多くの業種、ビジネスに、

多大な停滞を巻き起こしたコロナ禍2020。

しかし、予想だにしなかった意識の変化や行動の変化が生まれたことも事実です。

マイナス要因をプラスに転じさせ、

未来をより良く変えようとする意志もまた、

コロナを経て高まっているエネルギーの一つ。

そんな世界に影響を与えるような

エネルギッシュな経営者を

区民ニュース創業者高木優一が掘り下げます。


不安や抑圧から生まれた過剰な反応

高木:  緊急事態宣言を受けた4月の半ば頃、豊島区の職員が威力業務妨害で逮捕される事件が起きました。時短営業をしていた南大塚の飲食店に「営業するな、火をつけるぞ」と書いた段ボールを貼り付けたとか。それが区役所の職員だったと言うことでちょっとしたニュースになりました。他にもスポーツクラブのガラス戸が石で割られたり、県外ナンバー狩りが各地で騒がれ、行き過ぎた自警団、いわゆる「自粛警察」が跋扈しましたよね。真鍋さんは、ああいった行動に至る心理やその背景にあるものをどのように見られていますか?



真鍋:  3月に入って感染拡大が急速に広がりましたが、今振り返ってみると、厚生労働省が6月に発表した抗体検査の結果では東京都で0.1%くらいだったのではないかと言われています。実態としてはそんなに多くなかった。ただ、いたずらに恐怖をあおる報道が過剰なまでに発信されていたため、いわゆる「インフォデミック」と言う状態になりました。インフォメーションと感染症の急速な拡大を指すエピデミックを合わせた造語ですが、それが一気に広がり不安感だけが増大していきました。ひとつにはこうした背景があったのではないかと推測しています。


高木:  今はテレビだけではなくスマホからもじゃんじゃんニュースが入ってきますからね。しかも、いいことよりも悪いことの方がニュースになりやすい。不安を掻き立てるような。我々はそういった情報を浴びせられてますよね。


真鍋:  そうなんです。しかもその量が昔と比べて尋常ではありません。ある調査によると、百年前のスペイン風邪の時に比べて、情報伝達力は150万倍になっているとの驚きのデータもあります。2010年代に入ってスマホがその主役に躍り出ました。テレビから押し寄せる恐怖をあおる報道だけでなく、ネットからも根拠不明な情報が押し寄せます。それによって言い知れぬ不安を募らせてしまう人たちは、そのひたすら増大する不安を解消するために、リスクをゼロにしたいと思ってしまうんですね。そして自分だけでは収まらずに、全員が全員、同じことをしなければいけないという考えに至ります。権威に寄り掛かる解決法ですね。政府や自治体が、休業やマスク着用などの要請を出すと、それが絶対的な不文律となります。いわゆる「同調圧力」です。そこから外れる人は許せない。となって、自粛警察が同時多発的に出現してしまったわけです。



高木:  なるほど...でも、それが原因で潰れる店なんかも出てくるわけですから、シャレにならないですよね。コロナ時代はそういった危険性も経営に織り込まないといけないのでしょうか。創業50年、60年続いた老舗のお店がスマホで殺される、なんてことにもなりかねない。


真鍋:  十分にありえますね。「指殺人」と言う言葉があるのはご存知ですか? 韓国で有名人をネット上でバッシングして、自殺に追い込んだことを的確に表した言葉なのですが、スマホを使って、つまり「指」で書き込んで相手を殺すということから命名されました。


高木:  韓国のアイドルグループの子が自殺した事件ですね。日本のプロレスラーの女の子、木村花さんもそうだ。指殺人! 言い得て妙だけど嫌な言葉ですね。書き込みなんて見なきゃいいのに、見ちゃうものなんですね。



真鍋:  見ちゃうんですよね。書き込みが束になってやってきますから。発信する側からすると、結局指でできちゃうというのは楽なんですよ。しかも「死ね」とか「消えろ」とか面前では本人に絶対に言えないことでも、距離が離れていて、文字ベースで、打ち込むだけで済んじゃうと、簡単にできてしまうんです。


高木:  いつからそんな風になったんですか? それこそYahoo!の記事に対して書き込みをする人っているじゃないですか? あの心理が理解できません。感動したり、ポジティブな内容ならまだしも、誹謗中傷や脅しめいたものが少なくない。Facebookのニュースサイトだと顔も名前も出ますよね。なのに暴力的なコメントや暴言が後を断ちません。書き込むことが楽しくなっちゃうんでしょうか?


真鍋:  ソーシャルメディアで自分の書いた投稿がリツイートされたり、「いいね!」がいっぱいつけられることを「バズる」って言うじゃないですか。あれと一緒でYahoo!のコメント、いわゆるヤフコメも、ニュース記事が出た早い段階でそれなりに受けるようなコメントをすると、「いいね!」がすごくたくさんつくんですよ。そして脳科学的には、それによってドーパミンが放出されることがわかっています。脳にとっては快感なので止められなくなるんです。



高木:  え、それってパチンコと一緒ですか!? 777と数字が揃うと脳内モルヒネがどうだとか、聞いたことがあります。パチンコにハマったり、依存するような思考と似ているんでしょうか? 私にはパチンコをする人の気持ちもわからないので、やはり理解を超えていますが…


真鍋:  まさにそう、パチンコと一緒です。投稿やコメントも、この内容なら絶対に当たる、というのが実はないじゃないですか。パチンコも同じでいつ当たるかわからない。そのランダム性という要素も中毒性に拍車をかけているんです。自分が自覚していなかった投稿に突然「いいね!」がたくさんついたり、予期せずにリツイートがカンガン伸びていくので、そのまぐれ当たりによってドーパミンがいっぱい出るんです。だからまたやりたくなる。パチンコの依存症とSNSの依存症は、脳科学的には同じだと思います。


高木:  だとすればやはり、何らかの規制は必要となってきますね。中毒なんだから。スマホもSNSも欠かせなくなり、コロナ禍ではますます利用が増えていきます。自分の子どもが赤の他人の誰かもわからない人に、指先ひとつで殺されたりしたら、親としてやるせなすぎますよ。



真鍋:  アイドルは有名税だから仕方がないみたいなことを言う人もいますが、SNSの場合、事務所が本人にやらせていたり、プロモーション的に必要なケースもあります。当然、本人が自分で投稿してない場合もあります。そこら辺は十分に考えなければならないところでしょう。SNS側も規制を検討すべきでしょうね。「死ね」とか「殺す」って、もう脅迫以外の何物でもないですから。


高木:  先程の繰り返しになりますが、やはりこれからの経済活動、会社経営は、ネットのリテラシーやSNS対応を盛り込まないといけませんね。何かちょっとした発言をするだけで「生意気だ」とか「ふざけんな」なんて言われちゃうわけでしょ。意味がわからないですよ。


真鍋:  自粛警察といわれる人たちは、国や自治体が示す基準を守っている業者に対しても敵対する場合があります。究極的には常識やルールは関係ないんですね。個人の主観でこいつはうるさいとか、目障りだとかで動いているんです。


高木:  それってクレーマーじゃないですか。さっきお昼を食べた焼肉店でいましたよ。店員さんに「このマッコリ飲んでみろ、まずいだろ、金払わねーからな」みたいなこと言って揉めてました。まさに主観でしかないし、クレーマー以外の何者でもない。


真鍋:  全部が全部と言うわけではありませんが、大体そういった方は、心に余裕がなくて孤立している人が多いと言われています。いわゆる大くくりの社会的な弱者に入る人たちです。この問題はつまり、社会的弱者をどうするかという問題にもつながってきます。ちなみに、この社会的弱者は、必ずしも経済的弱者を指していません。お金を持っていても現状に満足していない人、コミュニティに恵まれていない人なども含まれています。そもそも、他人に過剰に関心を持つのは、自分が不幸、というかストレスや抑圧を受けている心理的な動機が背景にあったりします。



高木:  芸能人の浮気が発覚すると寄ってたかって罵声を浴びせますよね。他人の家庭の事情なんだから、人が口を出すことでもないし、そんな筋合いもないはずなのに、謝罪をしろだとか、会見を開けなどと言って追い込んでいく。あの過剰な関心ややっかみも、ストレスや抑圧から来ているのかもしれませんね。


真鍋:  それだけ人生をつまらなく感じている人が多いんでしょうね。例えばブラック企業みたいなところで働いていて、普段から我慢をしたり抑圧を受けていたりして、面白いと思えることが1つもない。それでも友達と遊ぶとか、趣味で打ち込むものがあって発散していれば良いのですが、それがうまくできていないと、身近にあるスマホを手に取ってしまい、単純に接触時間が増えてしまいます。今回の場合だと、コロナ禍での自粛ストレスの反動といえる面も大きく影響したと思います。


高木:  そして、それが指殺人につながるようなケースが出てきてしまうと…たまったもんじゃないですね(苦笑)



「断捨離」と「考える時間」によって変化した価値

高木:  自粛警察は、一部の歪んだ思いがコロナによって顕在化した出来事だと言えそうですが、コロナで変化した価値観と言う点ではいかがでしょう? コロナによって変わったこと、変わっていかなければならないこと、たくさんあると思います。特にリモートワークは、働き方や経営のあり方の価値を大きく変化させたのではないでしょうか?



真鍋:  変化は当然ありましたね。緊急事態宣言が明けて6月に入り、通勤をいきなり通常に戻した会社が相当数あり、SNS上でも批判が噴出しました。大手でも、いわゆる昭和型の会社で出社を求める例が少なくなかったですね。しかしながら、通勤しない快適さを知ってしまった人たちがたくさんいるので、これからの働き方や人生の選択に影響が出てくるのではないかと思います。


高木:  少し間引かれると良いのかもしれませんね。対面でなければできないことや、売れない商品はあります。だけど通勤しなくてもできる仕事があったり、全社会議がズームでやれちゃったところもある。フルリモートではないにしろ、出社が減ったり、全国からわざわざ人を集めるような会議がなくなれば、今までのようなすし詰めも満員電車もなくなるかもしれません。


真鍋:  通勤という観点では、3.11のときも話題になりました。間引き運転や計画停電というのもありましたからね。あの時は意地でも出社しようとする人たちで駅が溢れかえっていましたが。企業はそうした災害、コロナも災害と言って良いかと思いますが、通勤が必ずしも合理的ではない、といった状況を前提に、事業の在り方や経営方針を作り替える方向に向かわなければならないでしょうね。それに追いついていない会社は、新しい若い人たちに選ばれないだろうし、優秀な人ほど辞めていってしまうと思います。



高木:  会社の社長や上司が、昔はこうだったとか俺の時代はこうだった、なんて言ってたら笑われますね。無茶な根性論ではなく、実力や能力がこれまで以上に尊重される。そういう意味で働き方や生き方を考えると、コロナで見えてきたことは意外と悪くない。むしろなぜ、今まで気づかなかったのかとさえ思えてきます。


真鍋:  中小企業でもフルリモートをやり始めたところがあるのですが、遅かれ早かれ介護や子育てで必要になってくるのに、なんで今までできなかったのだろうと言う話が出るみたいですね。コロナでそれが可能だと分かってしまったので、制度として恒久化した方が良いと考える会社は増えているようです。


高木:  当たり前に思っていたことが、当たり前じゃなかったり、大事だと思っていたことが、そうでもなかったり、今まで疑問を持たなかったことに対して考えるようになりましたよね。ずっと走り続けていたのに、一斉に立ち止まって足元をマジマジと見たような感覚、とでも言うのでしょうか。



真鍋:  コロナ禍で自宅にいたり、仕事が少なくなって、自分でいろいろ考える時間ができた人は多かったと思います。あの時期、断捨離をする人がすごく増えたじゃないですか。ウチもやったんですが、結果として部屋がすっきりして、視界がクリアになりました(笑)。今までの自分の人生やそれまでの軌跡を含めてよかった面、悪かった面を自然に考える時間ができたと思うんですよ。つまり、心の断捨離も進んだとのではないかと。今、直接会う必要がある人は誰かとか、大切にすべき価値とは何なのかとか、そんなことをなんとなく念頭におきながら動いていた人も多いはずです。


高木:  そういう意味では、忙しくて普段考えないようなことを多くの人が考えたし、企業も総力を挙げて対策に尽力しました。結果として、すぐにではないかもしれませんが、変化は確実に出てくると思います。アフターCOVIDは、良い方向に変わっていくかもしれませんね。


真鍋:  いろんな方が言っていますが、普通なら10年かかるところをこのコロナ禍によって変化が速まったという側面はあります。いずれは技術の進展により起こったことかもしれませんが、コロナの騒ぎがなかったら、ここまで加速する事はなかったと思います。うすうす感じていた会社の将来性のなさをはっきりと認識してしまったり、苦手な上司が決定的に嫌いだと気づいてしまったケースもあるようですが(苦笑)


高木:  良い事は加速して早く進んでいけばいいし、悪いことも10年後にわかるより、今わかってよかったのかもしれませんね(笑)。コロナ禍の社会を的確に捉えられている非常に興味深いお話でした。本日はどうもありがとうございました。




PROFILE



真鍋 厚

Atsushi Manabe


評論家、著述家 1979年、

奈良県生まれ。

大阪芸術大学大学院修士課程修了。

出版社に勤める傍ら評論活動を展開。

著書に『テロリスト・ワールド』(現代書館)、

不寛容という不安』(彩流社)がある。

「東洋経済オンライン」、

「withnews(朝日新聞)」「日刊SPA!」

「現代ビジネス」に社会問題などを論じる

コラムを執筆している。




高木 優一

Yuichi Takagi


合同会社区民ニュース代表

株式会社トータルエージェント代表取締役

合同会社春光舎代表


相続専門の不動産コンサルティング事業

を展開する一方で、

狭小エリアメディアとしての

区民ニュースを創始。

かわさきFM「不動産・相続お悩み相談室」

では7年にわたって

ラジオパーソナリティを務める。

ゲスト出演者は経営者、起業家、弁護士、

政治家、評論家など多岐に及び、

これまでに延べ約90人との対談を

実現している。