業種、ビジネスに、

多大な停滞を巻き起こしたコロナ禍2020。

しかし、予想だにしなかった意識の変化や行動の変化が生まれたことも事実です。

マイナス要因をプラスに転じさせ、

未来をより良く変えようとする意志もまた、

コロナを経て高まっているエネルギーの一つ。

そんな世界に影響を与えるような

エネルギッシュな経営者を

区民ニュース創業者高木優一が掘り下げます。


◆GUEST PROFILE◆

日詰宣仁

Nobuhito Hizume


株式会社ゼロベータ代表取締役

一般社団法人日本水商売協会理事


大阪大学卒業後、ユニクロ入社、店舗責任者として人材採用や教育を担当する。

その後ITベンチャーを経て起業。

ナイトワークの女性たちの昼職転職をサポートする(株)ゼロベータ代表に就任し、同転職応援サイト「ヒルコレ」を運営。

日本水商売協会の発足に参加し、水商売で働く女性への支援も行っている。


夜から昼への転職希望、状況が一転した潮目

高木優一:  日詰さんは、ナイトワークの女性の昼転職を支援する会社ゼロベータの代表と同時に、日本水商売協会の理事を務められています。日本水商売協会と言えば、代表理事の甲賀さんが銀座のママやホストの方と一緒に自民党本部に赴き、岸田政調会長に要望書を手渡すニュースで一躍脚光を浴びました。私は日詰さんがいつ登場されるのかと思ってテレビにかじりついていましたよ(笑)


日詰宣仁:  ご覧になられましたか。ありがとうございます(笑)。あのニュースが報じられて、賛否両論様々なご意見をいただきました。どちらかというと批判的というか、罵詈雑言が多かったですけどね(苦笑)。Twitterでもあちこちで燃え上がっていました。逆にそれで当協会を知ってくれた方が増え、結果的には非常に良かったと思っています。陳情には私も参加したかったのですが、残念ながら本業が忙しくなりすぎて同行できませんでした。


高木優一: ナイトワーカーの昼職転職支援の方ですね。接待を伴う飲食業が名指しで休業を要請されていたので日詰さんの事業にも大きな影響が出ていると思っていました。私が時々顔を出す銀座のママも深刻な事態だと嘆いていました。この騒動が落ち着く頃には、並木通りのクラブが10分の1位になってしまうんじゃないかと…。やはり、劇的な変化がありましたでしょうか?


日詰宣仁: はい。大きな潮目は4月の頭。小池都知事が休業要請を発表してからですね。それまでにもコロナのニュースが報じられてはいましたが、まだ楽観的に捉えている方たちが多かったと思います。ところが都知事の会見を境にその空気が一変しました。翌日、転職希望の女性の問い合わせがいきなり3倍以上に。面接対応は、専任の女性スタッフがいるのですが、彼女1人では受け切れないために、4月・ 5月は、私も問い合わせや面接業務に追われていました。


高木優一: いきなり3倍はすごいですね。もっとも、お客さんが来なくなれば、彼女たちは仕事がないわけで、賃金の保証もないですから、収入がなくなってしまいますよね。必然的に、しかも早急に、別の仕事を探さなければならない。でも、だからといって転職先はどうなんですか? 企業も相当に厳しい状況だと思うのですが。


日詰宣仁:  おっしゃる通り、企業の採用も一気に冷え込みました。そこがビジネスとしては非常に苦しいところです。これまでは企業に人が足りなくて、いわゆる売り手市場でした。ナイトワークの女性たちを使ってみたいと言う会社は、案外少なくなかったのです。今は求職する女性が増え続けているのに、仕事がほとんどないと言う状態。コロナ前と真逆です。


高木優一: 需給があっという間に逆転してしまったわけですね。この状況では、仕方がないことだと思います。ただ、買い手市場になると仕事が少ないだけではなく、採用のハードルも高くなりますよね。企業側が人を選べるようになるから。


日詰宣仁:  そうなんです。今までは細かい条件等はおっしゃらず、人柄で採用を決めていたようなお客様から、パソコンスキルを求められるようになりました。Excelとワードは最低でも必要だと。これまで1度も言われた事はなかったのですが…。


高木優一: 不動産業の私としては、この状況で女性たちが住居をどうされているのかも気になるところです。都心勤めで夜の仕事なら、便利な場所に住んでいらっしゃる方も多いはず。麻布十番、恵比寿、代官山、三軒茶屋、中目黒...。お店からタクシーで1メーター、2メーターで帰れる距離。仕事がなくなったら、便利なところほど家賃が大きな負担になります。


日詰宣仁: 都心を一旦離れたと言ってる方はいます。勝どきのタワマンから神奈川方面へ引っ越したとか。ナイトワークの女性の不動産対応をしている知人も問い合わせが急増したと言っていました。今後も「避難する人」は増えていくでしょうね。


高木優一: やはりそうですよね。そうなってくると、都心部のワンルームマンションなど、賃貸オーナーの経営も苦しいですよ。関連業種が全部影響受けています。それもこれも、仕事が回復しないことにはどうしようもない。夜の仕事も、経済の流れの一部なのですね。


コロナ禍で模索する新しいビジネスモデル

日詰宣仁:  女性たちの仕事については、我々もここが頑張りどころだと思っています。状況が状況ですが、採用が全くゼロと言うわけではありません。条件が違ってもすり合わせをしてもらったり、パソコンスキルを身に付けてもらったり、気持ちを切り替えるように励まして送り出しています。


高木優一: すばらしい動きですね。コロナ禍では必要不可欠な仕事をされていると思います。ただそれにしても、仕事に対して求職者が多い状況が予想されますし、それがしばらく続くように思えます。中長期的にはどのようにお考えでしょうか。


日詰宣仁:  少なくとも今年いっぱいは、採用マインドが回復する事はないだろうと想定しています。そこで、採ってもらうことが難しいのならば、自社で雇用を生み出せないかと、こちらも考えを切り替えました。具体的には営業代行の会社を立ち上げようと動いています。


高木優一:  ほう、ナイトワーカーの女性に特化した営業代行会社ですね。それは面白い。ハマれば大当たりしそうです。彼女たちのコミニケーションスキルが活かせますね。企業側としても、今雇い入れるのはリスクになるけど、営業は強化したいでしょうから。


日詰宣仁: はい。すでにテストで稼働を始めました。訪問販売をいきなり教えるのは時間がかかるので、まずはテレアポからですが、電話さえあれば、どこでもできるので都合がいいです。とある商材を企業からお任せいただき、電話をかけてアポを取り、それなりに売り上げも上がっています。もしこれがうまくいけば、全国の女性を巻き込めるかなと期待しています。


高木優一: 本来コロナ禍でなければ、訪問した方が成約が上がりますよね。対面の方が得意な方が多いだろうし、ビジュアルも活かせるだろうし。電話だとちょっともったいない(笑)。差し支えなければ商材は、具体的にはどんなものを扱ってらっしゃるのでしょうか?


日詰宣仁:  まだ始めたばかりで商材は探っている段階ですが、まずは飲食店向けのアプリの導入をやってみました。デリバリーの需要に対応できる商材ということもあり、実績は好調です。ただ、店舗が集まるエリアに集中し、導入したら終わりの商材です。永久に需要が続くわけではありません。多くの代理店が競合するので難しい面もあります。やり切ったら終わりで、次に行かなければなりません。


高木優一:  当たり前ですけれど、簡単ではないのですね。でも、短期間でビジネスモデルを切り替えてそこまで動いていらっしゃるのは率直に凄いと思います。展望も広がりますよね。


日詰宣仁:  需要が継続するものであれば、正直言って商材は何でもいいと思っています。それこそベタですが、企業のアポ取り代行でもいい。そういったものを今、企業さんと交渉して進めているところです。もしそれで結果が出せれば、在宅でもできるし、企業さんから雇ってもらえる可能性も出てきます。実績がそのまま履歴書になりますから。そういった意味で言うと、コロナがなければ考えなかったような展開だし、考えたとしても、これほど早くは動けなかったかも知れません。


高木優一:  いや素晴らしい。こんな時だからこそ、マイナスをプラスに転じて考えることがいかに大事かがよくわかります。日詰さんのお話を伺っていると、可能性がコロナを吹き飛ばすんじゃないかと思えてきますね。


日詰宣仁: ありがとうございます。もう少しお話しさせていただくと、私たちは夜の仕事の女性の昼職への転職支援をしていますが、それがゴールだとは思っていません。仕事がなければ仕事を作ると言う活動は大事ですが、もう一つ、いちばん重要なのが教育だと思っています。


高木優一:  スキルを磨いてもらう、と言うことでしょうか。企業が必要とする人材を育てていく?


日詰宣仁:  もちろんそれもあります。パソコンに触ったことがない人もいますからね。マインドの点も大事で、昼間の仕事とはこうだよ、と言うような気持ちの切り替えから徹底的にやり込んだ上でご紹介していこうと考えています。今まではリソースがなかったのですが、そのシステムを作り始めました。このご時世なので動画で受けられる研修講座ですが、まもなく出来上がる予定です。


高木優一:  そこまでやってもらえたら、企業側も安心して採用ができますね。女性側から見ても相談したくなるし、サポートしてもらいたいと思うはずです。転職に対する不安の払拭にもなるし、転職してからの定着率も良くなるでしょうね。


日詰宣仁:  コロナを経ても夜の仕事は一定数残るはずです。であれば夜から昼への仕事で悩む女性は後をたたないでしょう。そうしたときにも当社はパイオニアであり、ナンバーワンであり続けたいと考えています。仕事があるからといって単純に紹介するのではなく、一人ひとりの強みを伸ばして、寄り添えるような会社であろうと。コロナのおかげというと語弊がありますが、そこに注力することができるようになりました。


高木優一:  それこそ今後、何千人何万人と言う夜の女性の雇用を支えていきそうな勢いですね。下ばかり向かずに、上を向いて突き進むことの大切さを痛感しました。逆境にめげない日詰さんのような若い経営者とお話ができ、私も元気をいただいた感じです。今後の活躍にも期待して注目しています。本日はありがとうございました。