日常生活で腰痛に関して信じ込んでいる“あるある”。クリニックや病院の医師も誤って指導している“あるある”。以下では順番にその誤解を解明していきましょう。今回は、その第1回目です。


✖ 腰が痛い人は痛みが取れるまで安静に

腰痛診療ガイドラインには「急性腰痛に関しては、安静よりも活動性維持の方が有用である」と書いてあります。いきなり起こった腰痛(急性腰痛症・ギックリ腰)で、痛みのため動きがとれずに、当日、もしくは翌日くらいまで安静にせざるを得ないという状況はやむを得ません。しかし、いつまでも休んで寝ていないで、可能なかぎり普段の生活に近付けていくという営みは、とても大切です。これは日本だけでなく、他の国々の腰痛ガイドラインにも同様な記載があります。

一方で、「それでは可能な限り、普段と同じ生活を心がける」ということで、歯を食いしばって痛みに耐えながら普段と同じように生活して、かえって痛みが増してしまう方がいるのです。あくまでも、「じっと安静にしているよりは、少しずつ動いてください」ということであって、決して無理を強要するものでないことにご注意ください。

 3カ月以上腰痛が続いている慢性患者さんでは、むしろ腰痛は動かして治すと考えなくてはいけません。これもガイドラインに強く推奨すると明記されています。すなわち長引く腰痛患者さんでは、安静にしていてよくなるのを待っていても、弱っていくだけなのです。


✖ 腰が痛い人は重いものを持ってはいけない

腰痛患者さんは、あらかじめ答えを想定した上で「重いものは持たない方がいいですよね?」と聞いてきます。それに対して医師も「無理して重いものを持たない方がいいですね」と指導することが多いかと思います。患者さんはそれを「そうか、腰が痛いうちはやっぱり重いものを持ってはいけないのだ」と少し違って納得してしまうのです。「持ってはいけない」のではなく、「無理してはいけない」だけなのです

そこで質問なのですが、重いものって何㎏以上を指すのでしょうか。もちろん具体的な数値などあるわけもなく、個人個人によって異なると思います。あなたが、5㎏を重いものと仮定した場合に、4.9㎏まではOKで、5㎏からNGなのでしょうか?たった100gの違いで合否が分かれる?そんなことはないでしょう。ですから、軽いものから始めて、徐々に重量を増して慣らしていけば良いのだと思います。重いものを持たない・持てないと逃げるのでなく、持てるような体を徐々に作っていただきたいものです。


✖ 腰が痛い人は体をそらしたり、ひねってはいけない

これも多くの方が誤解しています。トイレで大きいものをしてお尻を拭く時には、体をそらしたり、ひねったりしなければ、不可能だと思います(一部の前から拭く人を除く)。自転車に乗る時だって、少しはひねらないと乗れません。したがって厳密な意味では、多少は腰をそらしたり、ひねったりしない限り、日常生活はできないのです。そうなると、「重いもの」の場合と全く同じで、徐々に慣らして行き、そらしたり、ひねったりが無理なくできるようにするべきだと思います。「そらしたり、ひねってはいけない」と指導する医師もいますが、私にいわせれば、自分ができないことを他人に強制するのはいかがなものかと思います。


まとめ

今回の3つの“あるある”に共通するのは、腰痛がある場合には何事も「無理せず行う」「適度に行う」という点です。安静にして動かない、重いもの持たない、体をそらさない、体をひねらないといった「〜しない」というのは誤りです。



監修

アレックス脊椎クリニック  院長

吉原 潔(よしはら  きよし)


PROFILE

日本医科大学卒業 医学博士。

卒業後は日本医科大学の付属病院および関連病院で研修・勤務する。日本スポーツ協会公認スポーツドクターでもあり、社会人リーグやプロスポーツ選手の治療に当たってきた。その後、帝京大学溝口病院整形外科講師、三軒茶屋第一病院整形外科部長を経て、現在はアレックス脊椎クリニック院長。脊椎内視鏡手術のパイオニアだが、スポーツ医学との接点が多く、フィットネストレーナーの公認ライセンスも所持(NESTA:全米エクササイズ&スポーツトレーナー協会)。筋力トレーニングおよび体重管理にも造詣が深い。


ホームページ

アレックス脊椎クリニック  https://ar-ex.jp/spine

黒河内病院  https://kurokouchi.or.jp/index.html

腰博士 https://koshihakase.com

M+ POWER https://m-pluspower.com


著書

◆脊柱管狭窄症 腰のスーパードクターが伝授する 最新最強自力克服大全(わかさ出版)

◆脊柱管狭窄症 腰の名医20人が教える最高の治し方大全(文響社)

◆ひざ痛・変形性ひざ関節症(文響社)

◆腰の痛い人が読む本(エイ出版社)

◆腰痛を自力で治す本(ベースボールマガジン社)

ほか

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