Photo:長谷部ナオキチ



多くの業種、ビジネスに、

多大な停滞を巻き起こしたコロナ禍2020。

しかし、予想だにしなかった意識の変化や行動の変化が生まれたことも事実です。

マイナス要因をプラスに転じさせ、

未来をより良く変えようとする意志もまた、

コロナを経て高まっているエネルギーの一つ。

そんな世界に影響を与えるような

エネルギッシュな経営者を

区民ニュース創業者高木優一が掘り下げます。


◆GUEST PROFILE◆

甲賀 香織

Kaori Kohga


1980年 埼玉県生まれ。

2002年 青山学院大学文学部卒業

2003年 出産後、

無農薬栽培のお米の通販事業を立ち上げる

2006年 (株)ベンチャー・リンクに入社。

(株)カーブスジャパンに出向し、

創業期スーパーバイザーとして

600店舗を支援。

2008年 水商売の現場経験のため

銀座『ル・ジャルダン』に入店。

2010年 (株)TrueHeartを設立。

2011年 「お水大学」を創設。

多数の方々の独自のノウハウをまとめる。

2018年 一般社団法人日本水商売協会を設立。


趣味・特技:

運動(クラブチームに所属して陸上競技[短距離]を走る)

料理(どんなに忙しくても、毎日手料理を作るのが日課)


好きな言葉:清廉潔白


サイト:https://mizusyobai.jp/

ブログ:https://ameblo.jp/trueheart-info/


自民党への陳情がテレビ中継されて話題に。

高木優一: 緊急事態宣言真っ只中の4月9日、自民党の岸田政調会長(当時)に陳情にいかれた様子がメディアで大々的に報じられました。私も甲賀さんのお顔を何度かテレビのニュースで拝見しましたが、あの報道で「日本水商売協会」の存在を初めて知ったという方が多かったと思います。まずはどういった団体なのか、お聞かせいただけますか。


甲賀香織: 一般社団法人日本水商売協会というのが正式名称になりますが、業界の活性化と健全化を目的に2018年に設立しました。お店と働く女性、お客様、社会の4方向のWin–Winを理念に活動しており、わたしが代表理事を務めさせていただいています。あの陳情も当協会の活動の一環になります。


高木優一: 「接待を伴う飲食店」が名指しでクラスター源のような報道をされていましたが、給付金や補助金、セーフティネットなどのコロナ緊急支援対象からは除外されていましたよね。確かそのあたりを要望されたと記憶しています。


甲賀香織: おっしゃるとおりです。そもそも接待飲食業は、風営法が適用されている業種なのですが、お店の名前では新規の銀行口座が作ってもらえないなどのいろいろな制約があるんです。暴力団と同じ「反社」と同等に扱われてきました。でも実際は、多くの店が法令に従っていて、納税もきちんとしています。加えて名指しをされたこともあり、コロナでは最も打撃を受けました。支援がなければ立ち行かなくなってしまうので、Webで署名を集めて持っていきました。


高木優一: それにしてもすごい注目をされましたよね。もっとも、ちゃんと税金を払っているんなら、除外されるのがそもそもおかしいですよ。これまでの慣例通りで風営法業者はダメだ、なんて言い続けていたら、時代に合わないし、弱い者いじめをしているようにも見えてきます。与党としてもどこかで手を打ちたかったというのはあったのかも知れませんね。


甲賀香織: 当日はテレビカメラと報道陣の数が尋常ではありませんでした。事前に各社に通達を出したとは聞いていましたが、マスコミのほぼ全社が来られていたかと思うくらいです。銀座のママとホストクラブの方を連れ立って伺ったので、絵的にも良かったのかも知れませんが...


高木優一: 夕方と夜と朝、繰り返しニュースでやってましたからね。コロナでの支援活動や国民を分け隔てなく守る姿勢をアピールしたかった、という意図はあるでしょうね。実際陳情は全て受け入れてもらえたのでしょうか?ホームページを拝見したところ、持続化給付金、雇用調整助成金、セーフティネット保証5号、家賃の減免措置などが出ていたかと思いますが。


甲賀香織: 給付金、助成金、融資に関しては全面的に○。家賃関係は△。なかなか難しく、未だに交渉をしている部分があります。ただ、融資については、これまで公庫の基準や信用保証協会から風俗営業全般が排除されていた事を考えれば、それを改善できたことは大きかったです。制度そのものを覆すことができましたから。コロナ禍だけにとどまらず、未来につながる意味で大きな前進になりました。


高木優一: 実際に救われた方やお店は多かったんですか?それこそ融資などはデリケートな問題なので、なかなか状況を把握しづらいところだとは思いますが。


甲賀香織: 知り合いで六本木と歌舞伎町に2店舗経営されているオーナーがいるのですが、1店舗3000万円、2店舗合計で6000万円の融資が受けられたのだそうです。実はその方、私たちが陳情にいく以前にも融資を申し込んでいたようなのですが、そのときは水商売だからという理由で申請自体受け付けてもらえなかったとおっしゃっていました。だからとてもありがたかったと。


高木優一: 6000万円!それはデカイ! 甲賀さん、業界の方全員に感謝されていいと思います(笑)


コロナ禍で名指しされた「接待を伴う飲食店」

高木優一: 話が前後しますが、コロナ禍の夜の街の動向はどのようになっていたのでしょう?私ももう半年以上、銀座・赤坂・六本木という、いわゆる「夜の街」の華やかなお店には足を運んでいません。知り合いの並木通りのクラブのママさんは、銀座のお店は10分の1位になっちゃうんじゃないかと言っていました。そのあたり、甲賀さんはどのように捉えられていらっしゃいますか?


甲賀香織: 日本水商売協会自体は全国組織なのですが、コロナの影響を最も受けたのが東京で、いまおっしゃったようなエリアや歌舞伎町など「夜のブランド街」が特に顕著でした。人の出は「未知のウイルスが流行ってきた」という話が大きくなり始めた2月の初旬にはすでに落ち始めていたのですが、決定的だったのは3月下旬、小池都知事が「接待を伴う飲食店」と名指しで危険視してからでした。夜の街が感染源のように思われ始めたのです。


高木優一: 確か緊急事態宣言のちょい前くらいでしたか。都知事選を控えていたこともあり、連日会見をされていましたよね。そのときに、夜の外出は控えるように、接待を伴う飲食店には行かないように、って、毎日おっしゃっていたと記憶しています。市中感染は繁華街以外でも起きていましたが、著名人が亡くなったり、クラスターが発生していた時期でもありましたからね。夜の街から人が消えたというのも耳にしていました。


甲賀香織: そうなる危惧があったので、当協会では早くから対策を打ち出し、感染症の専門医にも監修を依頼して、予防のガイドライン作っていたのですけどね。そして、それが自己満足だと突かれないために、公の機関の承認を得ようと考え、東京都の保健局に審査をお願いしました。それどころではなかったのかも知れませんが、一ヶ月半経っても回答はなく、スルーされてしまいました。


高木優一: 水面下というか、我々の預かり知らないところで、ものすごく迅速に活動されていたんですね。国や自治体も営業を自粛しろとは言うけれど、こういうルールを徹底して営業しなさいみたいなことは言わないですから。「感染防止徹底宣言ステッカー」というのが後からできましたが、あれもいわば自己申告なので、対策が存外適当でも貼れてしまいます。いい加減なお店は減らないから、甲賀さんの危惧も亡くならないでしょうね。


甲賀香織: そうなんです。実際に無防備なまま開けているお店があって、そこで問題が起きると、真面目に営業をしているお店も「接待を伴う飲食店」でひとくくりにされてしまいます。そういう不公平をなくして、お客様に戻ってきていただくためにも、信頼のできるガイドラインの作成と導入を進めていきたいと考えています。


接待飲食店の攻守生き残り策

高木優一: 緊急事態宣言が開けてからの状況はいかがでしょう?6月、7月、8月は、感染者が高止まりで推移して第二波か?とも言われたし、テレワークを続けている会社も多かったように思います。でも9月以降は感染者は大きく下がっていないものの、GoToキャンペーンなども始まり、いわゆる「withコロナ」の感覚が広がったように思います。街に出る人の数は明らかに増えました。都心の夜の街はどうですか?


甲賀香織: それが、歌舞伎町、銀座、六本木などはほぼ変わっていません。六本木は若干入っている日もあるようですが、夜の歌舞伎町は人が歩いていないし、銀座は7〜9割減が続いています。特に銀座は接待文化の街なので、それを支えていたお客様層が戻らない限り、苦戦が続きそうな感じです。


高木優一: なるほど、企業がNGですもんね。銀座で上客になるような大手は、接待するのはもちろん、されるのもダメ。飲みに行くのもダメ。歓送迎会や忘年会、新年会ですら控えるようにとお達しが出ていると聞きます。人出が戻ってきたからと言って、なかなかすぐには客足に結びつかないわけですね。


甲賀香織: 全体として企業のお客様のご利用がない反面、個人のお客様が増えているとは聞いています。それほど多くはないでしょうが。ただ、接待のお客様のように上品な飲み方をされるよりは、にぎやかな飲み方を好まれる傾向があるので、いわゆる「銀座のお姉様」よりは若い女性のいるお店の方がもてはやされているようですが。


高木優一: 銀座でそれはいかんでしょう。極めて個人的な主観で恐縮ですけれど、銀座は銀座っぽいのを残してほしいな。優良店や真面目にやってきた店が立ち行かなくなるのは寂しいですよね。


甲賀香織: 当協会としても、真面目なお店が残っていける状況を支援していきたいと思っています。そのためにも先程話題に挙げさせていただいたしっかりとした予防のガイドライン、それを確立させたいと思い、行政とも連携して打ち合わせをさせていただいています。先日も厚生労働省の換気の研究班の方とお話をしたのですが、換気をひとつ取り上げても、安全か危険かの具体的な指標がありません。これではいつまでたってもお客様に安心してきていただけないし、企業がGOサインを出せません。そこをまずは変えていきたいと思っています。


高木優一: なるほど。その観点でのガイドラインとなると、クラブやキャバクラだけではなく、一般の飲食店や他の店舗施設などにも波及効果がありそうですね。「withコロナ」の遊び方の指標にもなりそうだなぁ(笑)。いや、でもホント、しっかりとしたビジョンで動かれていますね。


甲賀香織: ありがとうございます。一方で、コロナで延期になっていたイベントも開催が決まりました。「ナイトクイーングランプリ」というミスコンの夜版なのですが、エントリーがまもなく始まり、12月にコンテストをスタートさせ、来年3月に本番を迎える予定です。エントリーした女の子たちには、ウォーキングやエステ、レッスンを受けさせ、この苦境の中でどんな想いで仕事をしてきたかを伝えてもらおうと思っています。


高木優一: ファッションショーのような本格的なイベントを想像してしまいますが、イメージ合ってますか?コロナからちょうど1年になる頃がメインなのですね。長らく低迷してしまった業界に活力を与える起爆剤のような、ド派手な花火を打ち上げてください。


甲賀香織: はい、がんばります。残念ながらこのコロナで、お店の数は激減すると思います。半分も生き残れないかも知れません。でも、良いお店が残っていく流れは作りたいです。真面目にやっているお店が報われ、そうでないところが淘汰される。接待飲食業が風俗営業ではなく、一般のお店と同じラインに立てるようになっていけることが理想です。イベントのイメージは…楽しみにしていてください(笑)


高木優一: お話を伺って、守るべきところはきちんと迅速に守りながらも、全体を見渡して、攻める姿勢を持っていらっしゃるな、と感じました。ガイドラインの策定、ナイトクイーングランプリ、どちらも大いに期待しています。本日はお忙しい中ありがとうございました。